All Chapters of もしもあの日に戻れたのなら: Chapter 171 - Chapter 180

222 Chapters

紫音の冒険①

紫音が遂に起爆スイッチを押した。異世界ゲートが爆破される瞬間、紫音は突如ゲートに向かって駆け出した。 「おい!何を考えている!!!」紅蓮が呼び掛けるが紫音は止まらない。  「やっぱり私、カナタと離れたくない!!私も!着いていく!!!」そんな言葉を発しながら、紫音は壊れかけのゲートへと飛び込んだ。 ――――――飛び込む瞬間、恐怖心から目を瞑っていた紫音だったが、何の痛みも感じず恐る恐る目を開くとそこは陰気な空が広がっていた。 「何ここ……?」誰に聞かれるでもなく紫音は小さく呟きを漏らす。辺りを見回しても枯れ木や岩肌が目立つ光景であり、紫音はここが明らかに普通の場所ではないだろう事は一目で理解した。 このままここでジッとしていても始まらない、弟の彼方を探さなければと一歩踏み出した。 歩く事数分、前方に見たこともない動物が数匹いるのが見えた。ここが異世界であると仮定するのならばどう考えても魔物と呼ばれるような見た目である。 ウサギの身体で頭にはツノが生えており八重歯は剥き出しになっていたからだ。 「近付くとやばそ~、迂回しよ」紫音は近付く事を避け、別の方角へと歩き始める。 どこを目指せばいいのか、土地勘のない紫音は当てもなく歩き続けた。 数時間は歩いただろうか。岩場に腰掛けて溜息をつく。 「はぁ……カナタどこにいるんだろう?なんか薄暗いし思ってた異世界と違うなぁ」紫音の言葉は当然である。現在彼女がいる場所は魔族国内であり、俗にいう魔界と呼ばれている場所であった
last updateLast Updated : 2025-05-26
Read more

紫音の冒険②

「な、な、何!?気持ち悪い!」あまりにストレートな悪口を緑色の化け物にぶつけるが、言葉が分からないのか化け物はニタニタと気色悪い表情を浮かべてジッと紫音を見つめる。 手に薄汚れた棍棒を持ち、背丈は紫音の腰にかかるかどうかという程度。しかしながらあまりの気持ち悪さに紫音はその場から動けなかった。 「来ないで!気持ち悪い!」「ギギギ……」紫音の気持ちなどどこ吹く風か、化け物は一歩、また一歩とゆっくり紫音へと近づいていく。明らかにワザとであるのは紫音も理解していた。そして化け物が自分を害そうとしているという事も。  手を伸ばせば届く、そんな距離まで近付いた化け物はニタニタ笑いながら棍棒を持った腕を高く上げる。 ――殺される。 そう思うと同時に紫音は両目を強く瞑った。 数秒目を瞑ったまま震えていると棍棒が振り下ろされなかったのか、身体に痛みを感じなかった紫音はゆっくりと目を開いた。 そこには緑色の血を撒き散らしバラバラになった化け物と思われる残骸が転がっていた。 「ヒッ――」声にならない悲鳴を上げた紫音はすぐそばに人の気配を感じそちらへと視線を向ける。 そこには紫色のコートを着た男が佇んでいた。 「え……?」何が起きたかも分からない紫音の頭の中は混乱していた。ただその男の片手が緑色に汚れており、自分を助けてくれたのだとそれだけは分かった。 「あの……助けて、くれてありがとうございます」「…………
last updateLast Updated : 2025-05-27
Read more

紫音の冒険③

紫音が別の世界から来た話をすると、男はやっぱりと言いそうな顔で紫音をジッと見つめた。 「そんな気はしていたが……リンドール様がこの世界に戻って来たのは知っている」「リンドール様?それってあの魔神とかいう奴ですか?」「なに?知っているのか?」知ってるも何も弟であるカナタが異世界に行く事になった要員である。魔神に対しては憎しみしかない紫音は嫌々ながらも頷いた。 「その様子ではリンドール様に対してあまりいい感情を持っていないようだな」「当然でしょ!あんな奴さっさと死ねばいいのに!」紫音が毒づくと男は若干引いたような表情になった。まさか綺麗な女性の口から出てくる言葉とは思わなかったのだろう。  「……とにかくここから離れるぞ。着いてこい」「え?助けてくれるの?」「死にたいのなら置いていくが」「いくいく!行きます!」男が立ち去ろうとした為紫音は急いで服の汚れを手で払い落とし男に着いていく。 「そういえば自己紹介してなかったですよね?私城ヶ崎紫音って言います」「……リヴァルだ」「へー!リヴァルさんって名前カッコイイですね!」さっきまで襲われかけていたのに既にそんな事どうでもいいと言わんばかりのテンションで話し掛けてくる紫音にリヴァルは少しだけ驚いていた。 リヴァルの常識では人間は弱くおどおどしているイメージだった。しかし今横にいる女性は違う。 「紫音、先に言っておくが俺は魔族だ」「あーやっぱり!そんな気はしてましたよ。だって小さいツノ生えてるし」そう言いながら紫音の目線はリヴァルの頭へと向けられる。リヴァルの頭には二本のツノが生えてい
last updateLast Updated : 2025-05-28
Read more

