離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー のすべてのチャプター: チャプター 141 - チャプター 150

172 チャプター

144.瑛斗の罠、玲の動揺①

瑛斗side火曜日の午後、役員たちを急遽会議室に集め、抜き打ちの内部監査の概要を説明した。急遽決まった打ち合わせに役員たちは何事かとそわそわしている。張り詰めた空気の中、俺は淡々と切り出した。「ネットニュースでも、一部の取引先企業で横領や不正取引のトラブルが話題になっている。我が社もそうしたトラブルが原因で信用を失墜させることのないよう、取引先の健全性を改めて確認したい。監査部門、説明を頼む」監査部門の責任者が事前に用意した資料を手に立ち上がった。俺は話を聞きながらも、玲の表情の動きを決して見逃さぬようじっくりと観察していた。彼女は、俺の言葉に一瞬だけ警戒の表情を見せたが、すぐに無表情に戻った。そして、自分には関係ないと思ったようで興味がなさそうに説明が進んでもページをめくることすらせずに静かに着席していた。「……というわけで、現状では、支払開始前に企業の信用度を確認しているため、問題ないと思われます。ですが、中には支払期日の関係で、当部門が確認する前に支払いが先行しているケースも散見されています。スポットの一回限りは対象外とし、一定額の定期支払があるものを今回の対象としたいと思います。リストにつきましては……」調査対象が述べられた瞬間、玲は、急に手元の資料をパラパラと早足で確認し始めた。その様子は何かに焦って必死な形相にも見える。
last update最終更新日 : 2025-08-26
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145.瑛斗の罠、玲の動揺②

「また、先に支払いを行っていた場合でも、特例で今月末までに調査依頼を改めて頂ければ本調査への対象外とします。今後は、従来ルートを前後した場合でも、監査部門のチェックは必須と改定しますので、よろしくお願い致します」監査部門の責任者がそう告げた瞬間、玲は無言で拳を握り、テーブルに置かれた書類の端の一点を凝視していた。玲の瞳は、怒りと焦りで血走っているように見えた。そして、会議が終わるや否や、足早に部屋を後にした。「玲さん、いつもとは違う気がしたけれど……」空は、廊下に出て俺と二人きりになった後、そう言った。「ああ、空もそう思ったか。玲がどう出るか観察しよう。対象を少なくすることと、玲をあえて泳がせるために猶予を与えたんだ。空、俺もチェックするが、例の会社の動向を時折確認してくれないか」俺の言葉に、空は深く頷いた。「もちろんだよ。そうするつもりだった。これで急に法人登録とかされたら面白いけどね」空の言う通り、俺たちが仕掛けた罠は見事に玲を動かした。1週間後には、突貫で作ったような企業ホームページが、2週間後には法人登記名簿に企業名が記載されていた。「よくこれで法人登記が通ったな……」俺は、空から送
last update最終更新日 : 2025-08-26
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146.平穏な日常と崩壊①

華side平穏な日常にいると、この生活が続くのが当たり前という錯覚を起こしてしまう。しかし、その日常は当たり前ではなく、突如として音を立てて崩される時もあるのだ。火曜日。この日は護さんが仕事のため、朝早くから東京へと向かった。長野から高速道路を使っての移動を考えると東京で暮らした方が便利なのに、この生活を続けるのは、少しでも私たちと一緒にいたいという護さんなりの優しさと愛情だ。久々に一人で過ごす時間ができたため、私は運転手に頼み、少し離れたショッピングモールへと連れて行ってもらった。護さんは少しでも時間が出来ると会いに来てくれるが、私自身としては、たまには一人の時間も楽しみたいという気持ちもあった。夕食前には戻る予定だったが、お迎えの時間には間に合いそうになかったので家政婦に頼み、久々のひとり時間に羽を伸ばしていた。トレンドが並んだ煌びやかなショーウインドウを歩き、新作コスメを試させてもらい、甘い香りの紅茶をゆっくりと味わう。家では母親に徹しているが、今日は一人の女性に戻った気分だった。それでも子どもたちのことが気になって、新作のリップ以外に買うものは子ども服ばかりだ。可愛らしいキッズ用品を取り扱う店ばかりに目がいく。羽を伸ばしても、自分は母親なのだと実感させられる。結局、予定よりも早く切り上げて別荘に戻っている最中のことだった。プルルルル……車の後部座席でう
last update最終更新日 : 2025-08-27
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150.子どもたちとの初対面、華との再会①

瑛斗side「慶くん、碧ちゃん、お迎えが来たよ!帰ろうか」 俺が迎えに行くと、婦警さんに手を引かれた慶と碧が、笑顔で俺の前に現れた。二人の顔に、不安や恐怖の色は見られない。俺は安堵の息を漏らし、婦警さんにお礼を言ってから、子どもたちを連れて警察署を後にしてから華に居場所をメールした。ここからなら三十分位で着くだろう。「何か飲むか?」急いで来たため喉が渇き、警察署の近くの自販機でコーヒーを買うついでに子どもたちに聞くと、「りんごジュース!」と元気よく返ってきた。ジュース2本と缶コーヒーを持って、子どもたちが腰掛けるベンチに一緒に座った。「それにしても、なんで急にいなくなったりしたんだ?」俺が尋ねると、気まずそうにしながら慶が伏し目がちにして答えた。その横顔は、華にそっくりで、思わず華と重ねてしまった。「あのね、僕たちが幼稚園のバスから降りたら反対側から違うバスが来て、乗ったことないから乗ってみたかったの。あと、ママがみーみのおうちにいると思って内緒で行って驚かせたかったんだ」(みーみ、とはきっと三上のことだろうな。)「みーみの家は知っているのか?」「う
last update最終更新日 : 2025-08-29
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