拓真の言葉に、信行の気分はさらに沈む。素っ気なく拓真を一瞥すると、テーブルの上のタバコの箱を手に取り、中から一本抜き出して口にくわえた。酒を注ぎ終えたウェイトレスがその様子を見て、急いでテーブルのライターを手に取り、ひざまずいて信行に火をつけようとする。信行は彼女の火を使わず、ただその手からライターを取り上げると、手で制して彼女を下がらせた。拓真はそれを見て面白がる。自分も一本に火をつけ、煙の輪を吐き出しながら信行に尋ねる。「そこまで、深刻か?」周りは騒がしく、ステージでは誰かが歌っている。信行は煙の輪を吐き出し、灰皿で灰を弾き落とすと、冷たい声で言う。「じいさんが今夜、俺に離婚を勧めてきた」その言葉に、拓真の表情が変わる。「じゃあ、真琴ちゃんとの慰謝料の話はまとまったのか?」今、二人の間に、普段の気だるく遊び慣れた雰囲気は消え去っている。拓真の問いに、信行の眉間のしわは先ほどよりも深くなる。「何もいらないってさ。副社長も辞める。おまけに、秘密保持契約書まで作ってやがる」「……」信行を見つめ、一瞬、拓真は言葉を失う。真琴が当時信行と結婚したのは、少なからず片桐家の家柄に惹かれたからだと思っていた。利益を追求するのは、非難されるべきことではない。それが、人間の本性というものだ。しかし、まさか三年も経った今、彼女が何も求めず、会社まで辞めるとは、全く思っていなかった。あの子は少し、馬鹿正直すぎるんじゃないか。それに、興衆実業に三年間も尽くしてきたんだ。信行が何か分け与えるのも、当然のことだろう。信行をじっと見つめ、拓真はきっぱりとタバコをもみ消した。「じゃあ、お前は今、どうしたいんだ?」真琴が何も求めないのなら、理屈で言えば信行は喜ぶべきだ。しかし、今の彼は、あまり嬉しそうには見えない。むしろ、少し悩んでいるようだ。素っ気なく拓真を一瞥し、重々しく息を吐くと、信行は率直に言う。「離婚なんて、考えたことはない」祖父に真琴との結婚を命じられたあの瞬間から、離婚のことなど考えたこともない。あいつが苦心して手に入れた結婚だ。一生、大人しく片桐家の若奥様として、副社長として過ごすものだと思っていた。まさか、たった三年で、全てを放り出して辞めてしまうとは。信行の身勝手さに、拓
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