正国も酒をひと口啜り、神妙な面持ちで頷いた。「そうだな。今後、もし気分転換をしたいなら国内を回ればいい。どうしても海外へ行きたいなら、暖かい国にしなさい。あんな寒くて人影もまばらな場所には、もう二度と行かせんぞ」老夫婦の言葉には、心愛の繊細な心を刺激しないよう気遣いながらも、抑えきれない心配と愛情が滲んでいた。心愛は箸を置き、食卓いっぱいに並んだ温かな料理を見渡した。隣では俊輔が黙々とスペアリブを頬張り、向かい側では暁が何食わぬ顔で料理を取り分けながら、実際にはずっと彼女の様子を窺っている。胸の奥が、湯に浸かっているようにじんわりと温かくなった。「わかったわ」心愛は顔を上げ、三日月のように目を細めて微笑んだ。「お父さんとお母さんの言う通りにする。次は家族みんなで行きましょう。陽の当たる砂浜のある場所で、ただ寝転んで日向ぼっこするの。危ない冒険は、もうおしまい」その言葉を聞いた静香は、長く深い安堵の息を吐き、再び花が咲いたような笑みを浮かべた。「それでいいのよ!さあ、スープを飲んで。冷めないうちに」暁は何も言わずに料理を心愛の茶碗へ取り分けると、テーブルの下でそっと彼女の靴先をつついた。心愛が視線を向ける。暁は悪戯っぽく片目を閉じてみせた。それは、二人だけに通じる小さな合図だった。……自室へ戻った頃には、もう夜十時を回っていた。扉を開けた瞬間、馴染み深いラベンダーの柔軟剤の香りがふわりと漂い、張り詰めていた心愛の神経は一気にほどけていく。シーツも枕カバーも新しいものに替えられていて、陽だまりの匂いをたっぷり含んだそれらは、柔らかくふかふかとしていた。心愛はそのままベッドへ身を投げ出した。柔らかなマットレスが身体を包み込み、ようやく地面に足がついたような安心感に満たされる。それは、どんな高級ホテルでも味わえない感覚だった。俊輔はとっくに新しいパソコンを抱えて自室へ戻り、泥のように眠っている。階下からも、もう物音は聞こえなかった。部屋には、サイドテーブルのランプが灯す柔らかな黄色の光だけが揺れている。心愛は寝返りを打ち、スマートフォンを取り出した。アンテナはフル表示で、もう突然連絡が途絶える心配もない。彼女はSNSのタイムラインを開き、投稿用に数枚の写真を選んだ。飛行機の窓
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