「あんた、樹を引きつけながら、淳也ともいい感じでやってるつもり?明日香、心の底で何を考えてるのか、はっきり言ってみなよ」遥の目には、自分がそんな風に映っていたのか。明日香はふと、樹のことを思い出した。昨日、淳也と一緒にいたことを知った時、彼もまた同じように思ったのかもしれない。二股をかけている、と。明日香は静かな目で遥と見つめ合い、淡々と告げた。「聞かれたから、今日ははっきり言っておく。私が誰と付き合おうと、何をしようと、それは私の自由。他人が口を出すことじゃないわ」「樹が助けてくれたことは知ってるし、感謝もしてる。でも、だからといって......」一度言葉を切り、ゆっくりと言葉を選ぶように続けた。「好意を持ってくれてるからって、あなたたちの思い通りに淳也と距離を取らなきゃいけない理由なんてない。これはあなたたち家族の問題で、私には関係ない。もしも誰かに『選べ』って迫られても、私の答えは変わらない」それは、淳也に借りがあるからというだけではない。たとえ何の貸し借りがなくても、誰かが自分の人間関係に干渉する権利なんてなかった。過去の噂を除けば、淳也は決して悪い人ではなかった。校内の野良猫に餌をやり、食堂のおばさんには必ず「ありがとう」と言う。露店のおばあさんの台車が泥にはまった時は黙って押して助け、礼も求めずそのまま去っていく......そんな姿を何度も見てきた。噂ほど粗暴な人間じゃない。「この話、誰に伝えても構わないわ」明日香は落ち着いた声で言った。「私には私の人生設計があるの。誰にも邪魔させない。今の目標は、帝都大学に合格すること。それだけ。誰かを好きになるつもりもないし、恋愛に時間を費やす気もない。樹のことは、いずれ私から話す。今日の食事は、遼一さんと二人でどうぞ。私は遠慮するから」今回は、遥は彼女を引き止めようとはしなかった。階段を下りると、淳也が校舎の出入口のドア枠にもたれ、うつむき加減で足元の靴先を蹴っていた。「行こ」明日香が小さく声をかけると、彼は何も言わず、そのまま後ろについてきた。夜7時30分。遥はむっつりとした顔で遼一の車の助手席に座っていた。考えれば考えるほど、腹が立って仕方がなかった。気づけば、堰を切ったように口を開いていた。「本気で放っておくつもり?明日香があんな
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