紫音の冒険④

魔族の町に辿り着いた紫音達は真っ直ぐリヴァルの屋敷へと向かう。町に住まう魔族らはリヴァルを見かけると頭を下げたがその横にいる人間の姿が視界に入るとギョッとした反応を見せる。「なんだかお偉い人になったみたい!」紫音はジロジロと見られて嫌な気はしないどころか、今の状況を楽しんでいた。「変わっているなお前」「そう?でもこんなに注目される事今までなかったからなぁ」紫音は道中の会話もあってかリヴァル相手に敬語など使わず普通に喋るようになっていた。「あれが俺の家だ」リヴァルが指差したのは町の中でも一際大きな屋敷。紫音はそれを見て目を輝かせた。「えー!凄い凄い!豪邸じゃない!」「フッ。これでも一応爵位を持っているのでな」リヴァルの態度や口の悪さは褒められたものではないが、実力は高く一つの町を任せられる程度には魔族国での評価は高い。屋敷の前まで来ると執事と思われる魔族が門を開ける。その魔族も紫音を一目見て少し驚いていたが、あまり表情には出さなかった。「お帰りなさいませリヴァル様。そちらの方は?」「コイツは拾った。ちなみに人間だ」「人間を拾った……ですか」「ああ、コイツは匿う。面白い奴だからな」「畏まりました。それではお部屋にご案内させて頂きます」執事は紫音を連れ立って屋敷の中へと入っていく。リヴァルはそれを見届けると町の広場へと赴いた。領主が広場にやって来る、それは何かしら重要な話があるという事。住人がゾロゾロと集まってくるとリヴァルは徐ろに口を開いた。「知っている者もいるかもしれんが、今俺の屋敷に人間の女がいる。手を出すなよ」要は人間の女がいるからといってちょっかいを掛ける事を許さないという意味を込めている。でなければ魔族からしてみれば人間の戦闘能力の持たない者など赤子の手をひねるくらい簡単に殺せてしまう。領主であるリヴァルが厳命すれば住民は従わなければならず、わざわざ紫音の身の安全の
last updateLast Updated : 2025-05-29
Read more

紫音の冒険⑤

リヴァルが屋敷に戻ってくると紫音は風呂に入っていたらしく、髪の毛がしっとりとしていた。 「あ、おかえりー」「……ああ」「何してたの?」「領主の義務だ」正直に答えるのも気恥ずかしくリヴァルは適当に誤魔化す。紫音も深く聞くことはせず、ふーんと相槌を打つとまた話題を変える。 「そういえば領主だったね。じゃあリヴァルの治めてる町を見てみたいなぁ」「なんだと?」先程住民には厳命したばかりであり、今町を出歩けば何となく気恥ずかしいリヴァルは眉を顰める。 「だって魔族しか住んでないんでしょ?私のいた世界では魔族なんて居なかったから」「……む、よかろう。着いてこい」リヴァルも断る理由を見つけられず仕方なく紫音を連れて出る事にした。 町に出ると案の定住民達の注目を浴びた。紫音はというと何とも思っていないのか辺りを見渡しながら楽しそうに笑顔を浮かべている。 ある程度町を見回った所で紫音がボソッと呟く。 「案外普通なんだね」「普通とはなんだ。何を想像していたのか知らんが魔族国も人間の国と大差ない」「もっと殺伐としているのかと思ってたよ」空は確かに陰鬱とした雲が広がっているが暮らしている魔族も全部が全部好戦的な事はない。紫音の中で魔界は殺伐としているというイメージだけが一人歩きしていた。 「あ!何あれ?」紫音が指差したのは屋台だ。果物を売っている屋台であり、見たこともない果物の陳列に興味が湧いたようだった。 「すみませーん、これっていくらなんですか?」「リヴァル様の知り合いだろ?なら持っていきな嬢ちゃん!」屋台を営む
last updateLast Updated : 2025-05-30
Read more

