真吾が前に出て遮った。「正気か?」空気を裂くように、紙の破れる音が響き渡った。今度は柚香だけでなく、江里子まで目を見開いた。数十億円の価値があるはずの絵が、こんなにもあっけなく引き裂かれてしまったのだ。真吾は怒りに震えた。「お前、気でも狂ったのか?よくもそんな真似を!」遥香は冷然と答え、裂けた紙を皆の前に広げて見せた。「偽物の絵なら、恐れる理由はないでしょう。見てください。この木漿紙は、スプランドゥール・エ・プロスペリテの作者が使っていた画紙とはまるで違います。スプランドゥール・エ・プロスペリテの作者は竹や絹の紙しか用いなかったんです。紙からして間違っているのに、本物であるはずがないでしょ?」今度は真吾さえも呆然とし、反論しようと口を開いたものの、一言も出てこなかった。「この絵が本物のように見えたのは、実際に真作をなぞって転写したからです。ただその線は原本ほど流麗ではなく、だからこそ友人が『生気がない』と評したのも筋が通じます」展示会に贋作が並んでいた――骨董界にとっては大きな笑い種だ。柚香の顔は青ざめたり蒼白になったりと変わり、周囲は修矢の顔を立てて余計なことは言わなかったが、会場では一点の品も売れなかった。柚香のデビューは、結局のところ笑いものに終わった。帰り道、江里子は思わず手を打って笑った。「さっきの柚香の顔を見たら、本当に胸がすっとしたわ!」「でも、明日の展示に集中しよう。今日柚香に恥をかかせたぶん、明日は陰で何か仕掛けてくるかもしれない」翌日、彫刻展覧会が幕を開け、会場には人の流れが途切れることなく続いていた。遥香は責任者として入口に立ち、来客を迎えていた。何しろ鴨下家が出資した展示会だ。保は早々に姿を見せていた。今日はレトロ調のスーツに身を包み、昨日の柚香の展示会に現れたときのラフな装いとはまるで対照的だった。「鴨下社長、今回の展示会は見事ですね。会場の選び方も素晴らしいし、展示品も市場ではめったに見られないものばかり。本当に心を砕かれたのでしょう」そう褒められると、保は自然に話題を遥香へと向け、隠すことなく称えた。「今回の彫刻展は遥香が丹念に準備したものだ。確かに相当な労力を費やしている」「こちらがハレ・アンティークの新しいオーナーですね?」保の紹介もあって、来場者のほとんど
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