Semua Bab 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Bab 441 - Bab 450

729 Bab

5-13 京極の予感 1

「でも意外でした。まさか九条さんと翔さんが二階堂社長の後輩にあたるなんて…」朱莉はワインを少しずつ飲みながら二階堂と話をしていた。「ええ、その頃から私はいずれ起業することを考えていて、既に九条を引き入れようと考えていたんですよ。だから九条が鳴海の秘書になるって聞かされた時は正直、驚きを通り越してショックでしたね。何だかこっぴどく振られた気分でしたよ」「振られた気分ですか? それは中々面白い表現ですね」朱莉が二階堂の話に笑みを浮かべた時。「朱莉さん」背後から突然声をかけられた。(え……? その声は……?)朱莉は思わずビクリとなり、恐る恐る振り返るとそこには京極が立っていた。口元は笑みを浮かべていたが……目元は笑っていなかった。「こんばんは、朱莉さん。こうしてまた貴女とお会い出来るなんて奇遇ですね」口元だけ笑みを浮かべながら朱莉に声をかけ、チラリと二階堂を見た。「きょ、京極さんも呼ばれていたのですね?」朱莉は緊張の面持ちで京極を見た。「はい、それにしても今夜の朱莉さんはいつも以上に美しいですね。本当に今夜は何てラッキーなんだろうと思いましたよ」「い、いえ。そんなに大袈裟なことありませんから……」朱莉は俯いた。何故なら、まるで何かに怒っているかのような京極がいつも以上に怖く感じたからだ。一方の二階堂は京極と朱莉の間に流れる緊張感に気が付いた。(一体、どうしたというんだ? この男が来てから様子が変だぞ……? ん?)よく見ると朱莉の手足が小刻みに震えている。(このまま黙って見てはいられないな……)「今この方と私は会話をしていた最中なのです。失礼ですが、貴方はどちら様なのですか?」二階堂は京極から隠すように朱莉の前に立ちはだかる。「貴方は確か『ラージウェアハウス』の創設者の二階堂晃社長ですね?」それを聞いた二階堂の眉がピクリと動いた。「……私のことをご存知なのですか?」「ええ。貴方はIT産業部門では有名人ですからね……ちなみに僕もIT企業経営者なのですけどね。京極正人と申します。朱莉さんとは同じ億ションに住んでいるご近所さんなんですよ。プライベートで朱莉さんと交流があるんです。そうですよね? 朱莉さん?」不意に朱莉は声をかけられ、肩を震わせながら小さく頷いた。「は、はい。そうです……。その節は色々ありがとうございます……」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-18
Baca selengkapnya

5-14 京極の予感 2

「どうですか? 少しは落ち着かれましたか?」会場のバルコニーに出ると二階堂は朱莉に声をかけてきた。「は、はい。大丈夫です……ありがとうございます」朱莉は深呼吸すると返事をした。まだ手足は震えているが、大分気持ちは落ち着いてきた。(まさか京極さんがここに来ていたなんて……。だけど……何故? 以前は頼れる人だと思っていたのに今は京極さんを怖いと感じてしまう。以前のような関係にはもう戻れないの……? マロンを引き取ってくれたあの頃のような……)青ざめた顔でまだ震えている朱莉を見ながら二階堂は尋ねた。「あの男は何者ですか? 見た所大分朱莉さんに執着しているように感じられましたけど? 鳴海はあの男のこと知ってるのですか?」「はい……翔さんも知っています。それに……九条さんも……」「そうなんですか?」二階堂の眉がピクリと上がった。「は、はい……」項垂れる朱莉に二階堂は言った。「こんなことを言っては不快な気持ちになるかもしれませんが、あの京極と言う男……恐らくは朱莉さんに想いを寄せていると思います。ひょっとして以前あの男とお付き合いしていたのですか?」「まさか! そんなことは一度もありません。……色々と親切にしていただいたことはありますが……」(そうよ……初めて出会った時の京極さんは優しくて、行き場の無いマロンを引き取ってくれたし、翔先輩や明日香さんから庇ってくれたこともあった。沖縄に行く時も見送りに来てくれたし……)思わず当時のことを思い出し、朱莉は不覚にも目に涙が滲んでしまった。それを見た二階堂はギョッとした。「す、すみません! 別に朱莉さんを泣かせるつもりは……!」「いいえ……こ、これは……ち、違うんです……。どうして京極さんがこんなことになってしまったのか……分からなくて……」朱莉は目を擦りながら言った。そんな朱莉を見ながら二階堂は思った。(あの男、怪し過ぎる……。俺のことも知っているし、九条のことも知っていると朱莉さんは言っていたしな……。大体、俺のことも睨み付けていたが、あの態度はどう見ても俺に対する嫉妬だ……。まさか……ひょっとするとあいつか? あの写真と報告書を俺に送り付けてきたのは……)そして小声で呟いた。「京極……あいつのこと調べた方が良さそうだな……」**** 一方、京極は鳴海会長を探していたが何処にも姿は見当
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-18
Baca selengkapnya

