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last update 최신 업데이트: 2025-06-12 17:00:33

「あらぁ、そう。でもそれはまあそうでしょうねぇ」

 翌日、自分の部屋に戻りながらの道中、次の曲のコンセプトの話し合いをレコーディングスタッフとリモート会議の前に、平川さんと二人で話をする時間があったので昨日の話……というか、愚痴を言った。そしたらこの反応。

「それはそう、って……でもさぁ、もしかしたら俺がそういうのを望んでいるかもってチラッとでも想像してくれたって良くない?」

「まあそうではあるけれど、それはちゃんと口にしてみないとわからないことだしねぇ」

「事務所の社長だっていいっていてくれたし、平川さんだっていいと思ってくれてるし、何よりあいつは俺とのこと家族になりたいと思ってくれていると思ったのに……」

「仮定の話であっても彼は唯人のことが心配なんだよ、命がけなのは確かなんだから」

 良い彼氏じゃない、と言う平川さんの言葉も、朋拓の考えも間違いだとは俺には言い切れないし、似たような理由でコウノトリプロジェクトに強く反対する人は多いし、断念する人たちもいる。それだって相手を想ってこその考えから来ている。

 だからこその今回の公費の増額が決まったのだろうし、逆に言えばそうまでしないとこの国の人口減少は止められないとも考えられる。

 じゃあ俺の望みはその人口減少を食い止めたいからプロジェクトに参加するという志なのか、と言うと、そうではなく、ただひたすらに個人的な望み――俺と血を分けた我が子を抱き、俺が唯一知る子守唄を歌い継ぎたい、という望みを叶えたいだけだ。それをワガママだと言われてしまえばそれまでの話になってしまうのだけれど。

 単純に俺が朋拓を愛しているから、コウノトリプロジェクトにいますぐにでも朋拓の賛同得て妊娠出産を、と考えるのにはもう一つワケがある。

 コウノトリプロジェクトには、自然妊娠が難しい女性の身体を妊娠させる治療と、男性の身体を母体としての妊娠と出産を行うために治療を施すことがあり、俺が挑みたいのは後者だ。

 そのためには自分の細胞を採取して卵子を作り出し、相手の精子と体外受精で掛け合わせた受精卵を胎内となる腹腔に着床させることで妊娠とするらしい。妊娠の維持継続のためには女性ホルモンを常に投与し続けることが必要なのだが、それだけで済む話じゃないからだ。

「だって、卵子を作って、受精卵作って、妊娠……ってなるまでだって半年くらいかかるし、一度妊娠を失敗したら次の治療に取り組むまでに体を休ませなきゃいけない。そもそも妊娠できるにものタイムリミットがあるって言うし……そういうの考えたら、悠長に構えてられない。だからいますぐにって思ってるのに……」

「唯人の言い分もわかるけれど、そもそも相手の同意もなにもまだないじゃない」

「……だからどうしようって思ってるんだよ。時間も限られてるし」

「唯人が焦る気持ちもわかるけれど、急がば回れって言うでしょ?」

「じゃあ平川さんは、やっぱり反対?」

 ミーティングルームの画面に表示されている平川さんに訴えかけるように問うと、彼女は困ったように苦笑する。

「個人的な話で言えば、私は唯人の親代わりをしているから、親としては唯人の気持ちを応援したくはあるよ」

「だったら……!」

「でもね、これは親だとかマネージャーだとかと言って私が口出しする話じゃないと思うの。唯人と、唯人のパートナーとの話。他人がどうこう言えることじゃないから」

 だからちゃんとふたりで話合わなきゃ、と言われたのだけれど、それができる可能性があるならいまこうして愚痴は言っていないんだけれど……という思いを呑み込み、俺はひとまずうなずく素振りはした。

(やっぱり、精子だけもらうっていう手しかないのかな……子どもを産むというゴールは同じだろうけれど……ただ精子提供だけっていうのはなんか、違う気がするんだよなぁ……)

 俺としては朋拓も同じ気持ちでいてくれた上で挑みたいから、精子だけくれたらそれでいい、という考えは最終手段でしかないのだけれど……果たして上手くいくのだろうか。

 でもいま確実に子どもを宿せそうなのは、精子だけをどうにか提供してもらうしかない気がする……しかもそれさえも確約できない……その現実が俺を|暗澹《あんたん》たる気持ちにさせていた。

(それとも、愛されているのを感じた上で子どもを産みたいっていうのは、俺みたいなやつには贅沢なワガママなんだろうか……)

