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last update 최신 업데이트: 2025-06-13 17:00:50

 初めての診察日は、五日後の午後だった。産科は基本女性しかいないのと、コウノトリプロジェクトがなかなかデリケートなことなので、俺の場合は、午前中の外来が終わった後に診察と治療が行われるんだという。

 しんとしていて、ほとんど人がいない大学病院のフロアは独特の静けさがある。パステルピンクを基調とした産科のフロアは明るくて、どことなくやわらかなやさしいにおいがする。

「独島さんはぁ……身長が一六〇センチで、体重が五〇キロ……血圧は……」

 診察はいつも体重と血圧を測ることが義務付けられているらしく、今日は初回なので看護師にやってもらっている。

「血圧は問題ないですけど、ちょっと独島さん細めなので、なるべくたくさん食べてくださいね。そうするとお薬も効きやすいし、赤ちゃんもできやすいので」

「あ、はい」

「このあと先生からお薬の説明がありますので、お待ちくださいねぇ」と言いながら、看護師は忙しそうに診察室を出て行く。

 入れ替わるように俺の主治医となった蓮本先生が入ってきて、心音を聞いたり体調を訊いたりしてきた。

「で、これがこれから独島さんに毎日飲んで頂くお薬です」

 そう言って、薄いオレンジ色の風邪薬みたいな楕円形の錠剤の並ぶシートを差し出された。これを、毎日欠かさず三食飲むことから治療が始まる。

「効用は個人差ありますが、数カ月くらい飲むと少しずつ体が変化してくると思います。胸が張るような感じがしたり、お腹……下腹部ですね、がじんわり痛くなったり。それらはホルモンによる副作用です。ほとんどはすぐに回復しますが、あまりにツラかったらご連絡ください。緊急事態でなければリモート診察いたしますので」

「はい、わかりました」

「何か、わからないことや、気になることはありますか?」

「え、ッと、あの……薬飲んでる間って、その……セックスってしていいんですか?」

「ああ、はい。体調がいいのであれば問題ありません。ちゃんと射精もしますよ。ただ、薬の効き目が強くなってくると、射精量は減ると思いますが」

「あの、それでデキるってことは……」

「うーん、それはあまり可能性がないかと。腹腔に着床させる治療ですからね。そういう事での妊娠例もいまのところありませんし。そもそも、この段階の薬を飲む程度ではそこまで妊娠しやすくはなりにくいですから」

 服薬で順調に体調が変わってくれば、早ければ二~三か月ぐらいで点滴治療も加わるんだという。そうして段々身体を変化させていって、妊娠できるようにしていくんだ。そうして妊娠できたなら、最短で一年弱くらいで子どもを産むことになる。

 一年弱……その間、俺は薬や点滴をして身体を変えていきながら、ディーヴァもやっていくことになるのだ。いつまで俺がディーヴァでいられるのかはわからないけれど、出来るだけ長くたくさん唄っていけたら、とは考えていた。もし万一俺が死んだとしても、すぐにこの世からディーヴァが消えてなくならないように。

「ところで、独島さんのお仕事って何ですか? 立ち仕事だったりします? 何か重たいものを持ったりだとか」

 唐突に仕事のことを訊かれ、俺は一瞬ディーヴァであるかどうかを告げるのをためらった。ディーヴァであることは、ごく限られた人間の間でしか共有されない秘密としているからだ。

 とは言え、ここは患者の命を預かる病院であり、特にここはコウノトリプロジェクトという究極のプライバシー事項を扱う病院でもある。そう考えたら、素直に事実を告げておく方がいいだろう。

「歌を、唄ってるんです」

「ほう、歌手ですか。アーティストって言うんですかね。僕もディーヴァとか良く聴くんですよ。もしかして歌声への影響を心配されてます?」

「あ、はい……俺、そのディーヴァなんで、歌声が大きく変わったら困るんです」

 俺の答えに蓮本先生は目を大きく見開いた表情をし、「そうなんですか?」と、声を潜め、控えめに驚いていた。診察室で大きな声を出すわけにはいかないとは言え、それでも感情を隠せないのがちょっとおかしかった。

