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第二十四話「ははそにて」

Auteur: 久慈冬桔
last update Date de publication: 2025-07-28 18:00:34

第二十四話「ははそにて」

 尊の姿が見えなくなるとケイタは、尊の残していった言葉の意味を考えた。

「他人を救おうなんて思わないでくださいね」

 確かにそうだ。他人を救おうだなんて、奢った考えだ。救われたかったのは、、まず自分だった、とケイタは己の感情をいまなら素直に認められる。

 小さい頃は無邪気に感じたままを、清香に話せた。聞こえた声の存在を話してしまった。

 ケイタと、颯太や大地との違いは、お互いに共感してくれ関係性の友達がいたかどうか。ケイタにはいなかった。そして母に、それを利用されてしまった。決定的にそこが違う。颯太は大人に自分の感覚を話さなかったのだろう。利用されないためには重要なことだ。

 自分を現実に引き戻すことができたなら、清香も暴走しなかった。

 見えないものが見えても、聞こえないものが聞えても、誰かにとってそれが不思議なことでも、その世界が心地よくても、現実に戻ることができなければ、ただの現実逃避だ。

 清香は、ケイタを通じて自分には感じられない世界に心地よさを感じ、現実世界を受け入れられずに、ついには自分で力を欲した。そして飲み込まれた。

 見えても聞えても、超えてはならない境界線を、そうとは知らずに清香は、越えてしまった。

 力を特別視して、自身の承認欲求を満たそうとするあまり、ケイタの伝えていたメッセージを、己の力として得たあとの、清香の世界にはケイはいなかった。

 例えば清香が飲み込まれずに、メッセージを受け取れたとしても、それが何に繋がっているのかを判断できなければ、メッセージを送ってくる清らかなものになりすました何者かに、いかにもなメッセージで操られる危険性があることに気づかなければならない。

 メッセージを手放しで喜んで受け取ることの、怖さを検証もせずに他人に伝える危うさを、見落してしまう。危険と隣り合わせなのだ。

 聞こえるなら、何者が発しているのかを疑う注意深さを、常に意識しなければ、なりすましの声に、飲み込まれてしまう。現に清香は飲み込まれて、飛び降りた。

 清香は、見える聞こえる力を欲するのなら、その危険がセットだということに、、考えを及ばせなければならなかったのだ。

「なに深刻な顔してるんだよ」

 ケイタが黙っているのを感じたのか、大地が前を見たまま言う。

「頭の中で屁理屈こねても仕方ないだろ。『ははそ』で磯辺餅を食べて帰ろう。蕎麦だけじゃ腹が減る」

 大地が率先して、神門を出て左手にある平成殿の中にある『喫茶・ははそ』に寄ろう、と言い出した。

オレンジ屋根の建物に、すっと吸い寄せられて行く。境内に喫茶店があることは、あまり知られていない。平成殿の一階にある『ははそ』は閑散としていた。暇を持て余したおばちゃんがお喋りをしている。ケイタと颯太と大地しか客がいない。

 水を持ってきてくれないから、大地が取りに行って窓際の席に座った。よく冷えた水が喉を通過し、ひと息に飲み干すと「はぁー」とため息をついた。

「おばちゃん、磯辺餅をみっつ」

 大地がお喋りしてるおばちゃんに声を張って注文する。

「ふたりがいてくれて良かったと思っている」

 ケイタが言うと照れたように大地がぶっきらぼうに答える。

「なんだよ、急に」

「わからなくてもいいんだ、ふたりのありがたみがわかった」

 さらに大地がこれでどうだ、という顔をして言った。

「ふーん。じゃあ磯辺餅を俺に奢れ」

 大地を窘めるように、颯太がツッコミを入れる。

「それとこれとは別」

「あー」

 大地がテーブルに顔を伏せた。

「大人なんてなりたくねぇよ。子供にはいろいろ注意してくるくせに、自分たちには甘いんだ。人の地元の神社でやらかしまくって恥ずかしくねぇのかよ」

それを見た颯太は冷ややかに言う。

「何か権威のあるものに自分の存在を保証してほしいんだろう」

 ケイタが、うだうだと考えていたことを端的に言葉にする颯太を凄いと思った。

「だからあちこちの神社に行って、あんなことをするんだろう。神様もうんざりしてると思う」

 耳が痛い。つい先日まで、ケイタのしていたことを指摘されて「ビジネスだからね」と、肩身が狭くなる。

それにかぶせるように「磯辺餅のお客様ー」と呼ばれる。大地が立ち上がり磯辺餅をトレイに乗せて持って戻ってくる。ケイタと、颯太の前に皿を置く。

 大地が割り箸を割って餅を頬ばり

「ケイタの感覚が普通に受け止められるころには、あんなやつらは死滅するから、そうしたら常識も変わるよ」

 そんなことを考えていたのかとケイタは感心する。

「餅、食わねぇの? もらっていい?」

 箸つけない颯太の餅に手を伸ばしかけている大地に

「猫舌だから冷ましてるんだよ」

 と、颯太が毒づく。

 大地が自分の餅を食べ終わり、物足りなさそうに颯太の餅を見ている。あまりにも食べたそうにしているのでケイタは「あげる」と大地の食べ終わった皿の上に、手をつけていない自分の餅の乗った皿を重ねた。颯太も大地の皿重ねて「これも」と付け足す。

「ぼくも食べてないんだから、三皿分の餅代は大地が払えよ」

 冷静な颯太の言葉に「えっ」と大地が声に出す。

「あたりまえだろ」

 颯太と大地の掛け合いが気心知れた親友同士で、ケイタは羨ましい。

「えー」

 もぐもぐしながら大地が不服そうな表情をした。

「そもそもぼくはお腹が空いてなかったし」

 ケイタと颯太の餅を、あっという間に餅を平らげた大地が「食った、腹減った」とおかしなことを言う。

「食べたらお腹いっぱいになるんじゃないのか。どんだけ食うんだよ」

 颯太は呆れたように大地に言う。

「まだ足りない」

レジで大地が三皿分の餅代を払って三人で『喫茶・ははそ』を出た。

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