 他のカップルの事例を聞いたことがないから余計に俺は現状の困難さがわからずただ一人で思い悩むしかない。

 平川さんに愚痴を言った翌日、悩みに悩んだ末、俺はコウノトリプロジェクトに関する説明を受けた大学病院――帝都大学医学部付属病院、通称・帝都大病院に行ってプロジェクトを受けるための手続きをすることにした。

 悩んでいる間にどんどん時間だけが過ぎて、妊娠できたかもしれないチャンスを逃すのが怖かったのと、プロジェクトに賛同して治療を希望するという意思表示だけでもしていれば、いつでも治療に関する相談は受けられるという話だったので、登録だけでもしておこうと思ったのもある。

 カップルによっては、仕事や、健康上の理由ですぐに治療に取り掛かれるようなお互いの都合がつかない場合もよくあるらしいし、何より、身体への負担が大きいので、色々と整った状態で臨んだ方がいい、とも病院で話をされてもいたので、登録だけしている、という人も結構いるらしい。

「――治療の内容は以上になりますが、コウノトリプロジェクトは、言わば究極の生殖医療でもありますし、成功例も増えては来ていますが、それが一〇〇パーセントの成果を保証するものではありません。なにより、母体となる独島さんの負担は、かなり大きなものになります。様々な事情で治療を途中で止める例も少なくありませんし、男性母体での成功例は女性に比べると世界ではまだ安心できるほど十分多いとは言えません。それでも、治療を希望されますか?」

 産科の特別室に通され改めての説明をされた上で、最終的に本当に治療を受けるかを訊かれる。

 産科医の中でも国内トップクラスという、|蓮本《はすもと》先生という三十代~四十代くらいの男性の先生が、俺に資料を見せながら一通りまた説明をしてくれて、俺はその一つ一つを真剣に聞いていた。

 妊娠するまでに服薬する薬の副作用のことも、身体に起こる変化も、治療そのものにかかる歳月も、男性が母体になっての妊娠出産の成功例の女性に比べて安心できるほど多いとは言えない事も、全部、俺は解っているつもりだ。すべてを承知の上で、今日から始めてくれというつもりでここに来ている。だから、俺は迷うことなくうなずいて答えた。

「はい、希望します。お願いします」

 俺の言葉に、蓮本先生はメガネ越しの目をゆったりと細め、「こちらこそ、よろしくお願いします」と微笑む。そのやわらかでやさしそうな雰囲気に俺はこの先生なら大丈夫だな、と、安心感を覚える。

 そうしてさっそく最初の診察日の話に移って、その日に何をするかの話が始まる。説明の際の資料のほとんどがタブレットで見るもので、すべての説明が終わった後でQRコードを読み込み、資料を自分の端末に入れる。ここに今日の説明の資料がすべて入っているんだという。

 病院を出る時に、“コウノトリノート”というアプリもインストールするように言われ、これから治療のことや、その時の体調や心境なんかをこれに記録していって、毎日アプリ経由で病院に提出して欲しいと言われた。プロジェクトのデータとして、そして今後の研究のために集めているという。

 帰り道に寄ったカフェの隅の席で、忘れないうちにもう一度アプリを起動し、すぐに資料を確認する。「パートナーやご家族にも、必ずアプリ入れてもらって下さいね」と、看護師に言われたけれど、俺はそれに曖昧にうなずくしかなかった。実は、今日病院に行くことも、そこで何を始めるかも、まだパートナーであるはずの朋拓に話さないままで来たからだ。

「伝えるべきことはわかって来たけど、いつあいつに伝えるかってことだよなぁ……早いに越したことはないんだろうけど」

 治療が軌道に乗って、いつでも妊娠できる、くらいになってから明かした方が話は早いんじゃないだろうか、と俺は思っているのだけれど、どうなんだろう。そんなこと言ったら平川さんに激怒されそうだけれど、なにせ、朋拓の考えがこの前の話を聞く限り頑ななようで、切り出すタイミングが計れない。

(それに、投薬の副作用とかどうなんだろう……ホルモン療法みたいなもんなんだろうけど、歌声に影響強く出たりするのかな……)

 正直言えば、コウノトリプロジェクトの治療に不安が全くない、といえば嘘になる。いくら治療を受ける人が増えて、成功例もそれなりにあって、国が推奨しているとは言っても、俺自身にとっては未知のことに挑むことに変わりはないのだから。