 俺がディーヴァであると知った先生は、「それならかなりお忙しいのでは?」と、訊いてくる。

「えーっと……ライブ本番はいまのところ月一~二くらいで、そのリハと、他にレコーディングもあって……」

 ざっくりと俺の普段の仕事のスケジュールを話すと、先生は腕組みをして少し考えこみ、やがて考え考えしながら口を開く。

「そうですねぇ……ホルモンの影響で多少……若干ですが、声に影響は出るかもしれません。急にものすごく音が高くなるとかではないと思うんですが、もしかしたら、プロの方は気になるかもしれません」

「あ、そうなんですね……なるほど」

「声もですけれど、何よりライブとか仕事におけるプレッシャー、緊張されることもありますよね? そういうものがホルモンによって影響を強く受けることもあるかもしれない、という事は頭の隅に置いておいてください。情緒不安定になるケースもなくはないので」

 ホルモンのバランスを変えるのだから、それは仕方がいない副作用だと先生は言い、より詳しい影響の書かれた資料のQRコードを教えてくれた。

 基本、ホルモン剤を投与する治療の間は、治療というけれどサプリを摂取する感覚に近い、とも蓮本先生は言っていたので俺は少し安心する。薬がものすごく苦かったりしたら毎日続けるのにちょっと困るからだ。

 ただ少し、声への影響が心配ではあるけれど、こればかりはやってみないとどれくらい影響が出るかわからないらしい。

「副作用の強さは個人差が大きいですし、独島さんは初めての事ばかりなので不安も大きいかと思います。もし少しでも不安があったり、いつもと違うなと思うことがあったらいつでもご連絡ください。リモートでカウンセリングもしますので」

 にこやかにやさしくそう言ってくれた蓮本先生と、付き添いの看護師の雰囲気に安心して、俺はこの病院で治療を受けることを決めて良かったと思った。

 病院を出るともう午後遅い夕暮れ近い空になっていて、帰りつくともう夕方の六時過ぎだった。

 早いけれどもう夕食にしようと思いながら冷蔵庫を開け、蓋を開ければすぐできるインスタントのパスタを取り出す。パスタを食べながら、ふと、こう言う食事とかもあんまりしていたらなんか言われるのかな? と思ったけれど、とりあえず今日はいいか、と思いながらそのまま食べた。

 食後、さっそくもらってきた薬を一錠手のひらにとる。薄オレンジの楕円形のラムネのような薬。

 ミネラルウォーターでぐいっと一気に飲み込むと、すーっと喉を通って腹の中に落ちて言った気がした。

「……まあ、さすがにまだ何にも変化ないか」

 なんとなく胸元を触ったり、下腹部まで手を伸ばしてみたりしたものの、さすがにいますぐに何かが変わる様子はない。処方された薬は次の診察日――翌月の今日、同じ時刻までなのでかなりの量がある。

 これをこれから毎日毎食後か……もうさっそく軽くうんざりしつつも、望みを叶える為の一歩なのだからと、俺はひとつ息をついて薬を片付けに行った。

「あれ? 唯人風邪でもひいた?」

 十日後、珍しく朋拓と一緒に出掛けて外で食事をした時、さり気なく薬を飲もうとしたら、目ざとく見つかった。

 ここで、「実は――」とでも言えれば良かったのだろうけれど、生憎そこは騒がしい音楽のかかっているダイニングレストランだったし、そもそも声を張り上げるようにしてまで口にする話題には思えなかったし、何よりこの前の言葉がまだ俺は引っ掛かっていた。

 だから俺は、ただ首を横に振って、「風邪じゃないよ」とだけ告げる。

「じゃあ、|腹痛《はらいた》?」

「病気じゃないって。サプリみたいなもんだよ」

「…………」

「何、その目」

 俺の言い訳に朋拓が何か|訝《いぶか》しげな眼をしているので、ムッとして問うと、朋拓は少し首を傾げて答えた。

「いや、なんかいままでそんな、健康志向なこと言わなかったのになーって思って」

「俺だってサプリぐらい飲むよ」

「ふぅん……それ、本当にサプリ?」

 疑うようなことを珍しく言われ、胸が音を立てる。でも、まだ投薬始めたばかりで特に体に変化もない段階で、妊娠のための治療をしているといっても信じてもらえないだろうし、何より先日の朋拓の考えを聞いてしまった手前、もう既に治療を始めているとは言い出せない。そんな危険なことを勝手にして! と言われるんじゃないかと思ったのだ。

