佐江の足が病院の廊下の角で止まった。安浩のあの言葉を思い出し、心の中はやりきれない思い出いっぱいだった。しかし、さらに彼女を落ち着かなくさせたのは、二人きりだけの空間だった。こんな状況だと、抑えられていた想いが再燃するのはあまりにも容易い。彼女ははっきりわかっていた。沙夜が安浩に全く想いがないわけではないこと、あの対立の裏には、ただの悔しさとやりきれなさが隠れていることを。そして、安浩が沙夜を見る目は、決して友人としての心配などではなく、そこに込められた深い情は、濃すぎて解けそうもなかった。このまま二人を放っておけば、沙夜が目を覚ました時、安浩がきちんと説明すれば、二人の間に横たわる誤解は簡単に解けてしまうだろう。では、自分は?タバレンテックでの努力と、自分が安浩に秘めていた想いは、結局はすべて笑い話に終わる。佐江は冷たい壁にもたれ、指先で携帯をいじりながら、頭の中で考えていた。自分はこのまま去るわけにはいかない。二人が当然のように仲直りするのを許せない。沙夜がたまに話していた家族のことを思い出した。彼女は言っていた。家族では誰も彼女の気持ちなど考えたことがなく、ただ利益を得るための駒として扱っているのだと。大胆な考えが佐江の心に芽生えた。彼女は、以前偶然に保存した連絡先を探した。沙夜がタバレンテックに入社した時、緊急連絡先欄に記載されていた「父親」とメモされた番号だ。佐江は深く息を吸い込み、震える指先で、ついに発信ボタンを押した。電話は長い間鳴り続け、ようやく繋がった。「どちら様ですか?」佐江は心の動揺を抑え、わざと焦りと心配を込めた声で言った。「松崎さんのお父様でしょうか?私は彼女の会社の同僚の持田佐江と申します。松崎さんが会社で急に倒れ、今北城第二中央病院の救急室で手当てを受けていますが、状況が少し芳しくありません。お父様とお母様には、至急来ていただきたいのですが……」彼女はわざと「芳しくない」という言葉を強調した。案の定、電話の向こうの正嗣の声は一変した。「倒れた?また何かやらかしたのか?」佐江はこの言葉を聞いて、すぐに説明した。「詳しい状況は私もよく分かりませんが、徹夜で仕事をして、誰かと口論になり、低血糖で意識を失ったようです」「今は九空テクノロジーの常陸さんも病院に
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