 それでも、こうしてわざわざ病院に足を運んでまで手続きをして臨みたいという姿勢をとるのは、やっぱり、俺が強く血の繋がりのある家族が欲しい、と望んでいるからだ。その手段にようやく出会えた、それだけでも俺は嬉しく思っている。

「大丈夫……きっと、上手くいく」

 ずっとずっと欲しかった存在がようやく手に入るかもしれない。その可能性の影がちらりと見えてきただけでも、俺にはたまらない喜びがある。

 母体である俺に負担が大きくて命がけである、相当に危険なことなんだとは思う。でも、ずっと叶えたかった望みが叶うのだったら、命だって惜しくない――そう考えているし、それぐらいの気概と覚悟でいる。

 そんな一種の興奮したような状態にあったから、上手くいく場合しか考えきれなかったんだろう。病院で説明されたように、成功例は思っているよりも多いとは言え、途中で何があるかわからない治療であることに変わりはないのに。

 ゆったりと暮れていく通りの街路樹の木漏れ日を眺めながら、俺は、ひとりまだ影も形もないぬくもりを抱く想像をしては、ひとり小さく微笑んだ。

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  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *エピローグ

    “――おねむりよい子 あまいミルクに つつまれて    おねむりよい子 あったか毛布に くるまれて    よいゆめを よいあすを おねむり おねむり――” 陽だまりのにおいのするブランケットに包まれた小さなぬくもりが曇りのない瞳で唄う姿を見つめている。いつか見たかもしれない記憶のどこかに眠る景色に俺は目を細めて眺めてしまう。 やさしい歌声が繰り返し口ずさむ子守唄に、小さな瞳は無邪気な笑みを返してくる。「もーう、ご機嫌なのはわかるけど、お昼寝してくれよ、カナデぇ」 かれこれ一時間近く子守唄を唄ったり寝たふりで誘導したりしても、ちっとも眠る気配のない小さなカナデと呼びかけられた赤ん坊に、朋拓がとうとう|音《ね》を上げた。当のカナデはケタケタと機嫌よく笑っている。 すっかり我が子におちょくられている朋拓の姿がおかしくて思わず俺が笑うと、子どものように拗ねた顔をした朋拓か助けを求められた。「唯人ぉ、笑ってないで助けてよ~。カナデ、俺が唄うと笑って寝ないんだもん」「朋拓の声は寝かしつけるって言うより元気になる歌声だから」 俺がそう言いながらベビーベッドを覗き込むように立っている朋拓の隣に立って中を覗き込むと、カナデは嬉しそうに声をあげる。手を差し出すとしっかりと力強く小さな手で握りしめてくる。そのぬくもりと力強さに、俺はいつも胸がきゅっとしてしまう。 ほんの半年前、カナデは俺がこの世に産み出した正真正銘の血を分けた俺と朋拓の娘だ。目許は俺にそっくりで、口元は朋拓によく似ている。笑うとますます朋拓に似ていて、寝ている姿は俺にそっくりだと朋拓は言う。 長く決して平坦と言えなかったコウノトリプロジェクトの治療とそれによる妊娠期間を経て授かったカナデは、生誕時こそ小さめであったけれど、いまはすくすくとミルクを飲み、そろそろ離乳食を始めようかという頃だ。 朋拓に

  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *32

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  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *31

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  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *30

     帝王切開での出産を迎える俺の予定日は十月二十四日。偶然にもその日は俺と朋拓が初めてメタバースのSUGAR内で出会った日だった。 きちんと俺が憶えていたわけではなく、朋拓に予定日を告げたらそう教えてくれたのだ。「え、そうだったっけ?」「そうだよー。まあ、唯人はそういうのこだわらないのは知ってるけどさ。俺はすっげぇテンション上がったんだよ、運命だー! って」「でもそう言われると確かに運命的な気がしてくるね」 俺が大きく丸くなったお腹をさすりながら言うと、その手に朋拓も重ねてくる。お腹の中の子はこの八カ月ちょっとの間、大きなトラブルに見舞われることなく順調に育ってきているらしく、とても元気がいい。現にいまも俺らに存在を誇示するように胎動している。「っはは、元気だなぁ。自分が話題の中心だからかな」「主張が激しい子みたいだね」「いいじゃん、自己主張は大事だよ、唯人」 苦笑する俺に朋拓が嬉しそうに笑い、俺もそうだねとうなずく。 手術にあたっては、数日前から準備のために俺は入院して、朋拓は前日の今日から付き添いで明日の手術まで泊まり込んでくれることになっている。 大きな手術はコウノトリプロジェクトを含めて全くの初めてで、手術は万一に備えて全身麻酔で行われることになっているんだけれど、不安が全くないと言えば嘘になる。 いまこうして朋拓と笑い合っているけれど、あと一ヶ月ほどあともそうしていられるかわからなくて、ふとした時に考え込んで口をつぐんでしまう。「唯人?」「あ、ごめ……なんだっけ?」「疲れた? もう休もうか」 朋拓が心配そうに優しく顔を覗き込んでくる。それに微笑んで返そうとしたけれど、なんだかうまく笑えない。震えそうになる指先を、朋拓がそっと握りしめてくれる。「唯人、怖い?」