紫音の冒険⑥

屋敷に戻った紫音は今リヴァルの執務室にいた。真面目な雰囲気から紫音もふざけるのはやめて、真顔でソファへと腰掛ける。 「さて、お前がこの世界に来た経緯は聞いたが、どうしてこの世界に来たのかは聞いていない」「弟を探す為にこの世界に来たの。私がいた元の世界では――」そこから三十分ほどかけて紫音は日本での出来事を話した。魔神のせいで何人もの犠牲者が出たこと、助けてくれたこっちの世界の冒険者も戦死したこと、そして現状を打破する為に弟がこの世界へと来てしまった事。 リヴァルはそれを黙って目を瞑り聞いていた。 「――というわけで私は弟に会いたい。協力してくれる?」「……不可能だ」リヴァルからの返答は意外なものだった。自分の命を救ってくれてここまで良くしてくれた彼なら手を貸してくれると思っていた紫音は唖然とする。 「何度も言うが俺は魔族だぞ?人間を探そうと思えば必然的に人間の国へと行かねばならん。そんな事をしてみろ、それこそ人間共は魔族が攻めてきたと騒ぎ立てるぞ」「そっか……ここ魔族国って言ってたもんね」紫音が悲しそうな表情になるとリヴァルは続けて話をする。 「……だが手はないこともない」「ほんとに!?」「ああ。だがこれはあくまで運だよりだ」リヴァルは紫音にいずれ人間は魔族国へと入ってくると伝えた。確実に魔神を倒そうと人間は徒党を組む。魔神がいるのは何処かはリヴァルには分からなかったが、恐らく魔界だろうと予想していた。そうなると魔神討伐の為に人間達は必ず魔族国へ攻め入る。そこで自分の存在を知らしめて、人間達に別世界から来た自分が魔族国にいるぞと教える、というのがリヴァルの考えであった。 &nbs
last updateLast Updated : 2025-05-31
Read more

紫音の冒険⑦

リヴァルの忠告を真面目に聞いていた紫音はある事を思い出す。それは討伐隊の中にもしかしたらアカリやフェリス、アレンといった連中がいるかもしれない事だ。もしも彼らがリヴァルと遭遇した場合問答無用で戦闘になる。紫音としては自分を助けてくれたリヴァルには死んで欲しくなかった。リヴァルも強いのかもしれないが、アレン達の方が素人目に見ても強そうであったからだ。 「リヴァル、もしも討伐隊がこの町に来たらどうするの?」「愚問だな、戦うに決まっている」念の為リヴァルに聞いてみるとやはり彼らと出会うのは不幸な結末を迎える。 「もし討伐隊がこの町に来たら言って。私が前に出るから」「馬鹿か貴様は。奴らから見れば紫音の姿は魔族に取り入った者に見えるぞ」「裏切り者は処罰する、みたいな?」「そうだ。確実に刃は向けられる。俺もそれなりに戦闘能力が高い事を自負しているが王の名を冠する冒険者相手では勝ち目がない」王の名を持つ冒険者はいる。殲滅王の二つ名を持つアレンだ。紫音は彼の事を思い出しそれを伝えるとリヴァルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。  「奴と知り合いか……厄介だな。アレからお前を守るのは不可能だ」「じゃあもしアレンさんが来たら私が話すよ。この町の人には手を出さないでって」「……お前はどちらの味方だ。我々魔族と人間は何百年も前から争っているんだぞ」「味方とか敵とか関係ないよ。私は私のやりたいようにやる!」紫音はなぜ彼らが争っているのかは知らなかったが、手を取り合う事も必要だと力説する。リヴァルはそんな彼女を見て、フッと鼻で笑った。 「無理だ。手を取り合うだと?何百年もの禍根がある以上簡単ではない」「でもいつまでも争い続けていたら両方疲弊しちゃうでしょ?
last updateLast Updated : 2025-06-01
Read more