5-15 式典の終わりに 1

 スピーチが終わった後、翔は朱莉を探していた。(朱莉さんは一体一体何所へ行ったんだ……? ん……?」その時、翔は京極の姿を見つけた。(京極正人……! な、何故あいつがこの会場に……? 出席者名簿にあいつの会社は載っていなかったぞ? おまけに何所を見てるんだ? 随分険しい顔をしているが……)翔は京極の視線の先を追い……息を飲んだ。そこにはバルコニーで楽し気に話す朱莉と二階堂の姿があったからだ。(え……朱莉さんと……二階堂先輩……?)朱莉は楽し気に二階堂と話をしている。その姿は今まで翔には見せたことの無い姿だった。そして二階堂もまんざらでもない様子で話をしている。その姿を見ていた翔は言いようのない嫉妬にかられた。唇をギュっと噛みしめると大股で2人の元へと近づき、いきなり朱莉の肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。「え? しょ、翔さん!?」朱莉は驚いて翔を見上げた。「2人共、外は寒いですよ? そろそろ中へ入られたら如何ですか?」そして二階堂をジロリと見た。「ああ、言われてみればそうだな。確かに外は冷える。それじゃ朱莉さん。お話し出来て良かった。又いずれどこかで会うかもしれませんね。翔もまたな」そして翔の肩をポンと叩きながら耳元で言った。「京極という男に気を付けろ」「え!?」それは一瞬のことだった。二階堂は意味深に笑うと手を振って会場の中へと戻って行った。(二階堂先輩……何故京極のことを……?)朱莉を腕に抱え込んだまま二階堂の背中を見届けている翔。「あ、あの……翔さん……?」朱莉に声をかけられ、翔はそこで我に返った。「朱莉さん。こんなに体が冷えてる。中へ入ろう。それにもうそろそろ式典も終了するし」「は、はい……分かりました」朱莉の肩を抱き寄せたまま、何やら考え込んでいるような翔を見上げながら朱莉は思った。(翔先輩……どうしたんだろう……? 何だか様子がおかしいけど……?)その時、突然翔が朱莉を見下ろした。「朱莉さん、ひょっとすると京極正人に会ったのか?」「え!? な、何故それを……?」「朱莉さんと二階堂先輩がバルコニーで話をしている姿を睨み付けるように見ていた京極がいたんだ」「!」その言葉に朱莉は思わず身体が小刻みに震えてきた。「朱莉さん……? どうしたんだ? 震えているじゃないか……」「あ……す、すみません……。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
Baca selengkapnya

