All Chapters of 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Chapter 431 - Chapter 436

436 Chapters

5-3 琢磨の疑問

 翌日―― 航は美幸と共に昨日設置した定点カメラを取りに白鳥の別荘付近に来ていた。航は植え込みの中に隠して置いたカメラを取り出すと美幸に声をかけた。「おい、美幸。誰かに見られる前に車に戻るぞ」しかし美幸は航の声が聞こえていないのか、うっとりと別荘を見つめている。「いいな~素敵だな~こんな別荘……私も一度でいいから泊まってみたいな……」「全く……いつまでそうしているつもりなんだよ。早いとこ帰らないと……」その時、玄関の扉がガチャリと開かれる音がした。「まずい! 誰か出て来る! 美幸、こっちだ!」航は美幸の腕を掴んで引き寄せると、2人で植え込みの中に隠れた。「ねえ、何でコソコソする必要があるの?」美幸が不思議そうに聞いてくる。「馬鹿! 静かにしていろ!」航は小声で注意すると、玄関から出て来た人物に注目し……息を飲んだ。(え……? ま、まさかあれは……!?)すると美幸もその人物に気付いた。「うわあ~すっごく綺麗な人……スラリとして細いし。まるでモデルみたい」「あ、明日香……」気付けば航はその名を口にしていた。「え? 明日香……? あの人の名前、明日香さんていうの? って言うか何故航君があの人の名前知って……」そこで美幸は口を閉じた。何故なら航の顔色が真っ青になっていたからだ——**** あの後、ホテルへ戻った航は定点カメラのチェックをしていた。美幸はしきりと何処かへ遊びに行こうと航を誘って来たが、遊びで来ている訳じゃないと一喝すると、美幸は大人しくなり、自分の部屋へと帰って行った。 ようやく1人になり、静かになったところで航はリュックから機材を取り出して定点カメラのチェックを始めた。映像の中には白鳥や明日香が出入りしている姿が何度も映し出されている。(くっそ〜……京極の奴……俺には一切詳しい事情を明かさずに、ただ白鳥について調べろと言っておいて、本当の目的は明日香と白鳥の関係を調べさせる為だったのか?)そして航は京極の言った台詞を思い出していた――****——1週間前その電話は突然かかってきた。「え? 何だって? 突然電話をかけてきたと思えば……調査依頼だって?」『ああ。そうだよ。君に長野へ行って貰いたいんだ。野辺山高原にあるホテル・ハイネストの総支配人である白鳥誠也という男性の身上調査を行って欲しいんだ』「何
last updateLast Updated : 2025-05-17
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5-4 琢磨と二階堂の秘密の会話

 オハイオ州にある、琢磨のマンション―― まもなく日付が変わろうとしている。琢磨は1人ソファに座り、映画を観ながらスコッチを飲んでいた。やがて欠伸を噛み殺しながら琢磨は呟いた。「そろそろ寝るか。明日からまた仕事だしな……」伸びをした時に、スマホに着信が入ってきた。「うん? 誰からだ? 何だ……航からじゃないか」琢磨は少しだけ笑みを浮かべると、スマホをタップした。『琢磨、元気にしているか? お前いつまでそっちにいるんだよ。新年位は日本で過ごせないのか?』「全く、目上の者に無遠慮に物申してくるところ……相変わらずだな」琢磨は苦笑しながらメッセージを読み続け……顔色が変わった。「な、何だって……!?」琢磨は震えながら航のメッセージを読んでいた。そこにはこう書かれていた。『今、明日香は翔とは別居していて、明日香はホテル・ハイネストの総支配人<白鳥誠也>と同棲している』と――「一体……これはどういうことなんだ……?」琢磨は呆然とそのメッセージを見つめていた——**** 「もしもし? 一体どうしたんだ、九条」正月休みで自宅でくつろいでいた二階堂の元へ突然琢磨から電話がかかってきた。『ハッピーニューイヤー。二階堂社長、御無沙汰しておりました』「新年おめでとう。元気にしていたか? しかし……一体突然どうしたんだ? いきなり俺の個人番号に電話を掛けてくるなんて。そっちで何かトラブルでもあったのか?」『いえ、大丈夫です。何も問題は起きていません』「そうか? なら一体何の用だ? そっちは日本と違って明日から仕事だろう? 大体今は真夜中なんじゃないか?」『ええ、そうですね。深夜の0時をとっくに回っていますよ』「急ぎの用事なのか? 要件を言ってみろ?」二階堂は眉を顰めながら尋ねた。『……今月行われる記念式典……俺を代わりに参加させて貰えませんか?』「は? 何だって?」二階堂の眉が上がる。『どうか……お願いします!』電話越しの琢磨の声は、ひっ迫しているように二階堂は感じた。「九条、本気で言ってるのか? そんなこと許可出来るはず無いだろう? 何の為にお前をアメリカへやったと思っているんだ?」『……分かっています……』「何かあったのか?」『……個人的なことなので申し上げられません』二階堂は溜息をついた。「お前を参加させるわ
last updateLast Updated : 2025-05-17
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5-5 翔の不安 1

