Mag-log in「慧さん……。ギュッとしていいですか……?」「え……?」あたしはあまりにも慧さんへの想いが溢れすぎて、その想いを言葉にする。「いいよ」慧さんが微笑んでそう答えてくれると、あたしはすぐに、慧さんの背中に両腕を回し抱きつき、胸元にピッタリくっついて顔を埋める。そして、慧さんも同じように腕を回してギュッと抱き締めてくれる。「慧さん。大好きです。ホントに大好きです……」「ん。オレも。依那が愛しくてたまらない」耳元で伝わるその声で、抱き締め合ってるこの身体とぬくもりから伝わるその言葉で、あたしの心も身体も細胞もすべて愛しさと幸せで包まれていく。無理に何かを話してくれなくていい。ただ慧さんの力になれるならそれだけでいい。あたしをこんなにも必要としてくれるだけで、あたしは幸せだから。「あ~。もうこのままずっと離れたくないです」あたしは慧さんが恋しすぎて抱きついたまま素直な気持ちを呟く。「オレも、今日はずっと依那とこうしてたい……」すると慧さんもあたしと同じでいてくれているのか、同じようにそんな言葉を伝えてくれる。それは自分の慧さんへの想いが溢れているということもあるけど、なんだか今は慧さんを一人にさせたくないなんて、そんな風に思ってしまう。同じ家で同じ空間で、ただ部屋が違うだけなのに、それだけでも今は寂しく思ってしまう。今はずっと慧さんのそばにいて、慧さんに寄り添っていたい。慧さんが今どんな感情と向き合っているのかはわからないけど、でも今この時に、慧さんは自分という存在を必要としてくれている。あたしはそれだけで、自分が存在する意味みたいなものを感じてしまう。ただ一緒にいれば、慧さんが話したくなれば話してくれるだろうし、そうじゃないならただそばにいるだけでいい。だから今少しでも慧さんにとって、あたしを必要としてくれる想いがあるなら、あたしは一分でも一秒でも慧さんの力になりたい。「依那……
「ホントは、最初は母親に会おうとは思ってなかったんだ」「え……?」「再会する前は、もちろんそんな気なかったし、あの時再会してからも、仕事相手として以外は会うつもりなかった」「再会、してからもですか……?」「あぁ……。今更会ったところでどうにもならないと思ってたし、実際のところ、母親と離れた時間があまりにも長すぎて、親子という感覚がどういうものなのか、イメージ出来なくなってしまったんだ……」「親子として会う感覚がわからないってことですか……?」「あぁ、そんな感じかな。だから、今日依那から話聞くまではさ、どこか他人事みたいな感覚だったんだよね……」「そんなにですか……?」「オレにとっては、母親とのコミュニケーション云々よりも、やっぱり”捨てられた”、”愛されてなかった”っていう思いのが強いってことなんだろうな。きっと自分の中でまずその事実を受け入れなきゃどうにもならないって少しずつ気付き始めた」「でも、それは事実じゃないですよ……?」「うん。依那からそれを教えてもらって、ようやくそうじゃないって知れた。だから今はそこからようやく抜け出せたっていうか」「そうです。今まで慧さんを苦しめてたお母さんとのことは全部正反対だったんですよ……?」「そうだな……。だから、それを知れて初めて親子としての関係を受け入れてみてもいいのかなって思った」「慧さん……」きっと慧さんなりにたくさん悩んだんだと思う。たくさん昔の慧さんに、今の慧さんに向き合ったのだと思う。きっとそれは簡単なことじゃなくて。ずっと受け入れられなかったその気持ちを、まして
「お母さんが離れたのは、慧さんを愛しているからこそで、決して慧さんが嫌になって離れたんじゃないです。離れていてもずっと愛してる……。これが、あの時、本当に慧さんに伝えたかった言葉です」あたしは慧さんの手を握り締めながら、慧さんに届くようにと願う。「慧さんと離れてから何度も後悔して何日も泣き続けてたって、あたしに話してくれてた時も涙されてました。慧さんのことを忘れた日はないって、そう伝えてくれたお母さんからは、すごくすごく……慧さんへの大きな愛情を感じました」あたしのこんな言葉だけでは、全然その想いを伝えられないのがもどかしい。きっと本人のその言葉で伝えるのが一番で、どれほど大切に想ってるかは、きっと会って話せばすぐにわかるはずだから。それでもその何分の一でも慧さんに伝わってほしい。慧さんはずっと愛されていたということだけでも、ちゃんと知ってほしい。だけど、その言葉を聞いても、慧さんは何も反応をしない。何かを考えるかのように、あたしから視線を逸らし、そのまま下の方に視線を落とす。そして、あたしもそれ以上言葉にせず、黙って慧さんの手を握ったまま慧さんを静かに見つめる。「依那……」すると、しばらくして、慧さんがあたしの名前を静かに呼ぶ。「はい……」あたしが返事をすると、あたしが重ねていた手を動かし、今度は逆に慧さんがそっとあたしの手を握り直し、優しく触れながら静かに微笑む。正直そんな反応が返ってくるなんて思わなくて少し驚く。あたしに返してくれたその表情は、とても穏やかだった。「オレは、依那に会えなかったらどうなってたんだろうな……」「え……?」「もしかしたらそんな現実があったかもしれないと思ったら、怖くてたまらないよ……」「慧さん……?」呟くように静かに伝える慧さんに、あたしも思わず声をかける。「ありがと。依那」そう言って、穏やかに優しい表情で微笑む慧さん。「依那はどれだけオレ
