All Chapters of 残業は、あなたのためだけに~部長、あなたを壊すのは俺です: Chapter 41 - Chapter 43

43 Chapters

41.指先でほどく午後

ベッドのシーツは柔らかく、長い午後の日差しがカーテン越しに溶け込んでいる。窓から差し込む光は淡く、やがて夕暮れの気配が部屋の隅々まで染めていく。南條は伊吹の隣に座ったまま、しばらく静かに指先を見つめていた。部屋の空気は、休日らしい静けさに満ちていたが、その中心にあるベッドの上だけは、どこか張り詰めた緊張が漂っている。伊吹は、南條の横顔をそっと見つめている。微かに震える南條の睫毛。落ち着きなく動く唇。何も言わずとも、その小さな仕草のすべてが、今日この瞬間にかかる期待と高揚、そしてほんのわずかな不安を語っていた。「…司さん」名前を呼ばれて、南條は伊吹の方を向いた。瞳が重なる。カーテン越しの光が、南條の頬に淡く影を落とす。伊吹の手がそっと南條の頬に触れる。指の腹がゆっくりと肌を撫で、頬骨から耳の下へ、首筋へと伝っていく。「緊張してる?」伊吹の囁きは、ほとんど息の音だけだった。「少しだけ」南條は素直に認める。その言葉に、伊吹がやわらかく微笑む。ふたりの間にあった距離が、まるで目に見えない糸で少しずつほどかれていくようだった。「…俺もです」伊吹がそう言って、そっと南條の手を取る。指先が絡まり合い、体温がゆっくりと混ざりあう。南條の掌は、汗ばむほどに熱かった。だが、それは決して不快なものではない。ただ、相手に触れている実感が心の奥まで伝わってくる。ゆっくりと、伊吹が南條の手を自分の胸元へ導く。南條の指先が、伊吹のシャツのボタンに触れる。普段なら意識しない、ささやかな動作が、このときだけは意味を持つ。ひとつ、またひとつとボタンを外していく。シャツの隙間から、伊吹の素肌がのぞく。伊吹は、何も言わずに南條の手の動きを受け入れている。その沈黙が、むしろふたりの間の信頼と親密さを強く感じさせた。南條は自分の動作に戸惑いながらも、どこか誇らしいような高揚を覚えていた。これまでの自分なら、こんな風に誰かの服に触れ、脱がせることなど想像もできなかった。だが今は、迷いながらも自分の手で伊吹に触れたいと、はっきりと思えた。「…好きだよ」小さく囁いてみる。伊吹は、開きかけたシャツの間から南條を見つめ、目尻に細い皺を浮かべた。「俺も。司さんの全部が、好きです」その言葉に、南條の胸が熱く満たされた。まるで、どこかで絡まっていた糸が、静かに解かれていくようだった。伊吹がそ
last updateLast Updated : 2026-01-23
Read more