 航が野辺山高原へ来てから既に2週間が経過していた。美由紀も仕事があるという事で1月4日に東京へ帰って行ったが、最後まで航に一緒に東京へ帰ろうと泣き落としまでされた程だった。22時――京極は書斎で笑みを浮かべていた。「フフフ……安西航……。やはり彼は中々良い仕事をしてくれるな」京極は航が調べ上げてメールで送られてきた大量の資料を満足げに目を通していた。「しかし、この白鳥という男……なかなか叩いても埃が出るような人物じゃないな」プリントアウトした白鳥の資料を指で弾きながら京極は呟いた。(白鳥誠也……32歳。父、母、兄の4人家族。東京都出身。中流家庭に育ち、両親共に公務員、兄は学校の教師。過去に恋人がいたこともあるが、今はフリーで恋人と呼べる存在は現段階では明日香のみ……か。明日香のことは何も知らされていないようだな)京極は背もたれに寄りかかると考えた。(今、鳴海翔は朱莉さんと本当の家族になろうと画策している。それだけは絶対にやめさせないと。明日香が鳴海翔の元へ戻るのが一番だが、今は白鳥誠也という恋人がいるからな……。いっそ白鳥に明日香の事情をばらすか……)「だが……」京極は不敵な笑みを浮かべる。「静香の話では今は朱莉さんは鳴海翔に対しての恋心は無くなってしまったらしいからな。当り前だ。あれだけ朱莉さんに酷いことばかりしていたんだからな。愛想を尽かされても当然だ。残念だったな、鳴海翔……」京極は呟くと缶ビールを飲み干した――**** 同時刻――「はい、分かりました。準備は万端です。……はい、それで出席する企業の代表者名簿ですが……え? 当日の朝でなければ渡せない……? そうですか……いえ、何も問題はありません。はい。……では3日後、お待ちしております。……ええ。勿論朱莉さんにも出席して貰います。蓮も連れて行きますよ。ええ、ベビーシッターもお願いしてありますので……。はい、では失礼いたします」翔は電話を切るとため息をついた。「やはり事前に参加者リストを手に入れることが出来なかったか……しかし、何故祖父は副社長である俺にリストを見せてくれないのだろう? 何故だか分からないが……嫌な予感がする。まさかあいつが来るのか……? だとしたら非常にまずい。もしあいつが来ていたら、朱莉さんを帰宅させるか……? 絶対にあいつにだけは朱莉さんと会わせ
last updateLast Updated : 2025-05-17
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5-6 翔の不安 2

電話を切ると、姫宮は翔に声をかけられた。「姫宮さん、朱莉さんは、何て言ってたかい?」「はい、分かりましたとお話ししておりました。後……」「後?」「式典にどのような服を着て行けば良いか迷っておられました」「え? 何だって。そうか……しまったな。仕事が休みの日に朱莉さんを連れて服を買いに行けば良かったかな……」「一応、朱莉様からお手持ちのワンピースの画像を送っていただくことになっておりますが……」すると早速朱莉から着信が入ってきた。送られてきたワンピースの画像は全部で4枚で、どれも朱莉が着るには少し年齢が上の女性向けのデザインに見えた。「フム……これか……」「ええ、そのようですね。どうされますか?」「うん……朱莉さんは何を着ても似合うと思うが……若くて美人なんだから、もう少しデザインが若々しい方が似合っていると思うな」「翔さん……」姫宮が呆れたような顔で翔を見た。「な、何だ?」「今の台詞……まるで新婚家庭の夫のような台詞ですね」「え? そ、そうだろうか?」翔は顔を赤らめた。「ええ、そのように私は感じられましたが……それではどうでしょうか? 1時間程度でしたら翔さんが不在でも大丈夫ですので、お昼休みの後朱莉様と待ち合わせをされてはいかがでしょうか?」「しかし、蓮が……」「それなら私は社のロビーで蓮君の面倒を見ますので、お2人で買い物をされてはいかがですか?」「いいのか? そんなこと頼んでも」「ええ、どうぞお気になさらないでください」(こうやって信頼関係を築き上げておかないとね。私は正人とは違う。強引なやり方ばかりではうまくいかない時だってあるのだから)姫宮は笑みを浮かべながら思うのだった――****「え? 今日のお昼休みなんてまた突然だな。でも……やっぱりあの服じゃ駄目だったのね」朱莉は姫宮から貰ったメッセージを読み、驚いた。(まさか、翔先輩が私の洋服の買い物に付き合うなんて。本当に最近の翔先輩は一体どうしてしまったんだろう。以前とは全く態度が違うから戸惑ってしまうな……。でも今の翔先輩の方がずっといいけどね)しかし、それでも翔と2人で買い物と言われても朱莉の胸が高鳴ることは、もう無かったのだった――**** 昼休み―朱莉は翔と自社ビルの前でベビーカーを握りしめ、翔がやって来るのを待っていた。ほどなくして翔が
last updateLast Updated : 2025-05-17
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5-7 式典前の出来事  1