紫音の冒険⑧

紫音がリヴァルの屋敷に住み着いてから一週間が経った。今では一人で町に繰り出し住民と仲良さそうに雑談に花を咲かせるほどだ。 周りは魔族だらけだが、紫音はあまり気にしていない。というのも言葉が通じさえすればとりあえずなんとかなる、そんな考えが紫音の頭の中にはあったからだ。 どうして別世界から来た紫音が言葉を理解できるのかは深く考えないようにしていた。魔法という地球では考えられなかった概念もある。そうなれば別世界から来た人間が言語理解の能力が備わるのもそういった特殊な力が働いているのだろうと紫音は置いておくことにした。 「紫音ちゃん、新作できたよ!」紫音が街をぶらついていると食堂を営むツノの生えたおばちゃんが声を掛けてくる。おばちゃん魔族からしてみれば紫音など娘に等しい。魔族は総じて長生きだ。娘どころか孫と言っても過言ではない。 「え!?できたの!」「ほら、おいで!」実は紫音が最初に仲良くなったのはこのおばちゃんであった。フラッと匂いに釣られて立ち寄った食堂で感じのいいおばちゃんと出会い、そこで紫音は日本の料理を教えたのだ。紫音から教えられた料理は魔族にとって初めての料理。 「肉じゃがー!」「ふふふ、ほら、沢山あるよ!」こうして新メニューを導入する際は必ず紫音に味見をしてもらうのだ。 日本の味が恋しくなっていた紫音にとってもありがたい話だ。悲しい事に紫音は料理が下手である。そして今は日本の料理を食べることはできない。このジレンマから何としても食べたいと思っていた矢先に料理がうまいおばちゃんと出会ったのだ。 「美味しい、完璧だよこれ!」「ふふふ、そうだろう?紫音ちゃんがレシピを覚えていてくれればも
last updateLast Updated : 2025-06-02
Read more

紫音の冒険⑨

それは突然だった。いつものように紫音が町をぶらついていると、一人の魔族が紫音の目の前へと降り立った。 「貴様、人間か?」「えっ……ち、違います」咄嗟に紫音は首を振ったが、目の前の魔族は紫音を睨む。そう、これが本来人間を見つけた時の魔族の反応なのだ。 魔族はジッと紫音を見つめると掌を彼女へと向けた。 「な、なに?」「人間だな。なぜこんな所に人間が……まさか貴様討伐隊の人間か!」討伐隊という言葉はリヴァルから聞いていた紫音はほんの少しだけ狼狽えてしまった。討伐隊という言葉に反応してしまったのだ。 「ッ!やはり……貴様はここで殺す」「や、やめて!」紫音が両腕で顔を覆うと、その声を聞きつけた住民が数人家から出てきた。 「おい!何してる!」「その子はリヴァル様のお気に入りよ!」「お前町の外から来たやつだな!?」みな口々に魔族へと啖呵を切りながら、紫音を守るように並んで壁を作った。 「何をやっている……お前達、そいつが何者か理解しているのか?」「分かっている!この子は討伐隊の人間ではない!」「討伐隊の人間でなくても、人間であることには変わりない。違うか?」「人間の中にもいい子はいるんだ!」魔族は溜息をつくと、啖呵を切った一番若い魔族に掌を向けた。 「デビルレーザー」紫色の光線が目にも留まらぬ速さで若い魔族の心臓を貫いた。 「ゴフッ――」若い魔族は口から血を吐きその場に倒れ込んだ。 「お前ッ!おい、やるぞみんな
last updateLast Updated : 2025-06-03
Read more

紫音の冒険⑩

リヴァルは今起きている状況が理解出来なかった。紫音は地面にへたり込みそれを守るようにして住民が一人の魔族と対峙している。住民同士の喧嘩かとも思ったが、一人の魔族は見覚えがなかった。  「……何をしている」振り返った魔族は顔を歪め住民達に向けていた手をリヴァルへと向けた。 「チッ……来やがったか」「もう一度聞こう。そこで、何を、している」リヴァルの声色はいつもと変わらない。だが、明らかに怒気を含んでいるのは雰囲気で分かった魔族は即座に攻撃魔法を繰り出す。 「デビルレーザー!」リヴァル目掛けて放たれたそれは、その魔族の持てる最大魔力を注ぎ込んだ一撃。確実に殺ったと魔族が口角を上げるが、その顔色はすぐに歪む。 直撃を受けたはずのリヴァルは無傷だった。 「貴様、俺の領地で何をするつもりだ?」「何をするつもり、だと?略奪だよ。アンタみたいな伯爵位とまともにやり合って勝てるなんて思っていねぇ。だがなぁ、人間を匿ってるみたいじゃねぇか」そう言いながら魔族は紫音へと視線を送る。住民が彼女を守っているのは誰が見ても分かる。そうなると領主が知らないはずがないのだ。 つまり、リヴァルも黙認しているということ。それを魔族は訴えかけていた。 「さてどうする?俺を見逃せば秘密にしておいてやる。リンドール様にバレればこの領地もどうなるか、知らないわけではないだろ?」過去にも人間を匿っていた魔族はいた。しかしその魔族は運が悪く魔神に見つかったのだ。 見つかった日の次の日、その魔族が治めていた領地は無くなっていた。跡形もなく。
last updateLast Updated : 2025-06-04
Read more
PREV
1
...
1617181920
...
23
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status