「わざわざ俺がいるところで見せつけるように飲むってあやしい~」

 でも朋拓が言いたいのは何か違うところにあるようで、俺は水で薬を飲み下しながらゆったり微笑んでこう囁いてやった。

「――じゃあ、本当にサプリかどうか、確かめに行く?」

 朋拓の耳元に息を吹き付けるように言うと、その耳が赤く染まっていく。やっぱり、朋拓はいま俺が飲んだのは、いわゆる媚薬的な何かだと思っているようだ。

 赤く染まった耳から離れて顔を見つめると、その顔が鼻先まで染まっている。でも目は恥じらっている様子はない。むしろ嬉しそうに細められている。

「いいね、行こうよ」

 朋拓がうなずいたが早いか、俺は彼の手を取って席で会計を済ませ、そのまま店を後にした。そうして、朋拓からの“チェック”を受けるために裏通りに並ぶラブホ街へと並んで歩いて行く。

 けばけばしいネオンがふたりを歓迎するように瞬いていた。

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최신 챕터

  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *エピローグ

    “――おねむりよい子 あまいミルクに つつまれて    おねむりよい子 あったか毛布に くるまれて    よいゆめを よいあすを おねむり おねむり――” 陽だまりのにおいのするブランケットに包まれた小さなぬくもりが曇りのない瞳で唄う姿を見つめている。いつか見たかもしれない記憶のどこかに眠る景色に俺は目を細めて眺めてしまう。 やさしい歌声が繰り返し口ずさむ子守唄に、小さな瞳は無邪気な笑みを返してくる。「もーう、ご機嫌なのはわかるけど、お昼寝してくれよ、カナデぇ」 かれこれ一時間近く子守唄を唄ったり寝たふりで誘導したりしても、ちっとも眠る気配のない小さなカナデと呼びかけられた赤ん坊に、朋拓がとうとう|音《ね》を上げた。当のカナデはケタケタと機嫌よく笑っている。 すっかり我が子におちょくられている朋拓の姿がおかしくて思わず俺が笑うと、子どものように拗ねた顔をした朋拓か助けを求められた。「唯人ぉ、笑ってないで助けてよ~。カナデ、俺が唄うと笑って寝ないんだもん」「朋拓の声は寝かしつけるって言うより元気になる歌声だから」 俺がそう言いながらベビーベッドを覗き込むように立っている朋拓の隣に立って中を覗き込むと、カナデは嬉しそうに声をあげる。手を差し出すとしっかりと力強く小さな手で握りしめてくる。そのぬくもりと力強さに、俺はいつも胸がきゅっとしてしまう。 ほんの半年前、カナデは俺がこの世に産み出した正真正銘の血を分けた俺と朋拓の娘だ。目許は俺にそっくりで、口元は朋拓によく似ている。笑うとますます朋拓に似ていて、寝ている姿は俺にそっくりだと朋拓は言う。 長く決して平坦と言えなかったコウノトリプロジェクトの治療とそれによる妊娠期間を経て授かったカナデは、生誕時こそ小さめであったけれど、いまはすくすくとミルクを飲み、そろそろ離乳食を始めようかという頃だ。 朋拓に

  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *32

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  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *31

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  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *30

     帝王切開での出産を迎える俺の予定日は十月二十四日。偶然にもその日は俺と朋拓が初めてメタバースのSUGAR内で出会った日だった。 きちんと俺が憶えていたわけではなく、朋拓に予定日を告げたらそう教えてくれたのだ。「え、そうだったっけ?」「そうだよー。まあ、唯人はそういうのこだわらないのは知ってるけどさ。俺はすっげぇテンション上がったんだよ、運命だー! って」「でもそう言われると確かに運命的な気がしてくるね」 俺が大きく丸くなったお腹をさすりながら言うと、その手に朋拓も重ねてくる。お腹の中の子はこの八カ月ちょっとの間、大きなトラブルに見舞われることなく順調に育ってきているらしく、とても元気がいい。現にいまも俺らに存在を誇示するように胎動している。「っはは、元気だなぁ。自分が話題の中心だからかな」「主張が激しい子みたいだね」「いいじゃん、自己主張は大事だよ、唯人」 苦笑する俺に朋拓が嬉しそうに笑い、俺もそうだねとうなずく。 手術にあたっては、数日前から準備のために俺は入院して、朋拓は前日の今日から付き添いで明日の手術まで泊まり込んでくれることになっている。 大きな手術はコウノトリプロジェクトを含めて全くの初めてで、手術は万一に備えて全身麻酔で行われることになっているんだけれど、不安が全くないと言えば嘘になる。 いまこうして朋拓と笑い合っているけれど、あと一ヶ月ほどあともそうしていられるかわからなくて、ふとした時に考え込んで口をつぐんでしまう。「唯人?」「あ、ごめ……なんだっけ?」「疲れた? もう休もうか」 朋拓が心配そうに優しく顔を覗き込んでくる。それに微笑んで返そうとしたけれど、なんだかうまく笑えない。震えそうになる指先を、朋拓がそっと握りしめてくれる。「唯人、怖い?」