5-16 式典の終わりに 2

式典が終わる時間がやってきた。「しかし、姫宮君も大げさだな……。少しクラッと来ただけなのに医務室へ行かせるなんて」控室のソファに座った猛は姫宮と話をしていた。「何をおっしゃっているのですか、会長。たまたま私が傍にいた為、会長の異変に気づきましたが……仮にあの会場で倒れられたら大騒ぎになっておりましたよ?」「ハハハ……やはり、姫宮君には叶わないな。どうだ? もう一度私の専属秘書に戻るか? 翔にはまた新しい秘書を見つければいいわけだし……」「いいえ、会長。お言葉ですが……もう暫く副社長の下で秘書の仕事をさせて下さい。朱莉様とも折角仲良くなれたので」姫宮は頭を下げた「ああ……なるほど。そういうことなら分かった。ではもう暫く姫宮君には副社長のお守りをしてもらうとするか?」そして猛は笑った——**** その後—— 猛は会場に戻ると最後の挨拶をし、式典は無事に終了となった。式が終わると翔は朱莉に声をかけた。「朱莉さん、蓮を迎えに行かないといけないんだろう? 俺はまだ用事があるから会社に戻ることは出来ないけど、タクシー乗り場まではついて行くよ」「はい、ありがとうございます」するとそこへ二階堂が声をかけてきた。「それなら俺が途中まで送るよ。丁度これからタクシーに乗って帰るところだったからな」「二階堂先輩……」翔は何故か苦々し気に二階堂を見た。「何だ? その顔は。鳴海、お前何か勘違いしていないか?」「え……?」朱莉が怪訝そうに翔を見上げる。すると二階堂が耳打ちしてきた。「鳴海、京極の事を警戒しているんだろう? お前がついていけないなら俺が付いていてやろうかって言ってるんだよ」「!」翔は二階堂の顔を見た。「……そうですね。お願いします」翔は素直に頭を下げた。「ああ、任せろ」そして二階堂は朱莉に視線を向ける。「それじゃ、朱莉さん。一緒にタクシー乗り場に行きましょう」「あの……いいんですか?」朱莉は翔を見上げた。「そうしてくれるかい? 朱莉さんを1人にしておくのは心配だからね」「分かりました。それでは二階堂社長、お世話になります」朱莉が頭を下げた時。「副社長! 朱莉様! こちらにいらしたのですね?」姫宮がやって来た。そして二階堂を見ると挨拶をした。「始めまして。私は副社長の秘書を務めております姫宮と申します。本日はわ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
Baca selengkapnya

5-17 京極の好敵手現れる 1

 鳴海グループ総合商社の記念式典から1週間が経過していた。 土曜日9時―― 二階堂は自宅でオハイオ州にいる琢磨と電話をしていた。「うん。九条、中々良い進捗状況じゃないか。流石だな」二階堂は送られてきたデータを眺めながら満足げに言う。『いえ、これも他の社員達の力によるものですよ。俺一人ではここまでは無理でした』「フン……相変わらず謙遜だな。ところで今、そっちは何時なんだ?」『19時ですよ』「そうか、悪いな。時間外労働させて」『仕方ないですよ。日本とこっちでは時差が14時間あるんですから』「まあ、それはそうだな。ところで……行って来たよ。式典に」『そうですか……』「全く、あの時は驚いたよ。いきなり電話がかかったきたかと思えば、代わりに自分を式典に参加させてくれなんて。大体今迄働いていた会社の式典にノコノコ顔出すなんて普通に考えれば居心地悪いんじゃないか? それにお前言ってたよな? 鳴海とは絶縁したって」『ええ……そうですね』電話越しから琢磨の躊躇いがちな返事が聞こえた。「そうまでして朱莉さんに会いたかったのか?」『え? 二階堂社長……朱莉さんて……』「ああ、彼女に許可を貰ったのさ。朱莉さんて呼んでいいと。しかし……本当に美人だったよな。少し日本人離れした顔立ちだったし。ひょっとすると外国の血が入っているかもしれないな。まあ、あれならお前が夢中になる気持ちも分からなくも無い」二階堂はPC画面から視線を逸らし、窓の外を見つめた。『先輩……ひょっとして……』琢磨の声に警戒心が混ざる。「お? 急に何だ? 呼び方が社長から先輩に変わったぞ?」二階堂の顔に笑みが浮かぶ。『……ひょっとして俺のことをからかっているんですか?』「いや~別にそういう訳でも無いが……しかし、お前にも見せてやりたかったよ。俺が朱莉さんと2人きりでバルコニーで話をしていたら……」『何ですって? 朱莉さんと2人きりで!?』琢磨が声を荒げた。「おい、落ち着けって。人の話は最後まで聞け」『分かりました。……どうぞ続けてください』「するとそこへ凄い剣幕で鳴海がやってきたんだよ。嫉妬にまみれた目で俺を睨み付けて、いきなり朱莉さんの肩を掴んで抱き寄せるんだからな」『何ですって!?』「鳴海は朱莉さんに惚れ込んでるな。恐らく」『くっ……! 翔の奴……!』「おい
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
Baca selengkapnya

