「じゃああたしはこれで失礼します」そう言いながら頭を下げて挨拶をし、そのまま帰ろうとすると。「おい。ちょっと待て」 「はい? まだ何か」「送ってってやるよ」 …………ん?? オクッテッテヤル?? え、それはそのままの意味? なんか違う意味あるっけ……。「送ってってやるとは、どういう意味でしょうか……」「だから。どうせタクシーでオレも帰るし、お前も家まで乗せてってやるよ」「は!? いえ! とんでもない!!」 社長とタクシーとか無理無理! 社長にそんなんしてもらえない。「あ?」「大丈夫です。電車で帰れます」「そういう訳いかねぇよ。オレの都合でお前遅くまで付き合わせたんだし」「いえ。元々あの店にあたしも勉強のために実際行ってた訳ですし」「でも一人だとこんな時間までなんなかったろ。社長としてそういうの嫌なんだよ」「なんですかそれ」なんなんだ、どこに律儀なんだこの人は。「いいから、社長命令だ。ちゃんと送られろ」「フッ。なんですか、その社長命令(笑)」「いいんだよ。タクシーもう呼んであるから。ほら、行くぞ」なんだかなぁ。 この人はぶっきらぼうなように見えて、実は優しかったりするんだろうな、きっと。そして、タクシーに一緒に乗り込み、自宅を運転手さんに伝え、家まで向かってもらう。「すいません。なんか遠回りじゃなかったですか?」「いや。その辺りだったら、オレん家もそう遠くないから、別に遠回りとかじゃないから大丈夫」「ホントですか?」「フッ。なんだよ。お前はそんなん心配しなくていいんだよ」それが嘘なのか本当なのか、優しさなのか真実なのかはわからないけど。 だけど、なんとなく、優しさなのかなって、そう感じた。そしてクールなだけかと思ってた社長は、話せば話すほど、案外そうじゃない人なんだなってことがわかったり。 今まで笑った顔とか見ることも全然なかったのに、今日話してる中だけでも、何気なく笑ってくれるのが、なんか少し嬉しく感じて。 別にそれはたいした意味がある訳じゃないってこともわかってるし、別に何気になく話の流れで、あたしのくだらなさに笑っちゃっただけとか、きっとそんな感じなんだと思うけど。 だけど、なんかそれがこの人も案外普通の人なのかもな、なんて思ったりして。タクシーの中で、ふと社長の顔を見ると、窓の外
Last Updated : 2025-08-18 Read more