王都・アルバレスト――かつて繁栄を誇ったその都は、今、妙な静寂に包まれていた。「……音が、ない。」馬車を降りたネフィラが眉をひそめる。街路に人影はある。だが、誰も声を発しない。笑いも、怒りも、交渉も、嘆きも、何もない。「まるで、“感情が削がれた”みたいだね……。」ユスティアの呟きに、カイラムが警戒を強める。「それに、“魔力の痕跡”もない。まるでここ一帯が……。」「“記憶ごと洗われた”ような空間ってことか。」エリシアが苦い顔で言った。◆◆◆調査のためにかつての王家の諜報施設――“黒塔”に潜入した一行は、記録室に残された断片にたどり着く。「これは……失踪者の名前……? でも、全部“記録不備”で抹消されてる……。」「というか、“記録そのものが削除されている”気配だ。普通の魔法じゃこんな痕跡は残らない。」ネフィラが急ぎ補足する。「“存在を編纂から外す”って、ただの禁呪じゃ無理よ。これは、“編纂そのものを支配している者”の仕業……!」「……世界法則の領域に干渉するってこと?」「うん。“記憶の根幹”を操れる存在――もしかして、“神に近いもの”。」そのとき、記録室の奥からひとつのノートが落ちた。エリシアが拾い上げると、そこには見覚えのある筆跡が残されていた。『君のことを忘れたくない。だから、この一冊だけは、記憶の底に隠す。』「……これ、レオニスの字だ。」その瞬間
Last Updated : 2025-07-20 Read more