5-18 京極の好敵手現れる 2

「多分あの男だろう。俺にお前と朱莉さんが一緒に写っていた写真と報告書を送り付けて来たのは」二階堂は椅子に寄り掛かった。『え……!? 俺はてっきりどこかの記者かと思っていました』「まさか! だったら金銭を要求してくると思わないか? あれにはそんな文言は何処にも書かれていなかったしな。だいたい、あの男は俺のことを知っていた。恐らく調べていたんだろう」『そ、それって……』「ああ、恐らくあいつは邪魔なお前を何とかしたかったんだろう?」『クッ……!』「まあ、でもいつまでもあの状況が続いていれば、いずれ他のゴシップ記者に目を付けられていたかもしれないが……」『先輩……。実は朱莉さんと翔は……書類上だけの夫婦……なんです』「どういうことだ? 本当の夫婦じゃないって……?」思わず二階堂は身を乗り出す。『2人は契約結婚の仲なんです。ちょっとある事情から……それ以上は言えませんが』「ふ〜ん……だからお前は朱莉さんに惚れたのか」『……否定はしませんよ……』「しかし、京極の行動を見れば納得がいくか。恐らくあの男、2人が契約婚だと知ってるに違いない。だから朱莉さんにあそこ迄執着しているんだろう。お前を追い払うぐらいにな……。だが、やられっぱなしも面白くない」『え?』「1つ、あいつの挑発に乗ってやろうかと思う。大事な後輩を脅迫するような奴を見逃すなんて出来ないって事さ。大体俺は美人の味方なんだ。あんな綺麗な朱莉さんを怯えさせるよう奴を放置できるものか」『先輩……』「という訳で、これからは朱莉さんともっと親しくなっておかないとならないな。餌を蒔かなければ魚は釣れないっていうし」『もし……朱莉さんに手出ししたら許しませんからね……?』琢磨の声に凄みが増す。「ふ〜ん……オハイオ州にいるお前に何か出来るとは思えないけどなぁ?」『! な、なら明日の便で帰国したって……!』「ば〜か。冗談だよ。冗談。ほんとに昔からお前はからかい甲斐がある奴だよ」ついにこらえきれず、二階堂の顔に満面の笑みが浮かぶ。『質の悪い冗談はやめてくださいよ!』「それじゃ、そろそろ電話切るからな。また定期的に進捗状況を知らせてくれ」『先輩も……知らせて下さいよ』「会社のことか? それとも京極のことか?」『そ、そんなの決まっているじゃないですか! 両方ですよ!』「ハハハ……分か
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
Baca selengkapnya

5-19 バレンタインの罠 1

 季節は2月に入っていた。「ねえねえ、航君。明後日、勿論予定空けておいてくれるよね?」夜、2人で定番のラーメンを食べている時に不意に美幸が航に話しかけてきた。「何だ? 明後日もラーメン食べるのか? そんなに食べて飽きないのか? うん……ここの煮卵美味いな」航は味がたっぷりしみ込んだ煮卵を食べながら満足げに言う。「ち、違うってば! ラーメンの話じゃ無くて!」「それじゃ何だよ?」「ねえ、もしかして航君……わざととぼけてるの?」じっと航を見つめる美幸。「別に。何もとぼけてねーよ。何だ美幸。お前チャーシュー残してるじゃないか? 食わないらな貰うぞ?」「違うってば! 好きだから最後まで残してあるのよ!」「何だ? だったら早く食っちまえよ。じゃなきゃ俺が食っちまうぞ?」「ああ〜もう! 何でもっとムードのある話しできないかなあ!?」美幸がため息をつきながらラーメンを口に運ぶ。「そりゃ無理だろう? ここはラーメン屋なんだからさ」「それはそうなんだけど……。だったらムードのある店行ってみたいなあ……」美幸はブツブツ言いながらもラーメンを美味しそうに食べている。「ごちそうさん」航はパンと手を打って、スマホをいじり始めた。そんな様子を見ながら美幸は声をかけた。「ねえねえ、航君。それでさっきの話の続きだけど……」「いいから先に食っちまえよ。待ってるからさ」「う、うん!」美幸は急いでラーメンを口に入れ……むせた。「ゴホッ! ゴホッ!」「あ~あ……全く何やってるんだよ美幸は……」航は苦笑しながらテーブルの水差しからコップに水を汲んで美幸に差し出した。「あ、ありがと……」涙目で美幸は礼を言うと航は言った。「悪かったな。急かして。俺に構わずゆっくり食えよ」そして笑みを浮かべた。「う、うん……」そして今度は美幸は焦らず、ゆっくりとラーメンを食べながらスマホを見ている航の横顔をチラリと盗み見した。(やっぱり航君て言葉遣いは乱暴な所があるけど優しい人なんだよね。それに……格好いいし)すると美幸の視線に気づいたのか航が顔を上げた。「何だ? 美幸。さっきからニヤニヤして……変な奴」「う〜もう!」(前言撤回! 航君は意地悪だ! でも……やっぱり好きだなあ……)「ありがとうございましたーっ」店内に店員の大きな声が響き渡る。「よし、美
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
Baca selengkapnya

