Share

-142-

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-06-29 07:10:10

 妙にあどけない表情を目にした途端、啓太郎の中で目もくらむような欲望が突き上げてきた。

 裕貴を抱き締めようとすると、軽く身をよじりながら笑われた。

「外で抱き合ってると、さすがにマズイよ」

「平気で腕は組んでくるくせに」

「おれの癖だよ。腕に引っ付くの」

 鍵を取り出しながらの裕貴の言葉に、咄嗟に啓太郎はこう言っていた。

「――博人さんなら、黙って腕を組ませてくれたか? 甘えたがりの弟を持つのも大変だな」

 啓太郎としては冗談のつもりだったのだが、裕貴はそうは取らなかったようだ。サッと顔色を変えたあと、うろたえたように視線をさまよわせ、おぼつかない手つきで鍵を開ける。

「裕貴……」

「やっぱり、今日は帰ってよ、啓太郎。おれの分のパンはいいから――」

 裕貴が背を向けたまま玄関に入ろうとしたので、反射的に啓太郎もあとに続き、裕貴の腕を取る。

「お前、本当に大丈夫か? なんかおかしいぞ」

 軽く揉み合うようにして玄関に入ると、手探りで電気をつける。啓太郎は裕貴の顔を覗き込もうとしたが、嫌がって顔を背けようとするのでやや強引にあごを掴み上げた。驚いたことに裕貴は、今にも泣きそうな顔をし
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • SWEET×SWEET   -142-

     妙にあどけない表情を目にした途端、啓太郎の中で目もくらむような欲望が突き上げてきた。 裕貴を抱き締めようとすると、軽く身をよじりながら笑われた。「外で抱き合ってると、さすがにマズイよ」「平気で腕は組んでくるくせに」「おれの癖だよ。腕に引っ付くの」 鍵を取り出しながらの裕貴の言葉に、咄嗟に啓太郎はこう言っていた。「――博人さんなら、黙って腕を組ませてくれたか? 甘えたがりの弟を持つのも大変だな」 啓太郎としては冗談のつもりだったのだが、裕貴はそうは取らなかったようだ。サッと顔色を変えたあと、うろたえたように視線をさまよわせ、おぼつかない手つきで鍵を開ける。「裕貴……」 「やっぱり、今日は帰ってよ、啓太郎。おれの分のパンはいいから――」 裕貴が背を向けたまま玄関に入ろうとしたので、反射的に啓太郎もあとに続き、裕貴の腕を取る。「お前、本当に大丈夫か? なんかおかしいぞ」 軽く揉み合うようにして玄関に入ると、手探りで電気をつける。啓太郎は裕貴の顔を覗き込もうとしたが、嫌がって顔を背けようとするのでやや強引にあごを掴み上げた。驚いたことに裕貴は、今にも泣きそうな顔をしていた。「悪いっ、痛かったか?」 慌てて啓太郎はあごにかけた手を退けようとしたが、反対に裕貴に手を取られ、頬ずりされた。その様子を見て、また啓太郎の中で欲望が突き上げてくる。もう、限界だった。「……お前のその甘えっぷりが無意識だとしたら、大したもんだ」 啓太郎は低い声で呟きながら、裕貴の髪に唇を押し当てる。すると裕貴が挑発するように上目遣いで見上げてきながら、囁き返してきた。「何が、大したもの?」 裕貴が、答えをわかっていながら問いかけていると知りながら、啓太郎は乗ってしまう。片手を伸ばしてドアを施錠すると、しっかりと裕貴を抱き締めた。「俺はお前に、翻弄されっぱなしだ」 もう一度裕貴の顔を覗き込むと、もう泣きそうな顔はしていなかった。あどけないくせに、やたら蟲惑的な目にじっと見つめられ、啓太郎は心の中でも痛感する。  冗談ではなく、やはり自分は裕貴に翻弄されている、と。その状態が、このうえもなく心地いい。 啓太郎はシューズボックスの上にパンが入った袋を置くと、裕貴の首からマフラーを外し、ダッフルコートを脱がす。すぐに裕貴のほうからしがみついてきたので、その体を引き離

