星はその言葉を聞いて、胸の奥がほんのり温かくなった。最近、怜はやけに彼女に懐いていて、どこへ行くにもついて来たがる。翌日、星はまた雅臣に電話をかけたが、やはり誰も出なかった。スマホの画面には、自分が雅臣に送ったメッセージが並んでいる。【雅臣、私たち、いつ離婚届出しに行くの?】【雅臣、もう約束したのに、また約束破るつもり】【雅臣、約束を守らないなんて、男としてどうなの?】【あなた、本当に離婚する気があるの?】しかし、これらのメッセージに、雅臣は一通も返していない。星の指先が無意識に上へと滑り、以前のメッセージにまでさかのぼってしまった。そこに並んでいるのも、ほとんどが彼女からの一方的な言葉ばかり。雅臣の返事といえば、ほんの数語――「うん」「わかった」「今忙しい」「了解した」程度。そして「折り返す」と言いながら、本当に電話をかけ直してきたことなど、十回に一度あるかないかだった。――この不誠実な男。いや、違う。彼が不誠実なのは、彼女に対してだけ、なのだ。電話を切って間もなく、今度は別の着信音が鳴った。弁護士からの電話だった。「星野さん、裁判所がすでに離婚訴訟を受理しました。祝日明けには神谷さんの方にも通知が行くはずです。撤回するお考えはありませんね?」「ありません」「それなら結構です。そちらに動きがあれば、必ず早めにご連絡ください」電話を切ると、星は大きく息を吐いた。――よかった。備えをしておいて。さもなければ、また雅臣に振り回されていたに違いない。ただ......この道のりは、長くて骨の折れる戦いになることは間違いなさそうだった。星は怜を連れて、中医の診療所を訪れた。ひっそりと静まり返り、薬を処方してもらう人も診察を待つ人も誰一人いない光景に、怜は目を丸くする。「星野おばさん、本当にここで合ってるの?」星はうなずいた。「うん、間違いないわ」怜はきょろきょろと辺りを見回し、不思議そうに言った。「でも、葛西おじいちゃん、このところ忙しくて人手が足りないって言ってなかった?」星も首をかしげた。これまで手伝いに来たときは、忙しい時間帯には必ず何人かの患者が並んでいたものだ。けれど今日は一人もいない。二人が中へ入って間もなく、
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