 翌日――15時。朱莉は緊張の面持ちで本社のロビーのソファに蓮を抱いて座っていた。するとそこへ姫宮が1人の若い女性を伴って現れた。「お待たせいたしました。朱莉様」「こんにちは、姫宮さん」朱莉は立ち上がって挨拶をすると、姫宮の隣に立っている若い女性をチラリと見ると女性の方から挨拶をしてきた。「初めまして、私はこの会社の保育室で勤務している高坂と申します。本日お子さんをお預かりさせていただきます」「あ、そうだったのですね。初めまして、鳴海朱莉と申します。この子は蓮と言います。それではよろしくお願い致します」朱莉は蓮を保育士に預けると、蓮がぐずって朱莉に手を伸ばす。「フエエエ……」「あらあら、蓮君。やっぱりママがいいのかな〜?」高坂が蓮を抱っこしながら言う。(ママ……)朱莉は自分を向いて蓮が泣く姿を始めて見て、胸が熱くなる思いがした。そしてそんな朱莉を姫宮は黙ってみている。「あの……大丈夫でしょうか……?」蓮が朱莉を見てぐずっている姿に朱莉は心配になった。「いえ、大丈夫ですよ。皆最初はこうですから。それではお荷物もお預かりしますね?」高坂に言われて、朱莉は蓮の荷物一式を預けた。「それでは蓮をよろしくお願いします」「はい、大切におあずかりいたしますね」高坂が去るのを見届けると朱莉は言った。「知りませんでした……。こちらの会社には保育所もあるんですね。昨日の話ではベビーシッターさんに預かって貰うと聞いていたので」「はい、私が社の保育所に尋ねたところ、蓮君を預かってくれるとのことでしたので、急遽保育所にお願いしたのです」「そうでしたか。いつも色々とお世話になってばかりで……本当にありがとうございます」朱莉は丁寧に頭を下げる。「いいんですよ、朱莉様。私は副社長の秘書として当然の仕事をしているだけですので……それでは会場までご案内致します」姫宮に連れられて朱莉はビルの外へ出た。**** ホテルに向かうタクシーの中で朱莉と姫宮は会話をしていた。「知りませんでした。会社で式典を行うと思っていたのですが……まさかホテルで行うなんて」「ええ。ホテルを借りる方が早いですから。設備も整っておりますし、お料理や飲み物……全て揃っておりますからね。会長と社長、そして副社長もすでにホテルにいらっしゃいますから」「え? 社長……といいます
last updateLast Updated : 2025-05-18
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5-8 式典前の出来事 2

 ホテルへは15分程で着いた。タクシーを降りると姫宮は朱莉を連れて会場へと向かった。会場はホテルの3Fにある大ホールで行われる事になっている。ホールへ着くと既に大勢の人々が集まっており、朱莉は久々に緊張してきた。(ど、どうしよう……私みたいな人間……はっきり言って場違いなんじゃないかな? それに妻と言っても所詮私は偽装妻だし……)緊張しきった朱莉は姫宮に連れられて、ある部屋を案内した。「こちらに会長と社長、それに副社長がおられますので」「は、はい!」朱莉は緊張しながら返事をした。姫宮はドアをノックした。「朱莉様をお連れしました」するとすぐに翔がドアを開けて現れ、朱莉を見ると笑みを浮かべた。「朱莉さん、待ってたよ」そして自然に朱莉の背中に手を当て、中へと案内した。すると朱莉の目に会長と見たことの無い中年の男性がこちらを向いて立っている。その男性は何処となく翔に似ていた。「朱莉さん、よく来てくれたな」鳴海猛が朱莉を見て笑顔で声をかけてきた。「会長、その節はありがとうございました」朱莉は深々と頭を下げると、猛が言った。「朱莉さん、彼に会うのは初めてだろう? 私の息子で、翔の父親の鳴海竜一だ」「初めまして。朱莉さん。翔の父の竜一です」男性は優しい笑みを浮かべて挨拶をしてきた。「初めまして。朱莉と申します。いつも翔さんには良くして頂いております」すると猛が言った。「朱莉さん、正直に言ったほうがいいぞ? 翔は私に性格が似ていて冷酷な所があるからな。今から直して欲しい所があるなら言っておいた方がいいぞ?」「か、会長 !な、何てことを……」翔は顔を赤らめた。「いえ、翔さんは完璧な方ですから直して貰いたいところは何処もありません」朱莉は笑顔で答える。「ほう……あなたはうちの息子を随分買ってくれているようですね。ありがとうございます」社長の鳴海竜一は目を細めると翔が声をかけた。「それではそろそろ会場へ行きましょう」そして猛が先頭に立ち、部屋を出ていき、次に竜一が続いた。「副社長、お二方は行かれましたが……?」姫宮が声をかけると翔は言った。「姫宮さん、先に会場へ行っていてくれ。少し朱莉さんとここで話をしてから向かうから」「承知いたしました」姫宮は頭を下げると部屋を出て行った。そして朱莉と翔、2人きりになると翔が朱莉に語
last updateLast Updated : 2025-05-18
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