「慧さんの過去。全然悲しくなんてないですよ?」「え?」「慧さん。すごく愛されてます」あたしは一番伝えたいその言葉を、まずは慧さんに微笑んで伝える。「愛されてるって……?」あたしのその言葉にまだピンと来てないのか、少し慧さんは顔をしかめる。「慧さんは、ずーっとずーっとお母さんに愛されてますよ? 過去も、もちろん今も」あたしはその表情を崩したくて、また微笑んで慧さんをそう言って見つめる。「オレが……? あの人に……?」「はい」「まさか……」だけど、やっぱり今までの時間がそうさせてしまったのか、慧さんはそれを素直に受け取ってくれない。「なら……、なんであの時オレを捨てたりなんか……」「それが違ったんです」「違うって……?」「お母さんは慧さんを捨てたりなんかしてないです」「あの時から一度もオレの前に顔を出さなかったのに……?」「お母さんは、慧さんの幸せを思って離れたんです」「オレの幸せを……? 離れることが……?」「はい……。いや、違うな。ホントは離れたくなんかなかったんです。だけど、そうするしかなくて……、どうしようもなかったから……」「それは、どういうこと……?」「慧さんのお父さんが、自分の会社を継がせたくて慧さんを引き取りたいと言ってこられて……。もちろん最初は断られたそうです」慧さんはあたしの方は見ずに耳だけを傾けている。「だけど…&hel
「いいよ。言って?」頬に触れたまま、優しくあたしをまっすぐそのまま見つめる。「あの……」「うん」「今日……。女将さんと、会いました」一瞬あたしがそう告げた瞬間、慧さんの動きが止まる。「……そっか。また……料理でも習ってきたのか……?」慧さんはそう言いながら、女将さんの話をした瞬間、触れていた手を静かに外し、視線もあたしから逸らす。「……いえ。今日は、慧さんのお母さんとして会ってきました……」そして今度はあたしが慧さんの方に体ごとしっかり向き、視線を逸らした慧さんを隣からじっと見つめる。「え……?」あたしがそれを伝えると、慧さんは少し驚いた複雑な表情をしながらあたしを見る。「ごめんなさい。勝手なことして」あたしはまず最初に頭を下げて慧さんに謝った。「いや……。別に、謝る必要はないよ……。元々依那とあの人は顔見知りなわけだし。しかも依那はずっと慕っていたんだから、会うのにオレに遠慮することない」「はい……。でも。今回は女将さんとしてじゃなく、慧さんのお母さんとしてなので……」「それは……、どういうこと……?」慧さんが静かに呟くように尋ねる。その声はいつもより冷静に聞こえて……。慧さんがどう感じているのかが怖くて、また躊躇してしまう。「あの……、あたし……」無意識に俯いたままで、上手く言葉が出てこない。女将さんに会いに行った時は、”自分が出来ることをしたい”、”慧さんの気持ちを女将さんに伝えたい”、”女将さんの気持ちが知りたい” と、自分が思ったそれらをなんとか出来ればと思っていた。だけど、慧さんを前にして、慧さんの立場にふと立った時、それはホントは余計なお世話だったんじゃないかとも思い始めてしまう。頼まれてもないのに勝手に会いに行って、もしかしたら慧さんはまだ過去を振り返るのが辛いかもしれない。もしそうだったとしたら、あたしがしたことは果たしてよかったのかと、急に不安になってしまう。「依那?」そう思ったまま言葉に詰まるあたしを前にして、慧さんが優しく声をかける。「別に責めようと思ってるわけじゃないから安心して」「え……?」「依那はオレのために会いに行ってくれたんだろ……?」そう言って、優しく微笑んでくれる慧さん。「はい……。あたし、どうしても女将さんの……、慧さんのお母さんとしてのホントの気持ちが聞きたく
