誠也は、綾の頑なな態度に負けて、彼女目の前でしゃがみ込んだ。綾は不思議そうに彼を見つめた。「何するの?」「おんぶしてあげる」綾は桃子と民宿のオーナー、そして周囲にいる数人の観光客に視線をやった。「結構よ。もう大人なんだから、恥ずかしいじゃない」「前を見てみろ」綾は前を見た。そこには、ある高齢者男性が高齢者女性をおんぶしている姿があった。綾は言葉に詰まった。桃子は囃し立てた。「二宮社長、こんな場所で具合が悪くなる人なんてたくさんいますよ。碓氷さんは背も高いし、体格もいいんですから、頼ったほうがいいですよ。ほら、あのおじいさんだって、おばあさんをおんぶしてますし、みんな理解してくれますよ。人それぞれ体力は違うんですから、恥ずかしがることありませんよ」「でも......誠也!」綾が迷っていると、誠也に手首を引っ張られ、そのまま彼の背中に乗せられた。彼の大きな手は彼女の臀部を支えられ、綾は抵抗する間もなかった。驚きと恥ずかしさで顔が真っ赤になった綾は、思わず顔を伏せ、小声で降ろしてと訴えた。「綾、落ち着けよ。興奮すると高山病が悪化するぞ」「......降ろしてくれたら落ち着くから」「おんぶした方が早く歩けるだろ。恥ずかしいなら、肩に顔をうずめていればいい」彼に言われるまでなく、綾は顔を上げようとしなかった。誠也は彼女をおんぶしながらも、呼吸は乱れることなく、一歩一歩、しっかりと山を登っていった。綾は頬を赤らめていたが、誠也におんぶされているおかげで、自分の力で歩くよりもずっと楽だと感じていた。「綾、顔を上げて前を見てみろ」そう言われ、綾はゆっくりと顔を上げた。雪山の景色は、まるで絵画のように美しかった。綾は、しばしその景色に見惚れていた。桃子はカメラで景色を撮影していたが、ふと振り返ると、誠也に背負われた綾の姿が目に入った。二人は同じ方向を見ていて、その横顔は景色よりも美しいと感じた。桃子はこっそりと二人にレンズを向け、シャッターを切った。......目的地に着くと、誠也は綾を降ろした。そこは、綾が想像していた通りの場所だった。綾はとても満足していた。桃子も監督と脚本家に見せるための写真とビデオをいくつか撮影した。下山の時も、誠也は綾をおんぶした。
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