5-20 バレンタインの罠 2

 1時間後——「はああ……」げっそりした美幸は公園のベンチに座っていた。「悪かったな美幸。お前お化け屋敷とか苦手だったんだな?」航は自販機で買ったばかりの熱い缶コーヒーを美幸に手渡した。「はは……どうかな……。怖いのが好きな友達もいるけど……」美幸は乾いた笑いをしながらプルタブを空けてコーヒーを一口飲んだ。「ほんと、悪かった。何か埋め合わせするよ」航がポツリと言うと、美幸は顔をあげた。「ほんと? それじゃあ14日予定空けておいてくれる?」「14日? 明後日か?」「そう! 絶対だからね?」「分かったよ」航は肩をすくめた。「それじゃ、指切りして」「ったく……しようがないな……」航は苦笑すると、美幸と指切りした——**** そして2月14日、19時―― この日。美幸は気合を入れてお洒落をして表参道の駅前に立っていた。ファーの帽子をかぶり、少し大人びたワンピースにブラウンのロングコート。今日の為にわざわざ新しく買った新品のコートである。普段の美幸なら絶対にコートなんて来たりしない。軽くて温かいダウンばかり着ているのだが……。美幸の頭には去年のクリスマス・イブの出来事が頭から離れられなかった。航との待ち合わせ時間丁度に着いた時、航がベレー帽をかぶり、ロングコートを着た女性に向って駆け寄り、強く抱きしめる姿を……。(きっと航君が好きな女性は、ああいうタイプの女性なんだ)だから少しでもその女性に近付きたくて、普段は着慣れないワンピースにロングコートという井出達で航を待っていた。これから2人で行くお店だって予約済みだ。会社の社長である京極のアドバイス通りの店を予約し、そこでバレンタインのプレゼントを渡す。航は殆ど寒い外で仕事をすることが多いので、思い切ってカシミヤのマフラーを買った。(フフフ……航君、喜んでくれるかな……)するとその時――「美幸! 待たせたか?」航が背後から声をかけてきた。「うううん! 今着た所!」本当は20分前から来ていたが、そこは内緒だ。「あれ? 今夜の美幸は何だかいつもと違うな?」航は白い息を吐きながら首を傾げる。「うん。へっへっへ……似合うでしょう?」照れくささを隠すために美幸はわざと変な笑いをした。「何だよ、そのへっへっへ……って笑いは?」航は呆れたように言うが、その顔は笑顔だった
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
Baca selengkapnya

