一方、その頃。 活気あふれる別の教室では、一人の青年が満足げに腕を組んでいた。七瀬陽翔だ。彼のクラスの出し物は学園祭の王道「お化け屋敷」。その装飾準備の喧騒の中、彼は一人、完璧な計画にほくそ笑んでいた。 (フフフ……計画は完璧だ。執事喫茶で先輩が疲れた頃合いを見計らって、俺のお化け屋敷に誘い出す) 彼の脳内には、理想のシミュレーションが鮮やかに再生されている。 (暗闇の中、手作りのオバケで栞先輩を思いっきり驚かせて……怖がって俺に抱きついてきたところを、優しく抱きしめ返すんだ!) それは、年下わんこ系男子が考えうる最高にして最強の計画。彼はまだ知らない。ライバルたちが、自分の想像を遥かに超える次元で暴走していることを。 秋桜祭の開幕まで、あと数日。それぞれの思惑が渦巻く中、運命の日は刻一刻と近づいていた。◇ 学園祭当日の空気は、独特の熱気に満ちていた。ざわめきと喧騒、あちこちから聞こえてくる楽しげな音楽、そしてソースの焼ける香ばしい匂い。そんな非日常の渦の中心で、私たちのクラスが運営する執事喫茶『Casket of Sweets』は、オープンと同時に凄まじい熱狂に包まれていた。 「お嬢様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」 キラキラと光を弾く明るい茶色の髪。完璧な角度で腰を折り、優雅に差し出される大きな手。天王寺先輩が、ただそれだけの仕草で微笑むたびに、入り口付近に群がっていた女子たちから絹を裂くような悲鳴が上がる。 「……っ」 そして、その隣。静寂を纏うように佇む氷室くん。彼は言葉少なげに、けれど流れるような動きで椅子を引き、無言のままお客様をエスコートする。そのミステリアスな雰囲気に、別の層の女子たちがうっとりと息を呑むのが分かった。 私はといえば、戦場と化したフロアの隅、キッチンカウンターの内側でひたすらグラスを磨きながら、目の前で繰り広げられる光景に打ち震えていた。 (ああ……尊い……!) 心の中で、私は滂沱の涙を流していた。太陽と月。光と影。完璧な対比を描く二人の美丈夫が、揃いの黒い執事服に身を包み、お客様をお迎えしている。私が書いた拙い脚本なんて霞んでしまうほど、彼らがそこに存在するだけで、世界は完成された絵画になっていた。 私がこの世に生を受けたのは、この光景を見るためだったのかもしれない
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