42.名前を呼ぶ熱

シーツの上に重なる影が、柔らかなランプの灯りに揺れていた。窓の外はすでに宵の気配を帯び、カーテン越しに滲む淡い光が、静かに部屋を包み込む。南條はベッドの中央で横たわり、伊吹の体温を肌で受け止めていた。唇にはまだキスの余韻が残り、指先には伊吹の熱が絡みついている。すべてがゆっくりと、丁寧にほどかれていく。伊吹がそっと南條の髪を撫で、耳の裏に唇を落とした。くすぐったいような温もりに、南條は目を細め、無意識に肩を震わせる。自分の鼓動が大きくなっていく。鼓膜に、胸に、全身に、その波が伝わっていく。「…司さん」伊吹の声が低く、どこか熱を帯びて響く。その音に、南條の胸が大きく脈打つ。伊吹の手が肩から腰へと滑り、ゆっくりと南條を仰向けに寝かせる。ベッドの上の空気が、一層密度を増していく。「大丈夫?」伊吹が、静かに問いかける。南條は頷き、息を飲み込む。「…来て」言葉にすることが、こんなにも難しいとは思わなかった。けれど、心も身体も、今は伊吹だけを求めている。自分からその手を取って、引き寄せる。伊吹が優しく微笑み、もう一度、そっとキスを落とす。指先がゆっくりと、南條の太腿を撫でる。腰を浮かせると、シーツが肌に張りつき、少しだけ冷たい。だがその冷たささえ、伊吹の熱で上書きされていく。南條は、わずかに膝を開く。その動きが合図になる。伊吹が丁寧に手を伸ばし、準備を進めていく。潤滑剤の冷たい感触。指が、ゆっくりと南條の奥へと差し入れられる。何度か呼吸を整え、身体の奥に溜まっていた緊張を吐き出す。伊吹の指がゆっくりと広がり、南條の身体が柔らかく受け入れていく。「痛くない?」「うん、大丈夫…」ささやきが夜の静けさに吸い込まれる。ふたりの間に、もう余計な言葉はいらなかった。伊吹の手が、南條の膝裏をそっと支える。体位を少し調整しながら、視線を合わせる。南條の瞳が濡れている。痛みや不安ではなく、幸福に押しつぶされそうなほどの熱に満たされて。「…司さん、入れるね」「…うん」伊吹の動作はどこまでもゆっくりで、慎重だった。自分のものを南條の入口に宛がい、ひと息ついてから、ゆっくりと腰を進めていく。最初は圧迫感と微かな痛みが混ざる。だが、奥まで迎え入れるたび、南條の中にあった戸惑いが一枚ずつ剥がされていく。「…あ…っ」思わず漏れた声が、室内に響く。伊吹が顔を寄せて、「大丈
last updateLast Updated : 2026-01-23
Read more

43.これからの約束

身体の奥に刻まれた熱が、波紋のように静かに広がっていた。絶頂の余韻がまだ肌に残る。呼吸を整える間もなく、南條は伊吹の腕の中で身を丸めていた。ふたりの間を流れる空気は、つい先ほどまでの昂ぶりを信じられないほど穏やかで、どこか眩しく、柔らかなものだった。シーツがほんのりと汗で湿り、重ねた肌と肌がしっとりと馴染んでいる。窓の外には夜の帳が降りて、街灯の光も遠く霞んでいた。ベッドの脇で灯るスタンドの明かりが、ふたりの輪郭を淡く照らし出している。伊吹の指先が、南條の肩先をなぞる。ごく弱い力で、ただそこにいる証のように。南條は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。肺の奥に残る伊吹の香り。ほんのり甘いシャンプーの匂いと、汗と体温の混じりあった、人の温もりだけが満ちている。「…蓮」南條が、小さく名前を呼ぶ。その声はどこまでも柔らかく、どこまでも静かだった。伊吹がすぐ傍で「はい」と返す。心音が、胸の奥でそっと弾んだ。ふたりの視線が絡む。伊吹は南條の髪を優しく撫で、濡れたままの額を指で拭う。その仕草に、南條は少しだけ頬を緩める。「…変かな。まだ、こうしていたいなんて思うのは」囁くようなその言葉に、伊吹が微笑んだ。「変じゃないです。俺も…ずっと、司さんの隣にいたい」息を呑むような、淡い幸福感が部屋を包む。愛の告白でも、激情の言葉でもない。けれど、互いの心をまっすぐに温めていく。南條は、ごく自然に伊吹の胸元に顔を埋めた。伊吹の心臓の鼓動が、額越しに伝わる。指先が、シーツの上でそっと伊吹の手を探し、握りしめる。細く長い指が絡み合う。どちらの手も、熱がこもっていた。「…これからも、何度もこうして君と…」その言葉は、まるでひとりごとのように静かで、しかし、伊吹の心に真っ直ぐ届くものだった。南條の声は震えも、迷いもなかった。ただ、未来を欲する淡い祈りだけがそこにあった。伊吹が、静かに抱き寄せる。「もちろんです、司さん」その一言に、南條は目を細めた。どこまでも柔らかな微笑みが、伊吹の胸の上に咲く。ふたりのあいだの距離は、もうどこにもなかった。肩も、胸も、指先も、互いの温もりを残したまま、ただしっかりと寄り添い続けている。窓の向こうでは、春を待つ街の灯りが、静かに瞬いていた。部屋の空気はまだ冬の残り香をまとっているが、南條の胸にははっきりと、何か新しい季節が生まれ始めているこ
last updateLast Updated : 2026-01-23
Read more
PREV
12345
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status