――いえ、違う。紬……あいつもだったのね!あいつはわざとだわ。私がレイと反目し合っていることを百も承知で、わざとあちらの事務所に転がり込み、デザイン顧問などという肩書きを掲げたに違いない。なんと狡猾な女だろう。傍らに控えていたアシスタントは、望美の凄まじい剣幕に気圧され、息を殺して立ち尽くすしかなかった。「……私のスマホを持ってきなさい」地を這うような冷徹な声音に、弾かれたようにようやくアシスタントが動き出した。レッドカーペットでのドレスを巡る一連の騒動が一段落すると、ネット上の風向きは劇的な転換を見せた。久しく沈黙を強いられていたレイのファンたちが、ついに反撃の狼煙を上げたのだ。対する望美のファンは、「渚様は一度もあのドレスが自らのデザインだとは認めていない」「望美様も何も知らされていなかった被害者だ」と、必死に論調の誘導を試みる。両陣営の議論は平行線を辿ったまま、決着の刻は今夜の授賞式本番へと持ち越された。会場の客席、渚は煮えくり返るような苛立ちを、端正な顔の下に辛うじて押し隠していた。レイにここまで煮え湯を飲まされるとは、完全に計算外だった。彼は前方、しなやかに背を伸ばして座る紬の後ろ姿を、射抜くような視線で見据えた。――なるほど、あれが成哉の妻か。実を言えば、渚は紬という女が成哉と添い遂げたことに、ある種の感謝すら抱いていたのだ。望美にはもっと相応しい相手がいるべきであり、他人の継母や、ましてや愛人のような立場に甘んじる必要などないと考えていたからだ。だが今回の一件において、紬は一体どのような役回りを演じているというのか。紬がレイに提案したというトータルコーディネートとやらも、彼に言わせれば単なる「目立ちたがり」の産物に過ぎない。デザイン業界で名を成そうなど、分不相応な夢想も甚だしい。紬は背後に不穏な気配を感じ、ふと振り返った。そこには、得も言われぬ含みを湛えた表情でこちらを凝視する渚の姿があった。紬は微かに口角を上げ、淡い会釈を返すと、迷いなく背を向けて歩き出した。――あれが渚。「ブリーズ」の若きオーナーにして、望美と深い仲にあるデザイナー。成哉と望美を巡る共通の友人グループの中で、唯一相見えたことのなかった人物だ。望美という偶像を輝かせるためならば、レイの
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