  • SWEET×SWEET   -141-

     車に戻ると、裕貴はぐったりしてシートに体を預け、目を閉じていた。運転席に乗り込んだ啓太郎は、裕貴の髪を掻き上げてやりながら声をかける。「おい、大丈夫か」 「……人に酔ったのかな。頭痛い……」 買ったパンを後部座席に置いてから、啓太郎はすぐに車を出す。青い顔をしている裕貴には申し訳ないが、小さくこう洩らしていた。「お前は本当に――」 「手がかかる、って言いたい?」 啓太郎の言葉を引き継ぐように、裕貴が力ない声で言う。頭が痛いというわりには、減らず口は健在だ。啓太郎は唇を綻ばせる。「繊細だな、と言おうとした」 横目でうかがうと、裕貴は照れたような表情となり、たまらず啓太郎は裕貴の片手をきつく握り締めてやった。「そんなふうに言うの、啓太郎ぐらいだよ」 「博人さんも言いそうじゃないか。可愛い弟に、欠点なんてないって顔して、お前のことを見ている。今日だって、お前と一緒に過ごせて嬉しそうだった」 再び裕貴の表情が曇り、反対に啓太郎の手を握り返してきた。「啓太郎がついてきてくれなかったら、行かないつもりだったんだ……」 どうして、と気軽に聞けない雰囲気だった。裕貴はすぐに手から力を抜き、シートを倒すと、目を閉じてしまう。  そんな裕貴が儚く見え、啓太郎はむしょうに抱き締めたい衝動に駆られる。別に今の裕貴の姿だけに刺激されたわけではなく、博人の存在も関係あった。 おそらく博人は、裕貴の側にいる啓太郎をよくは思ってないだろう。一方で啓太郎も、裕貴に過保護な博人に対して、どうしても身構えてしまう。  今の生活を脅かそうとしている侵入者、と捉えているのかもしれない。 ようやくマンションに着いた頃には、外は薄暗くなっていた。車のエンジンを切って裕貴に声をかけようとすると、実は目を閉じていただけだったのか、すでに裕貴は体を起こし、シートを戻そうとしているところだった。  さすがの啓太郎も多少の疲れを感じながら、マンションに入る。「……頭が痛いなら、もうお前の部屋に寄るのはやめておこうか? すぐに横になりたいだろ」 エレベーターの中で啓太郎が言うと、甘えてくるように裕貴が腕を掴んできた。まだ夕方なので、さすがに人目に気をつけるべきなのだろうが、絡みついてくる裕貴の腕を振り解くことなど、啓太郎にはできなかった。「お茶ぐらい飲んでいきなよ。……誰もいな

  • SWEET×SWEET   -140-

    ** どこかで食事をしないかという博人の誘いを断った裕貴は、啓太郎とともに帰路につきはしたものの、車の中で口を開こうとはしなかった。何かを考え込むように唇を引き結び、じっと前を見据え続けていたのだ。 そんな裕貴は両腕で、大判の封筒をしっかり抱えている。ショウルームでもらったカタログに、作ってもらったプランの用紙が入っていた。見積りをしてもらう前に、変更したいことがあったらいつでも連絡してこいと言って、博人が渡したものだ。「裕貴、パン屋か弁当屋に寄って帰るか? お前も今日は疲れただろうから、買ったものを食って休めばいい」 「……啓太郎と兄さんて、考えること同じだよね。食い物でおれを釣ろうとする」 返ってきた言葉の内容云々より、裕貴が口を開いたことに啓太郎はほっとする。 信号待ちで車を停めると、片手を伸ばして裕貴の頭に触れる。「わからないからだろ。お前が本当は何が好きなのかとか、どんな言葉を言ってほしいのかとか。大人はズルイからな。手っ取り早い方法を取りたがるんだ」 「オヤジみたいな言い方……」 お前なあ、と苦々しく洩らした啓太郎だが、次の瞬間にはうろたえてしまう。頭にのせた啓太郎の手を取り、裕貴がしっかりと握り締めてきたからだ。「裕貴……」 「別に啓太郎に、気の利いた言葉なんて期待してないよ。啓太郎は、そこにいてくれたら、それだけで楽しいんだ」 「楽しい、か?」 素直に喜んでいいのだろうかと考えていると、スッと手が離される。前を見ると、車が進み始めているところだ。  再び車を走らせた啓太郎は、裕貴の機嫌が少しはマシになったのを感じ、思いきって気になっていることを尋ねてみた。「――お前、今日のことどう思った」 「今日の、こと?」 「お前の実家のリフォームのことだ。なんで今なのか、ってな」 裕貴は小さく声を洩らしてから、膝の上に置いた封筒に指先を這わせた。「よく、わからない。リフォームのことは、おれが寝ている間に決まったみたいなんだ。確かにおれも、疑問には感じるよ。兄さんが進めればいいのに、っていう意味で。別におれだけの実家じゃないんだから、兄さんが好きにしても文句なんて言うつもりはないんだ。ただ、あの女さえ家に入れなければ……」『あの女』とは、博人の妻である千沙子という女性のことだろう。裕貴の周囲には、それ以外に女性の存在はな

