礼央は咄嗟に智美を助けようと前へ出たが、智美はその隙を与えなかった。日頃から体を鍛えている彼女にとって、この程度の平手打ちをかわすのは造作もないことだ。軽やかに身を引くと、紗凪の手は空を切った。さらに追撃しようとした紗凪の手首を、礼央がガシッと掴む。紗凪は怒りに満ちた目で礼央を睨みつけた。「お兄さん、なんなの!?どうしてこの女を庇うわけ?こいつ、私のものを奪おうとしてるのよ。思い知らせて何が悪いの?」礼央が不機嫌そうに言い返す。「奪うも何も、このフロアは元々彼女に貸す予定だったんだ!お前こそ今日は何しに来たんだ、邪魔しに来たのか?」せっかくこの件をきっかけに智美に近づけるチャンスだったのに、従妹の紗凪に台無しにされてはたまらない。礼央まで智美の肩を持つのを見て、紗凪はさらに不貞腐れた。「全員揃って私をいじめるのね……伯父さんに全部言うから!」そう捨て台詞を吐くと、彼女は憤然と足を踏み鳴らして走り去っていった。その場に残された大石マネージャーは、背中を冷や汗でびっしょりと濡らしていた。どういうことだ。さっき明敏がこの智美という女性を助けたのはともかく、礼央まで彼女の味方をするとは。先ほどの自分の態度のせいで、礼央の怒りの矛先がこちらに向くのではないか。彼は慌てて智美に頭を下げた。「申し訳ございません。岩井さんと既にお話がついていたとは露知らず……知っていれば、間違いなくお味方していたのですが」この見事な手のひら返しに対して、智美は冷静に答えた。「構いません。気にしていませんから」このフロアさえ借りられれば、さっきの小さなトラブルなど問題ではない。名門の令嬢で気難しくない人間などいないのだ。紗凪より性格の悪い人間なら、これまでにも何人も見てきた。礼央は智美に向き直ると、すぐさま満面の笑みを浮かべた。その目には真摯な光が宿っている。初めて会ったとき、彼は智美を獲物として、あるいは玩具として見ていた。だが今は完全に、智美を「女神」として扱っている。男というのは、手に入らないものが一番良く見える生き物だ。それに、智美本人が美しく優秀だということもある。何より、智美は羽弥市の岡田家の次男が公に認めた恋人なのだ!女に対する男の心理は複雑だ。自分よりはるかに地位も能力も高い男に、宝物のよ
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