人ごみの後ろに立ち、玲奈は舞台袖にいる智也の姿を間から見た。何をしているのかは分からない。だが、こうして沙羅のそばに立ち続けるだけで、彼女を心の中心に置いているのが伝わってくる。ピアノ演奏が盛り上がるとともに、周囲のざわめきは賞賛に変わった。「さすが新垣社長、見る目がある。あの女性、美人なうえにピアノまで上手い。俺が女でも惚れるな」「演奏が素晴らしいだけじゃなく、スタイルも抜群......神様はこの人のどこに欠点を与えたんだろうね?」玲奈はそんな声を聞きながら、心の中で冷ややかに笑う。みんなが褒め称える沙羅――しかし、彼女は自分と智也の結婚生活を壊した張本人だ。美しい容姿の下には優しい心などない。拓海も、その言葉に不快感を覚えていた。本来智也の妻は玲奈なのに、ここにいる誰もそれを知らず、沙羅だけを「特別な存在」と認識している。玲奈はこれ以上この場にいたくなくなり、背を向けて歩き出そうとする。だが、拓海が一歩先に進み出て、その行く手を阻んだ。顔を上げ、玲奈は眉をひそめて問いかける。「......あなたも、私のことを笑いに来たの?」拓海は笑みを浮かべたまま答えず、彼女の細い腕をつかみ、満面の笑みとともに言った。「こんな素敵な音楽を聴いて、踊らないなんて損だろ?」そのまま片腕で玲奈の腰を抱き寄せ、彼女をエスコーとした。「肩に手を」玲奈はなぜか逆らえず、言われた通り手を彼の肩に置いた。拓海のリードに合わせ、音楽の中で二人は踊り始める。春日部家は決して小さな家ではなく、玲奈も兄とともに社交の場に出る機会はあった。十代の頃から社交ダンスを習っていたが、大勢の前で踊るのは初めてだし、ましてや相手が拓海のような大物だ。拓海に導かれるように、ほかの男性たちもパートナーを誘い、ダンスの輪が広がっていく。そんな中、またもや後方からひそひそ声が聞こえてくる。「ありゃ拓海だな、また女を替えたか」「ああ、拓海は女好きで有名だからな。パーティーに連れてくる女は毎回違う。今まで連れてきた女、数えきれないだろ」「でも、今回の子はなかなか綺麗だ」「いつも綺麗じゃないか。綺麗じゃなきゃ拓海の目に留まらない」「まあ確かに。でも二人、意外とお似合いだな」「拓海の手は、あのドレスの中に入れた
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