  • SWEET×SWEET   -139-

     それに気づいた係員が声をかけようとして、すかさず博人が、しばらく自由に見させてやってほしいと声をかけた。  啓太郎はなんとなく、博人と並んで裕貴の姿を目で追いかける。「――裕貴から聞きましたか、家のリフォームのこと」 急に博人に話しかけられ、内心身構えながらも啓太郎は頷く。「ええ。言い出した本人である親父さんは、もう日本にいないと」 「旅先で父親と話していたら、人が住んでいなかったせいか、実家が荒れてきていると言い始めたんですよ。それはわたしも感じていたので、床と壁を張り替えて、ついでに水廻りも裕貴が使いやすいようにしてやろうということになったんです。どうせ料理は、裕貴しかしませんし」 「けど、リフォームしたって、誰も住まないのに」 そう言ったのは、収納の扉を開けていた裕貴だ。挑むような強い眼差しを博人に向けると、当の博人は軽く肩をすくめる。「そうは言うが、またお前が住むかもしれないだろ。父さんだって、お前の好きなようにリフォームしろと言ってくれたんだ。この機会に手を入れるのが一番いい」 「……金だけ出して、面倒なことはみんなおれと兄さんに押し付けるんだから、父さんはズルイよ」 「今に始まったことじゃない。それに父さんはズルイんじゃなくて、何もかも息子たちが処理して当然と思っているんだ。――諦めろ。それが俺たちの父さんだ」 やけに説得力のある口調で博人が言い、裕貴も本気で腹が立っているわけではないのか、今度は昇降フードの高さを確かめ始める。  その様子を見つめながら啓太郎は、寸前まで兄弟が交わしていた会話を頭の中で反芻していた。 誰も住まない家をリフォームするということは、よく考えてみれば奇妙だ。いくら父親が言い出したとはいえ、先延ばしにすることは可能だろう。裕貴が実家に戻ると言い出したときに取り掛かればいいことだ。 少なくとも裕貴は実家に戻る気はなさそうだが、博人のほうは――。 横目で博人を見ようとしたとき、スッと博人が足を踏み出し、裕貴に歩み寄る。「色は、白はありがちだから、パステル系のイエローとかブルーとかが明るくていいんじゃないか」 「男しかいない家なのに、パステルカラー?」 「なら、木目は」 「……黒もいいかなあ」 「向こうに色見本があるから見てこよう」 博人の手がさりげなく裕貴の肩にかかり、見ていた啓太郎のほ

