「確かに、簡単なことばかりではないわ。古い考え方の人もいるし、悔しい思いをすることもある。でもそれ以上に、性別や年齢に関係なく、出した成果を正当に評価してくれる人もたくさんいる。一番大事なのは、どんな状況でも自分の仕事に誇りを持つこと。そうすれば、必ず見ていてくれる人がいるわ」(陽斗君みたいにね) 美桜は心の中で付け足した。 美桜の言葉には、困難を乗り越えてきた者だけが持つ、しっかりとした重みと優しさがあった。 彩花はメモを取るのも忘れて、ただ憧れの眼差しで目の前の美しい先輩を見つめていた。 蒼也もどこか眩しいものを見る瞳で、美桜を眺めている。「……ありがとうございます! すごく勉強になりました!」 彼女はスマホ閉じると、それまでの真剣な表情から一転、いたずらっぽい笑みを浮かべた。「さて、OG訪問はこれでおしまい、と。それで、本題ですが――」「本題?」 美桜が首を傾げると、彩花は身を乗り出した。カフェテーブルの上のコーヒーカップがカタンと揺れる。「美桜さんってまさか、うちの猫のミオの名前のもとになった人ですか? 兄が高校の時からずっと片思いしていたっていう」「えっ!?」 美桜は突然の暴露に、思考が停止した。「彩花! お前、何を言ってるんだ!」 蒼也が慌てて止めようとしている。顔が真っ赤だ。 だが彩花は全く気にせずに、むしろ勢いをつけて続けた。「ねえ美桜さん、うちの兄貴はおすすめ物件ですよ。頭はいいし、お金もある。けっこうイケメンで、会社は将来有望。それなのに恋愛は堅物で、浮気の心配もない。初恋の人の名前を猫につけるとか、ちょっと引くところもあるけど、悪い人間じゃないし? ねえ、どうかな?」 彩花がセールスマンのように兄の美点を(少々余計な情報も交えながら)強引にアピールする。蒼也は「やめろ!」「もう帰るぞ!」と、妹を必死で止めようとしていた。 蒼也はついに「美桜さん、すまない!」と叫びながら、まだ何か言いたそうにしている彩花を、文字通り引きずるようにして席を立たせた。
Last Updated : 2025-10-27 Read more