5-21 バレンタインの恋人 1

 美幸を置いて1人店を飛び出した航は駅に向かって走っていた。航の目的の場所は決まっていた。(くそっ! 鳴海翔め……!)駅に着くとホームを駆け下り、イライラしながら電車を待つ。やがて電車がホームに着くと、航は乗り込み朱莉のことばかり考えていた。(鳴海翔が別の女とバレンタインの夜に2人きりであんな高級そうな店に食事に来ていたなんて……!)ギリリと歯を食いしばりながら航は電車に揺られていた。ボディバックに入れたスマホはずっと着信を知らせていたが、航はそれには少しも気がついてはいなかった―― やがて電車が六本木駅に到着し、航は急いで降りると再び走り始めた。 その頃の航にはもう姫宮と交わした約束のことなど、すっかり抜け落ちていた。今航の頭の中にあるのは朱莉のことだけだった。(あいつの正体をばらしてやる…! そして明日香のことだって……!) ****「はい、レンちゃん。おむつ綺麗になりましたよ〜」ベビーベッドに寝ている蓮に朱莉は声をかけた。すると蓮が朱莉に手を伸ばした。「ダーアー」この頃になると、朱莉はもうすっかり蓮が何を要求しているのか理解出来るようになっていた。「レンちゃん。抱っこして欲しいのね?」朱莉は笑顔で声をかけ、ベビーベッドから抱き上げると蓮は嬉しそうな笑顔で朱莉を見て、小さな手で朱莉の頬に触れた。「まーまー」「フフッ。そうよ、レンちゃん。私がママだよ?」そして蓮を胸に抱き寄せ、愛おしそうに頭を撫でた。(ふふふ……ほんと、何て可愛らしいんだろう……)その時、インターホンが鳴った。「え……? 誰だろう……?」朱莉はモニターを見て目を見張った。そこには荒い息を吐きながらモニターを覗きこんでいる航の姿があったからだ。(う、嘘……。航君……どうしてここに……?)思わず躊躇していると、再びモニターの航はインターホンを鳴らしてきた。きっとこのままでは朱莉が応対するまでインターホンを押し続けるだろう。 朱莉は震える手でインターホンに応じた。「は、はい……」『朱莉! 俺が見えているんだろう!? 大事な話があるんだ!』航の切羽詰まった声が聞こえてくる。「わ、航君……。どうしたの……? と、突然……」朱莉は声を震わせて応答した。「朱莉! お願いだ! お前と話がしたいんだ!」「だ、だけど駄目だよ……。航君はもうここへ来
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-20
Baca selengkapnya

5-22 バレンタインの恋人 2

朱莉は航をじっと見つめると尋ねた。「航君、クリスマスイブの日に姫宮さんに何て言われたの? 私、何も聞かされていなくて……」「あ……そ、それは……」(駄目だ……姫宮が俺をストーカーにし立てあげたって話をすれば朱莉は気にするに決まっている……!)航が言い淀んでいると朱莉は続けた。「絶対翔先輩に航君とのこと追及されるかと思ったのに、何も言ってこなかったんだよ? だから恐らく姫宮さんは翔先輩が納得のいく理由を説明したのかもしれないけど……。その内容がどんなだったのか私には分からないの。もしかして一方的に航君を悪者扱いしたんじゃないの?」朱莉は心配そうな顔で航を見た。「そ、そうだ! 今夜俺がここに来たのは……朱莉! 鳴海翔のことをお前に伝える為に来たんだよ!」「え? 翔先輩のこと?」「そうだ。俺……実は今夜店で偶然に鳴海翔に会ったんだよ。そこはいかにも高級そうな店で、バレンタインと言うこともあってか、すごく混んでいたんだ。そしらアイツ……今迄見たことも無い女と2人で店に来ていて……一緒に酒迄飲んで楽しそうに食事をしていたんだよ!」「翔先輩が女の人と食事……?」朱莉は首を傾げた。「ああ! そうだ!」「そうなんだ……」朱莉はそれだけ言うとコーヒーを飲んだ。航は朱莉の落ち着いた態度が腑に落ちなくて尋ねた。「お、おい……朱莉……。お前、何とも思わないのか?」「うん。だって私と翔先輩は書類上の夫婦とういうだけの関係だし、私の立場では何も言う資格は無いもの。翔先輩が何処でどんな女性と会っていても口を挟める立場では無いから」「朱莉……?」航は朱莉が妙に落ち着いている姿が信じられなかった。(何故だ? 朱莉……お前、鳴海翔のこと好きだったはずだろう? でもこの反応からすると今は違うってことか……?)「むしろ、明日香さんの方が翔先輩に物を言える立場だと思うの。だけど明日香さんとの関係もこじれてしまっているし……」「そ、そうだ! 明日香だ! 明日香だって今別の男と一緒に長野で暮らしているんだぞ!?」「え!? 明日香さんが……? そう、やっぱり……。あまりにも長く戻って来ないから何となく予想はしていたんだけど……」朱莉は寂しそうに俯いたが、すぐに顔を上げた。「でも何故航君がそのことを知ってるの?」「実は…以前頼まれたんだよ。京極の奴に…」「えっ!
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-20
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1
...
4344454647
...
73
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status