  • SWEET×SWEET   -138-

     先を歩く博人の背を見つめていると、軽く腕を引っ張られる。見ると裕貴が、らしくなく申し訳なさそうな顔をしていた。「……そんな顔するぐらいなら、最初から正直に言えばよかっただろう」 からかうように啓太郎が言うと、裕貴はぎこちなく笑う。「兄さんが待ってるって言ったら、啓太郎来てくれないかと思ったんだ」 「どうして」 「兄さんのこと、苦手だと思ってるだろ」 裕貴の鋭い指摘に、啓太郎はドキリとする。確かに、博人の怜悧な雰囲気は少し苦手だ。何より、裕貴に甘すぎるほど甘い兄に対して、啓太郎はどう接すればいいのかわからない。おそらくこの気持ちは、裕貴と関係を持っていることに対する罪悪感の現れだ。 他人の大事なものに、啓太郎は手を出している最中なのだ――。  こういう表現はまるで自分が泥棒になったようで嫌なのだが、博人の前に立つと、どうしてもそんな気持ちに陥ってしまう。  啓太郎のそんな気持ちを察したのか、手袋を外しながら裕貴はなんでもないことのように言った。「無理ないと思うよ。おれが絡むと、兄さんは誰に対してもあんな感じだから」 「あんな感じ?」 「なんか嫌な感じ」 裕貴の言い方に、思わず啓太郎は短く噴き出す。「お前、自分の兄さんだろ」 「弟だから、こうはっきり言ってあげるんだ。だけど、いくら言っても治らない。……多分、ずっとあのままなのかな」 裕貴の横顔が怖いほど真剣なものになり、博人の背を見つめている。啓太郎はそんな裕貴の横顔に見入ってしまう。啓太郎の視線に気づいたのか、すぐに裕貴は腕を取って引っ張ってくる。「ほら、行こう」 裕貴に引っ張られるまま、三人でまず向かったのは、地下一階にある内装材のコーナーだった。ダイニングの壁と床を張り替えるらしく、係員の案内の元、裕貴と博人は何か話し合っている。  啓太郎は数歩後ろに下がって見ていたが、裕貴は他人と話すのが嫌らしく、豊富な種類が並ぶ壁材の見本を見ては、手元のカタログを指差し、博人にだけ話しかける。すると博人が、まるで裕貴の言葉を翻訳するように係員に伝えていた。 この兄弟は、ずっとこんな形で他人と接してきたのかと思うと、疎外感よりも、二人が作り上げた世界を素直に羨ましいと感じる。他人である啓太郎では、どう逆立ちしても兄弟の世界に入り込むことは叶わない。 裕貴は、床や壁にはさほど興味がな

  • SWEET×SWEET   -137-

    **「――で、いい加減どこに行くのか、教えてくれないか」 車を走らせながら啓太郎が口を開くと、裕貴はメモ用紙を手渡してきた。ちらりと視線を落とす。何があるのか、ただ住所が書いてあった。「ここに行けばいいのか?」 「うん……」 この住所に何があるのか尋ねる前に、裕貴は憂鬱そうなため息をつく。車に乗ってから、こんなため息ばかりついている。よほど、行きたくないのだ。「――……この間まで、父さんが帰ってきてただろ?」 ようやく裕貴が話し始めたので、啓太郎は前を向いたまま頷く。「どうしてこんなことになったのか知らないけど、急に実家のリフォームをするって言い出したんだ」 「建て替えか?」 「そう大げさなことじゃなくて、内装を変えるみたい。あと、水廻りも」 「で、言い出した当人は、もう日本にいないと」 裕貴は大きく頷き、苛立ちを含んだため息をまた洩らす。こうやって、裕貴は父親に振り回されてきたのかと思うと、悪いと感じつつも笑ってしまいそうになる。「そりゃ大変だな。よりによってお前に任せるなんて」 「いや、任されたっていうか……」 珍しく裕貴が口ごもり、うかがうように啓太郎の顔を覗き込んできた。「どうした?」 「ううん。……これから行くところ、ショウルームなんだ。そこで、いろんなものを見られるみたいで、一度自分の目で見ておくほうがいいかなって」 「お前一人で選ぶのか? 責任重大だな」 何げなく言った啓太郎の言葉に、裕貴は返事をしなかった。 その理由を、大きなショウルームの一階に足を踏み入れて、やっと啓太郎は理解した。「――裕貴」 一階に置かれたソファに腰掛けていたスーツ姿の博人が、裕貴の姿を見るなり立ち上がる。そして、裕貴の背後にいる啓太郎の存在に気づき、驚いたように目を見開く。ただ、驚いたというなら啓太郎も同じだ。  博人の存在は、悪いが頭からストンと抜け落ちていた。だが冷静になって考えてみれば、いくら実家のこととはいえ、引きこもりの裕貴が自らの意思で精力的に動き回るはずがない。 自分の髪を掻き乱した啓太郎は、裕貴のため息の意味がやっとわかり、天を仰ぎ見る。  大手メーカーのショウルームは、大きいだけでなく、非常に明るくて客が多かった。裕貴にはさぞかし居心地が悪いだろう。ボディーガードを二人も必要とするほど。 視線を戻すと、