  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *29

     ボーナストラックのレコーディングの三日後に俺は病院からの連絡を受け、無事受精で来た卵子を腹腔に入れてもらった。 通常体外受精をしたあとは特に行動に規制なく日常生活を送れるというのだけれど、俺の場合は無事着床が確認できるまでは絶対安静を言い渡されているので、そのまま入院して様子見となる。 今回は絶対安静なので部屋の中であっても動き回ることは制限されていて、基本ベッドに寝ているしかない。勿論歌うなんてとんでもないので絶対禁止だ。「大声で笑うのも禁止だって言うからさぁ、お笑い番組も見るのためらっちゃうよ」『そっかぁ、それは退屈すぎるね』 ホログラム表示のおかげで寝ころんだままでも難なく対面しているように通話はできるけれど、着床が確認できるまでは家族であっても面会ができない。それくらいの安静なのだ。『起き上がるのってご飯の時くらい?』「うん、そう。あとはずーっと寝てる」『本とか読む?』「飽きちゃったよ。面白くても笑っていいかわかんないし」『少しくらいならいいんじゃない?』「そうかなぁ……なんかさ、物心ついてからずーっと唄ってたから、こうやって唄えない毎日ってすごく変な感じ。まるで自分の一部が使えなくなってるみたい」 唄うことは俺にとって生きていく|術《すべ》でありながら表現であり、意思表示でもあったから、それを制限されるとどうしていいのかわからなくなる。物足りないというよりも何かが欠けている気がしてしまう。 そして同時に、こんな日々が永遠に続いたらどうしようという不安も漠然とある。「俺、またディーヴァになれるのかな。唄い方とか忘れないかな」 自嘲するようにそう呟くと、朋拓が『忘れないよ、絶対』と強い口調で返してきた。 問うように見つめると、朋拓は真剣な顔をしてこう続ける。「唯人は

  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *28

     妊娠前最後になるだろうという事からかなりいつもより激しめにセックスをしたことで俺は意識を飛ばしてしまい、病院からの連絡に気付くのが遅れてしまった。 病院からの連絡とは昼間採取して提出した精子の状態の報告であり、更に先日先に作成していた俺の卵子と受精するかどうかという話だ。「病院、何だって?」 伝言メモの音声を聞き終えた俺に朋拓がそわそわした様子で訊ねてくる。コウノトリプロジェクトで妊娠を希望していても、相手の精子が弱かったりなかったりして、不妊であることが発覚するケースが少なくはないと病院で聞いているので、朋拓がそわそわして病院からの話を気にするのも当然だろう。「精子、良好だって。だからすぐにでも受精させるって」 俺がそう言って朋拓の方を見ると、朋拓は心底ほっとしたように息を吐いてくたっとしなだれかかるように俺の隣に寝ころんだ。「良かった~……ちゃんとした精子なんだ~」「精子の健康状態なんてこういう機会でもないと知ることもないだろうしねぇ。卵子も良好みたいだから、たぶん大丈夫だよ」「うん、そうだね……唯人、今度いつ病院行くの?」「んー、病院から連絡きてからなんだけど、たぶん一週間以内に来てくれって言われると思う」「そっか……そしたらいよいよ、なんだね」 卵子に精を受精させるのはその日のうちに行われるらしいけれど、胎内(俺の場合は腹腔だけど)に戻すまでには数日程を要するらしく、着床させるのは更にその後になるという。 着床して、さらに胎児の心音が確認できれば無事妊娠したと認められるのだけれど、そこまでの道のりは険しいし、そのあとも妊娠を維持させる努力をしなくてはいけない。「んまあ、そうだけど、それまでにあれをやっちゃわないと」 受精卵を入れ

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