「慧さん。おかえりなさい」女将さんに会った日の夜。仕事から帰ってきた慧さんを玄関で出迎える。「ただいま」出迎えたあたしに慧さんは、いつものように笑顔で返してくれる。「あの……慧さん。お疲れのとこ申し訳ないんですけど、少しお話出来ますか……?」「えっ、あっ、うん。わかった」いつもと違う様子のあたしに少し不思議そうな反応をしながらも、慧さんは特に何も触れずにリビングのソファーへと座る。「どした? 依那」隣に座ったあたしに慧さんがすぐに尋ねてくれる。「あの……。これを話して、慧さんがどう思うかはわからないんですけど……。もしかしたら慧さんにとったら不愉快に思うかもしれなくて……。でも、あたしは、どうしてもこれはちゃんと伝えておきたくて……」今日の女将さんとのことを慧さんに伝えようと、その時は強く決心したけれど。いざ慧さんを目の前にすると言葉が詰まる。慧さんが傷ついたらどうしよう。慧さんが嫌な気持ちになったらどうしよう。必要以上に踏み込んでしまったあたしに愛想尽かされたらどうしよう。余計なことすんなって言われたらどうしよう。慧さんを想って伝えたい事実と言葉なのに、冷静になった今は、ホントに慧さんに女将さんのことを話すことが正解なのかがわからなくなってくる。女将さんのことを伝えたい気持ちはすごくあるけど、だけど、それを伝えたことで、慧さんが傷つくことになるのなら……、そんな風に思うと躊躇してしまう。きっと慧さんの中でお母さんのことは、ずっと封印してきたパンドラの箱みたいなもので。初めて二人が再会した時は、慧さんからその話をしてくれたけど、でもそれは慧さんの中でどう感じているのかはわからない。あの時は話してくれたけど、もしかしたらもうその話には触れたくないかもしれない。そんなことを思い始めたら、どうしていいか戸惑ってしまう。「依那? なんかあった……?」なかなかそこから話し出さないあたしを心配して、慧さんが顔を覗き込み声をかけてくれる。「あの……実は、あたし……」「もしかして……」いざ決心をして、ようやく話始めようとすると、慧さんがボソッと呟いた。「他に……好きなヤツでも出来た……?」慧さんはあたしから視線を外し、目の前を見つめ、静かにあたしに呟く。「……ん? え??」まさかの思ってもいない言葉が慧さんから飛び出し
「心して彼女役務めさせていただきます」そして、その気持ちを忘れないように、しっかり声に出して自分に言い聞かせる。「何、どした、いきなり」「いや。大事な仕事先の方なら失礼にならないようにしないとなと思って」「あぁ~。うん。そこがな、難しいとこなんだけど。この前お願いした相手は別にあれ以上仕事に影響なかったからあれでよかったんだけどさ。今回はこれからもまだ仕事で付き合っていく人だから、そこはまぁあんま揉めないように上手くやってほしいっていうのはある」「ですよね。なんか簡単そうに思えてちょっと責任重大ですよね」「まぁ普通の状況の彼女役とかじゃないからな。結局オレは仕事にも関わってること
「なんかお前いつでも全力だよな(笑)」「それがあたしの取り柄ですから!」「確かに。それなかったらお前じゃねえしな」「だから。あたし。仕事でも認めてもらえるような人間になろうと思って」「ん? それはオレにってこと?」「もちろんです。あたし。仕事でもちゃんと頑張ってる姿見てもらって、中途半端な気持ちじゃないってこと、慧さんとしても社長としても知ってもらいたいです」「んなの言わなくてもわかってるよ」「でも。あたしの仕事ぶりはまだ社長には見てもらったことないですし、会社の人間としては、まだ全然役に立ててなくて……」「そんなのお前の年齢と経験では普通だし」「だけど。あたし、ホントに社
「え、ヤバッ。依那、あんた社長の前ではそんな感じなんだ!?(笑)」「あっ……」「なんだ、心配することないじゃん(笑)」「え?」「ちゃんとあんたはあんたらしくいれてんじゃん。社長と初めて会った時も、そうやって同じように威勢よく立ち向かってたし(笑)」「いや、あれは……!」「あ~そっか。そういえば、あの時もそんな感じだったね。ほら、あたしが言った通りになってんじゃん」「え? なんて言ってたっけ?」「人生何が起きるかわかんないよって」「あ~、そういえばなんかそんなこと言ってたかも」「あの時、そうやって話してる二人の雰囲気いい感じだな~と思ってたんだよね」「あ~。確かに。あの時
「それならやっぱりこうやって伝えていくしかないよな」「こうやってって……?」「オレの気持ちが信じられないんだろ? なら、どんだけオレかお前を求めてるか、こうやって実践してお前の記憶や身体に刻みつけてくしかない」「えっ!?」本気か冗談かわからないような言い方に、あたしは一瞬戸惑う。「お前は今そこまで実感も自信もないかもしんねぇけど、オレはもうこうやって何かあったらお前にちゃんと気持ちを伝えたいって思うし、触れたいって思う」「慧さん……」だけど、そうやってちゃんと伝えてくれるその言葉で冗談じゃないことがわかる。「だから、これからお前が実感ないなら、オレが実感させてやる。そもそもお