  • SWEET×SWEET   -132-

     まずは自分の泡をシャワーで洗い流してから、啓太郎は丁寧に裕貴の髪に湯を当てていく。指で髪を濯いでやるたびに、くすぐったそうに裕貴は首をすくめ、口元を綻ばせた。「啓太郎って、実は子持ちじゃない? 妙に洗い方が上手いよ」 「いるわけないだろ」 「だったら、彼女と一緒にお風呂入って、よく洗ってあげてたとか」 「こういう酔狂につき合ってくれる恋人はいなかった」 「ほんと?」 パッと目を開いた裕貴の眼差しが強烈で、湯当たりしたわけでもないのに、啓太郎は軽いめまいを覚えていた。 髪の泡を流し、体に残っている泡もてのひらを使って洗ってやる。素直にされるがままになっている裕貴を眺めながら、啓

  • SWEET×SWEET   -131-

    「手抜きだ、不調だと言っても、美味いぞ、このお好み焼き」 事実、お好み焼きは美味いのだが、気をつかって啓太郎が言うと、裕貴は実に憎たらしい返答をした。「啓太郎って、なんでも美味そうに食うから、楽でいいよ。食わせるほうとしては」 「……可愛くない」 ぼそりと啓太郎が洩らすと、ふふ、と声を洩らして裕貴は笑う。「冗談だよ。おれがいままでメシを作って食わせたのは、父さんと兄さんと、啓太郎だけだけど、啓太郎が一番美味そうに食ってくれる」 そんなふうに言われると、急に食べにくくなる。が、嬉しそうに見つめてくる裕貴の眼差しに応えないわけにはいかない。  啓太郎はガツガツとお好み焼きを掻き込み

  • SWEET×SWEET   -127-

    **** 自分が感じた『嫌な予感』が、頭から離れなかった。 せっかくの正月休みだというのに何もする気が起きず、コタツに入って横になったまま啓太郎は天井を見上げていた。  裕貴と別れたのは、ほんの数時間前だ。どこの温泉に出かけたのかは知らないが、もうすぐ日が暮れようとしているので、観光したにしても、そろそろ旅館かホテルに入る頃だろう。 もしかして事故にでも遭ったのではないか――。 普段、自分の直感など信じない啓太郎だが、裕貴が関わっているのかと思うと、最悪の事態ばかり想像してしまう。  つけっぱなしにしてあるテレビから、にぎやかな声が流れてきた。気を紛らわせるつもりでつけてい

  • SWEET×SWEET   -126-

    「あー、いえ……。休みの間、俺も裕貴の世話になりっぱなしも心苦しいので、つい余計なことを言ってしまいました。それに、こんなときぐらい家族と過ごすのがいいと思いますし」 裕貴が出かけるのなら、いつまでもここにいるわけにはいかない。啓太郎は靴を履こうとしたが、奥から裕貴の声がする。「啓太郎っ、まだそこにいてよっ」 思わず博人と顔を見合わせると、珍しく博人が苦笑めいた表情を浮かべた。「弟がすみません」 「いえ……。俺もかなり慣れてきたんで、気にしてません」 十分とかからず裕貴は出かける準備を整え、バッグを持って玄関に再び姿を現した。  いつものように目深にニットキャップを被って、大き

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status