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第9話(35)

Author: 北川とも
last update Last Updated: 2025-12-19 14:00:26

「――先生」

 賢吾に呼ばれて、口移しで氷の粒を与えられた。嬌声を上げ続けた喉が潤い、思わず和彦は吐息を洩らす。

 もう一度氷の粒を与えられ、そのまま賢吾と舌を絡め合っていた。和彦の鎮まりきらない欲情を感じ取ったのか、賢吾がゆっくりと内奥を突き上げ、簡単に喘がされる。

 そんな和彦を指して、賢吾は鷹津に言い放った。

「いいオンナだろ、鷹津? 俺の、大事で可愛い特別なオンナだ。……お前みたいな下衆が近づくなよ。先生が汚れちまう」

「汚物そのもののヤクザが、言えたことか」

「そのヤクザに寝首を掻かれて、一度潰された奴がいたな。そういえば――」

「だが俺は、刑事としてここにいる。お前を狩る立場にいることを、忘れるな」

 会話を交わしながら賢吾がゆっくりと体を離す。急に激しい羞恥心に襲われた和彦だが、後始末をしようにも体に力が入らない。

 密かにうろたえていると、ふとした拍子に鷹津と目が合った。また、嫌悪に満ちた視線を向けられるかと思ったが、鷹津は何も言わず顔を背けた。

「……ここは空気が悪い。帰るぞ」

 立ち上がった鷹津に、賢吾が声をかける。

「奢ってやるから、一杯飲んで帰ったらどうだ。ヤクザに奢られるのは、得意だっただろ。それに――興奮して、喉が渇いただろうしな」

 鷹津は、今にも飛びかかりそうな顔で賢吾を睨みつけ、そのまま黙って部屋を出ていった。乱暴に閉められたドアの音に肩を揺らした和彦の耳に、ぽつりと洩らされた賢吾の呟きが届く。

「なんだ、逮捕はなしか……」

 和彦はソファに横になったまま、あれだけ激しく自分を貪ってきたあとなのに、それでも精力的で精悍で、何より楽しげな男を半ば畏怖しながら眺める。思わず、こう問いかけていた。

「――……あんた、あの男を刺激して、どうしたいんだ?」

 和彦にハンカチを差し出してきながら、賢吾は目を細める。機嫌がよさそうにも見えるが、一方で、大蛇を身の内に潜ませた男らしく、ひどく残酷にも見える表情だ。

「何も。ただ、ウロウロされると目障りだから
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