「本気で言ってる?」時也が小声で聞いた。遥真はそのまま隣の個室へ向かって歩きながら、冷え切った声を落としていく。「冗談に聞こえるか?」時也は思わず吹き出した。「了解、すぐ行く」怜人絡みのこととなれば、彼は誰より張り切る。――怜人、覚悟しとけよ。怜人は、なぜか急に首筋がゾワッとして、後頭部をさすった。だが特に気にせず、柚香との会話を続けた。「最近、仕事探してるって本当?」「なんで知ってるの?」柚香は意外そうに目を瞬く。「真帆から聞いた」怜人は隠すつもりもない。柚香もすぐ察しがついた。そういえば、真帆は自分たちの秘密ごと以外は、大抵怜人に話している。「ちょうど友だちの会社が人手不足でさ。応募してみる?」怜人は真帆から事情の一部も聞いているから、なんとか力になりたかった。「上場したばっかで規模は大きくないけど、悪くはないって」柚香は即座に断った。「大丈夫、自分で探すよ」「心配しなくていいって。ちゃんとした選考で受けてもらうし、コネでねじ込むとかじゃない」怜人は言う。「俺はただ機会を渡すだけ。面接通るかは君の実力」「遠慮してるわけじゃないの」柚香は率直に言った。「え?」怜人が瞬きする。柚香は少し沈んだ声で続けた。「遥真がもう業界に話回してるの。もし私があなたの友達の会社に行ったら、その人に迷惑がかかるよ」「……俺、遥真なんか怖くないけど?」怜人は本心で言っている。「だったら、うちに来ればいい。俺が守る。あいつが何仕掛けてきても全部受けて立つから」柚香はゆっくり首を振った。彼女は遥真のやり方を痛いほど知っている。怜人に手を出す気になれば、軽ければ会社の経営が傾き、重ければ借金まみれだ。真帆が海外に飛ばされたのも遥真からの「警告」。友だちが自分のせいで同じ目に遭うのは、絶対嫌だ。「仕事のことは自分でなんとかするから」柚香は言った。「本当に大丈夫」彼女の表情を見て、怜人もこれ以上言っても無駄だと悟り、いったん引くことにした。後で別の形で助けられないか考えよう、そう思った瞬間。個室の扉が開き、スタッフが次々と装飾の道具を運び込んでくる。あっという間に、室内はまるでプロポーズ会場のようなロマンチックな雰囲気になった。怜人「?」柚香「?」二人とも状況が飲み込めずぽかんとする。
続きを読む