「記憶を取り戻したいの?」不意に投げかけられた問いに、弥生はすぐには答えられず、かえって考え込んでしまった。取り戻したいような気もする。誰だって取り戻したいと思うはずだ。だが、ここまでのことを考えると、記憶を戻すことが本当に重要なのかどうか、そうでもないようにも思えてきた。たとえ記憶が戻らなくても、自分を大事に思ってくれる人は変わらず大事にしてくれる。瑛介はあれほどの重傷を負いながらも、目覚めた瞬間に自分を救いに駆けつけてくれた。記憶は彼女にとって大切なものではある。だが、それほど決定的に大事なものでもないのかもしれない。そう考えた弥生は口を開いた。「記憶を取り戻せるかどうかは、縁に任せるわ。無理に求めすぎたら、かえって逆効果になるかもしれないし」その言葉に瑛介は一瞬きょとんとした。彼女がそんなふうに考えているとは思わなかったのだ。てっきり「取り戻したい」か「取り戻したくない」と答えると思っていたのに。しばらく思案したあと、瑛介の唇がふっと笑みにゆるんだ。「やっぱりだな。そういう考え方はいい。自分をすり減らさずに済む」その言葉に、弥生はつい笑ってしまった。「自分をすり減らしてどうするのよ。疲れるだけだわ」今の彼女は救い出され、大切な人がそばにいる。そして、もうすぐ二人の可愛い子どもに会える。そんな状況でどうして心をすり減らす必要があるだろう。それに、記憶というものは自分が望んだからといって戻るものではない。焦っても仕方がない。ならば現状を受け入れたほうがいい。きっといつか自然に戻ってくるだろう。瑛介は彼女の後頭部をそっと撫で、口元に笑みを浮かべた。「その考えでいい」ほどなくして、二人は屋敷の門の前にたどり着いた。今は門が固く閉ざされている。瑛介は記憶を頼りに呼び鈴を押そうとしたが、その手を不意に弥生に掴まれた。「待って」「どうした?」そう言った瞬間、彼は気づいた。弥生が掴んでいる自分の手が震えている。「......怖いのか?」弥生は唇をかすかに噛みしめ、小声で言った。「怖いんじゃないの。ちょっと緊張してるだけ」彼女は、誰かに言われなければ、自分に二人の子どもがいることすら知らなかったのだ。会えなかった間は会いたくてたまらなかった。だが、いざ本当に会えるとなると、心が急
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