密集した地上の群衆の中に、駆け寄ってくる一人の男の姿が見えた気がした。紬は最後の力を振り絞り、芽依の身体をゴンドラの内側へと押し戻す。意識を手放す直前、耳を裂くような「ママ!」という叫びが響いた。――紬が再び目を覚ましたとき、視界に広がっていたのは見慣れた病室の白い天井だった。そっと手首を動かした瞬間、「……いたっ」と思わず痛みに息を漏らす。「気がついたか?」そのかすかな動きに反応して、一人の男がすぐさま歩み寄ってきた。理玖だった。その表情には、珍しく張り詰めた緊張の色が浮かんでいる。「神谷……さん。私、たしか遊園地にいたはずじゃ……」紬の声は乾ききっていた。理玖は手際よく水を注ぎ、コップを差し出す。「ああ。観覧車で事故が起きた。君と娘さんが乗っていた最後の一台だけが、取り残されたんだ」紬は水を一口含み、不安げに周囲を見渡した。「芽依ちゃんは……?」「救出された時、ショックが大きくて気を失っていたが、命に別状はない。もうすぐ目を覚ますはずだ」理玖は努めて冷静に説明した。紬は小さく頷く。あの極限の光景が、脳裏に鮮明によみがえった。芽依にどれほど失望していようと、母としての本能は、死に物狂いで娘の命を救うことを選んでいた。後悔するかどうかは分からない。けれど、あの瞬間、迷いは一切なかった。自分が手塩にかけて育てた子どもが、目の前で死んでいくのを、ただ見ていることなどできるはずがない。――あまりにも残酷すぎる。あの子は、まだあんなに小さいのだから。紬は密かに息を吐き、布団をめくった。理玖が慌てて駆け寄る。「どうした?」「あの子の様子を見に行きたいの」蒼白な顔で、それでも紬は微笑んだ。理玖は観念したように肩をすくめる。「……分かった。俺が付き添う」断ろうとも思ったが、この体調では途中で倒れてしまうかもしれない。紬は素直に彼の腕に身を預けた。「ええ、お願い」病室へ向かう途中、理玖がまだこの件を祖父に知らせていないことを知り、紬は胸を撫で下ろした。「伝えないでいてくれて、ありがとう」そう微笑むと、祖父の顔が脳裏に浮かぶ。きっと知れば、また心配で白髪を増やしてしまうに違いない。少し離れた場所で、成哉が医師から芽依の容態を聞き終えたとこ
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