店の熱狂は、午後になっても収まる気配がなかった。むしろ、口コミが広がったのか、廊下には長蛇の列ができている。キッチンとフロアを何度も往復するうちに、私の体力はそろそろ限界に近づいていた。「月詠さん、少し休んだら? 顔色、あまり良くないよ」 空いたグラスを下げに来た天王寺先輩が、心配そうに私の顔を覗き込む。その整った顔が間近に迫り、ふわっと甘い香りがして、思わず心臓が跳ねた。「だ、大丈夫です! プロデューサーとして、最後までこのステージを見届ける義務が……!」「そういうところ、真面目すぎ。ほら、これでも食べて」 そう言って天王寺先輩が差し出してきたのは、店の看板メニューである『天使の涙パフェ』だった。キラキラしたゼリーとフルーツがたっぷり乗った、見るからに美味しそうな一品だ。「え、でもこれ、お客様の……」「いいから。俺からの差し入れ。頑張ってる君へのご褒美」 天王寺先輩はそう言ってスプーンを手に取ると、パフェの頂点に鎮座していた真っ赤な苺をすくい、私の口元へと運んできた。「さ、あーん」「えっ……!?」 にっこりと微笑む完璧な王子様。差し出される、赤い宝石のような苺。少女漫画で百億回は見たシチュエーション。しかし、私の脳はそれを正しく処理できなかった。(こ、これは……! 私の口を借りて、氷室くんに『あーん』するための予行演習……!? なんて大胆な……!) 私が脳内変換に全神経を集中させていると、すっと横からもう一つの影が伸びてきた。「……苺より、こっちの方が疲労回復にはいい」 いつの間に来たのか、氷室くんがパフェの中からマンゴーを小さなフォークで刺し、同じように私の口元に差し出していた。その灰色の瞳は、まっすぐに私だけを見つめている。「えええっ!?」 右からは、キラキラ笑顔の天王寺先輩が差し出す苺。 左からは、クールな表情の氷室くんが差し出すマンゴー。 私は完全に、二人のイケメンに挟まれて身動きが取れなくなっていた。周囲のお客様たちが、息を呑んでこちらを見守ってい
Last Updated : 2025-11-03 Read more