テーブルの上に、白い膜の張った味噌汁があった。さっきまで湯気を上げていたはずのそれは、表面だけ少し波打っていて、冷えた脂が光を受けて薄く光っている。もやしと豚こまの炒め物は、油をまとったまましんなりと沈み、ご飯は茶碗の内側に張り付いて、何粒かは乾きかけていた。換気扇のうなる音と、外からかすかに流れ込むネオン街のざわめきだけが、時間がまだ前に進んでいることを教えてくれる。陸斗は箸を握ったまま、指一本動かせないでいた。手の中の箸は、ほんの少しだけ汗ばんだ指先に張り付いている。握りすぎて、関節が少し白くなっていた。それなのに、箸先は空中で止まったまま、どこにも行き場を見つけられない。視線は、テーブルの木目の一点に落ちたまま離れなかった。薄く剥がれかけたメラミンの表面に、小さな傷がいくつも走っている。その一本一本を追いかけるように、意識が逃げていく。さっきまでの言い合いの余韻が、部屋の隅々に残っていた。「全部お前のせいにすんな」「俺が勝手にやるって決めてんの」「真っ当に生きろってのは、多分『自分で選べ』ってことだろ」断片的な言葉が、頭の中でまだ響いている。そのたびに胸の奥を掻き回されるようで、落ち着かない。自分が何か一言発するたび、充の目が真剣になり、声が強くなる。その繰り返しで、食卓の上に積み上がったものは、冷めた料理と空の灰皿と、中途半端な感情の山だった。どうすればいいのか、頭の中で何度も計算した。高校をやめて働く案は、さっきの話で完全に潰された。充の反応は即答で、明らかに本気で怒っていた。「慎一さんにぶん殴られる」という言葉に、冗談は一滴も混ざっていなかった。保険金のことも、何度も考えた。父が残したはずの金に手を伸ばせば、目の前の数字は一気に楽になる。家賃も光熱費も、高校の学費も、当面は気にせずに済むかもしれない。でも、それを口に出さなくても、充が頑なに拒んでいる理由は、今なら少し分かる。あれは、「最後の網」みたいなものだ。今ここで使ってしまえば、何かもっと大きな、取り返しのつかないことが起きた
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-01-22 อ่านเพิ่มเติม