  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *29

     ボーナストラックのレコーディングの三日後に俺は病院からの連絡を受け、無事受精で来た卵子を腹腔に入れてもらった。 通常体外受精をしたあとは特に行動に規制なく日常生活を送れるというのだけれど、俺の場合は無事着床が確認できるまでは絶対安静を言い渡されているので、そのまま入院して様子見となる。 今回は絶対安静なので部屋の中であっても動き回ることは制限されていて、基本ベッドに寝ているしかない。勿論歌うなんてとんでもないので絶対禁止だ。「大声で笑うのも禁止だって言うからさぁ、お笑い番組も見るのためらっちゃうよ」『そっかぁ、それは退屈すぎるね』 ホログラム表示のおかげで寝ころんだままでも難なく対面しているように通話はできるけれど、着床が確認できるまでは家族であっても面会ができない。それくらいの安静なのだ。『起き上がるのってご飯の時くらい?』「うん、そう。あとはずーっと寝てる」『本とか読む?』「飽きちゃったよ。面白くても笑っていいかわかんないし」『少しくらいならいいんじゃない?』「そうかなぁ……なんかさ、物心ついてからずーっと唄ってたから、こうやって唄えない毎日ってすごく変な感じ。まるで自分の一部が使えなくなってるみたい」 唄うことは俺にとって生きていく|術《すべ》でありながら表現であり、意思表示でもあったから、それを制限されるとどうしていいのかわからなくなる。物足りないというよりも何かが欠けている気がしてしまう。 そして同時に、こんな日々が永遠に続いたらどうしようという不安も漠然とある。「俺、またディーヴァになれるのかな。唄い方とか忘れないかな」 自嘲するようにそう呟くと、朋拓が『忘れないよ、絶対』と強い口調で返してきた。 問うように見つめると、朋拓は真剣な顔をしてこう続ける。「唯人は

  • 覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい   *28

     妊娠前最後になるだろうという事からかなりいつもより激しめにセックスをしたことで俺は意識を飛ばしてしまい、病院からの連絡に気付くのが遅れてしまった。 病院からの連絡とは昼間採取して提出した精子の状態の報告であり、更に先日先に作成していた俺の卵子と受精するかどうかという話だ。「病院、何だって?」 伝言メモの音声を聞き終えた俺に朋拓がそわそわした様子で訊ねてくる。コウノトリプロジェクトで妊娠を希望していても、相手の精子が弱かったりなかったりして、不妊であることが発覚するケースが少なくはないと病院で聞いているので、朋拓がそわそわして病院からの話を気にするのも当然だろう。「精子、良好だって。だからすぐにでも受精させるって」 俺がそう言って朋拓の方を見ると、朋拓は心底ほっとしたように息を吐いてくたっとしなだれかかるように俺の隣に寝ころんだ。「良かった~……ちゃんとした精子なんだ~」「精子の健康状態なんてこういう機会でもないと知ることもないだろうしねぇ。卵子も良好みたいだから、たぶん大丈夫だよ」「うん、そうだね……唯人、今度いつ病院行くの?」「んー、病院から連絡きてからなんだけど、たぶん一週間以内に来てくれって言われると思う」「そっか……そしたらいよいよ、なんだね」 卵子に精を受精させるのはその日のうちに行われるらしいけれど、胎内(俺の場合は腹腔だけど)に戻すまでには数日程を要するらしく、着床させるのは更にその後になるという。 着床して、さらに胎児の心音が確認できれば無事妊娠したと認められるのだけれど、そこまでの道のりは険しいし、そのあとも妊娠を維持させる努力をしなくてはいけない。「んまあ、そうだけど、それまでにあれをやっちゃわないと」 受精卵を入れ

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