スクランブルエッグは、直径50センチはあろうかという巨大な銀の大皿に盛り付けられている。 しかし中身は残り少なく、黄色い卵が皿の縁にこびりついて干からびていた。見栄えが悪いし、何より冷たそうで美味しそうには見えない。「……食欲が失せるな」 隼人は取るのをやめて、通り過ぎた。 小夜子はその様子を見逃さなかった。彼女の脳内で、実家の台所で培った「効率化のデータベース」が高速で回転を始める。(これは客席が足りないんじゃない) 小夜子は会場全体を見渡した。空いている席はある。だが、料理を取るまでの時間がかかりすぎて、客が席に着けないのだ。 そして料理を取るのに疲れた客は、一度に大量に取ろうとして山盛りにし、結果として食べ残しが増える。 スタッフは補充と片付けに追われて、サービスどころではない。 すべてが悪循環だった。「旦那様」 小夜子は、空のトレイを持ったまま立ち尽くす隼人の背中に声をかけた。「問題は広さではありません。『道具』と『プライド』が、流れをせき止めています」「道具だと?」 隼人が振り返る。小夜子は、婦人が苦戦していたあの銀のトングを指差した。「ご覧になりましたか? あの方の手元を」「ああ。鈍臭くてイライラした」「鈍臭いのではありません。道具が重すぎるのです」 小夜子は断言した。「あの見栄え重視の重いトングが、お客様の動作を数秒ずつ遅らせています。たかが数秒ですが、100人が使えば数分の遅れになります。それが積もり積もってこの大渋滞を生んでいるのです」 さらに小夜子は、交錯してぶつかりそうになる客たちを視線で追った。「それに、この配置。ご飯と味噌汁が離れすぎていますし、パンの導線も最悪です。まるで障害物競走ですわ」 隼人は目を見開いた。「トングひとつ、配置ひとつで……ここまで変わるものか?」「変わります」 小夜子の瞳に、
Last Updated : 2026-01-16 Read more