江藤夫人の目の前で、千尋は招待状を開くことはなかった。正直なところ、彼女はあまり行きたくなかった。怜と共に過ごした六年間は、すでに彼女にとって「過去」だったのだ。そして千尋自身は――ただ、前だけを見ていた。過去と再び交わることなど、これっぽっちも望んでいなかった。それでも、目の前の江藤夫人があまりにも誠意を尽くし、何度も頭を下げてくるものだから――彼女は断る術を失っていた。少し唇を噛み、思い切って言葉を返す。「……それじゃあ。お誘い、ありがとうございます。清人さんと一緒に、うかがいます」「本当に?ありがとう、千尋さん……絶対に、来てちょうだいね!」千尋の隣にいる榊原清人の名前が出た瞬間、江藤夫人の表情がほんの一瞬、こわばった。内心では、彼のような男が式に来ることを歓迎していなかった。――怜の心をさらに乱すだけだと思っていた。だが、次の瞬間ふと考えが変わる。逆に言えば、彼の存在を目の当たりにすれば、怜もようやく現実を受け入れるかもしれない。そう思い直した途端、江藤夫人はすぐに笑顔を取り戻した。そして、式当日。千尋は、清人と共にきちんと会場に現れた。二人の席は前列に用意されており、最初は落ち着いた様子で静かに周囲を見渡していた。しかし、何かが変だった。式場は華やかに装飾されてはいたものの、細かいところが雑で、明らかに手が回っていないのが見て取れた。まるで――新郎が心ここにあらず、といった印象だった。……怜さん、本当は結婚したくないの?そんな考えが千尋の頭をかすめたが、すぐに打ち消す。場内に音楽が流れ始め、千尋は扉の方を振り返る。怜と晴美が、腕を組んでゆっくりとバージンロードを進んできた。本来ならば、絵になるはずの光景。しかし、どちらの表情にも晴れやかさはなかった。怜の視線は、千尋に釘付けだった。すれ違った後でさえ、名残惜しそうに彼女を振り返るほどに。その様子に、晴美の顔はみるみる険しくなり、千尋を鋭く睨みつけた。けれど何も言わず、笑顔を取り繕いながら司会者の言葉を聞く。千尋はその光景を静かに見届けた。指輪の交換、誓いのキス――すべてが粛々と進められていく。式に来るまでは、心が少しは揺れるかと思っていた。六年もの夫婦生活の終わりを
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