「薬草の採集に行きたいんです。新しい種類も探したいし生育環境もこの目で確かめたい」ある日、国立図書館に向かう予定だったが護衛たちに行先の変更を懇願した。彼らは私の安全を心配して最初は難色を示した。「王宮の外へ出るだけでも、細心の注意が必要なのです」と、いつものように警戒を口にしたが、私の目に宿るただならぬ決意と必死な様子に、最後は根負けしてくれた。彼らの警戒の目をどうにか掻い潜るように、私は王宮の外へと向かった。向かった先は、古くから薬草が多く自生していると伝えられる場所。それは、隣国ゼフィリア王国の国境線に近い人里離れた森の奥だった。以前なら、王子たちの許可なく、外出することも、ましてや予定を変更して違う場所に行くなど考えもしなかっただろう。だが、今の私を突き動かしていたのは、そんな常識を打ち破るほどの、自分の存在価値を見出すための、必死の行動だった。もがき、もがき、ただひたすらに、自分がまだこの世界に必要とされる人間だと信じたくて、私はそこへと向かったのだ。 (もしかしたらこの新しい薬草がこの国の誰かを救うかもしれない。そしてまた、私が「必要とされる」理由になるかもしれない。そうすれば、サラリオやルシアンも、また私に目を向けてくれるかもしれない。)そんな微かで、けれど胸を締め付けるほど切実な願いが、私をその危険な場所へと突き動かしていた。誰かを救うことが私自身を救うことに繋がるような気がした。日本で夫に顧みられなかった経験が、私の心に「無価値」という深く傷となっていた。この国で一度はそれが拭い去られたと思っていたが
Last Updated : 2025-07-19 Read more