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Auteur: 酔夫人
last update Date de publication: 2026-04-03 19:08:51

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狩野のマネージャーが退室したあとも、会議は続いた。

だが空気は、先ほどとはまるで違う。

混乱ではなく、実行段階のそれだった。

「雑誌への対応は不要です」

あやめが淡々と指示を出す。

「謝罪も否定も必要ありません。反応しない。よくあることだと見せる。反応すれば、向こうの思う壺です」

指先で、資料の一点を示す。

「スタッフは、テレビ局とスポンサー企業への直接対応に集中してください」

現実的で、的確だった。

さらに、いくつかの社名を指し示す。

「この二社と、この雑誌には注意を。時期的に、大阪との繋がりが強いですから」

「……手痛いな」

誰かが呟く。

「あちらからの“警告”も含まれているでしょうね」

「警告?」

あやめが首を傾げると、鷹見が補足する。

「若の結婚を知って、朱雀会が力を誇示している可能性があります」

「なるほど」

あやめは納得したように頷き――微笑む。

「クジャクが羽を広げて威嚇しているようなものですね」

軽く言った。

その例えに、思わず鷹見が吹き出す。

張り詰めていた空気が、一瞬だけ緩む。

だが次の瞬間。

あやめの視線が、まっすぐ冬弥に向いた。

「こちらも威嚇しますか?
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  • 氷龍の檻姫   外伝2-6

    そんなことを話しながら駐車場に出て、冬弥は車が変わっていることに気づいた。足を止めて警戒の視線を向けると運転席から鷹見が出てくる。「あやめはどうした?」「今日は女子会だから早苗に交代しろと、若の迎えにいくようにと屋敷を追い出されました」「札束ではち切れそうな財布では危険だからな」冬弥は肩を竦めて応えてみせたが、鷹見が乗ってくることはなかった。再び緊張が走る。「いつもの帰り道に『障り』があるそうです」「……どこの者だ?」「大迫が若にメッセージを送ると」「……メッセージ?」遠回りなやり方に冬弥は眉間にしわを寄せつつもスマートフォンを確認する。「……至れり尽くせりだな」届いたメッセージ添付されていたのは【安全な帰宅ルート】。今だけが安全なだけでなく、今後の安全も考慮して『鉄砲玉』である実行犯を捕らえる方法から、主犯を追い詰める手はずまで懇切丁寧に書かれている。「大迫に連絡して愛人たちに礼を届けるように言っておけ」「樹、組員にこの資料を送れ。鉄砲玉は捕らえて……西にいる主犯については赤羽組に任せる」了承したように鷹見は頭を下げると、冬弥が乗るために車の扉を開けた。「……鷹見に扉を開けられるのは随分と久しぶりだな」「若が結婚された日から、私は姐さんの専属でしたからね」そうだったと思いながら車へ乗り込もうとして、冬弥はふっと笑いを漏らした。「……若?」怪訝そうに樹が見る。「あのときは、ただの箱入りのお嬢さんだと思ったんだけどな」◇◇◇【過去回想】議員会館を歩きながら、冬弥は自分の手を見ていた。先ほど婚姻届に記入をしたものの結婚した実感は何もなく、何かの変化を求めるように冬弥は手を握ったり開いたりしてみた。(俺でこうなのだから、この女は……)父親の仕事部屋に呼び出されて、結婚相手として初対面の男を紹介される。そして婚姻届を書けと迫られ、提出は明日すると聞かされた上に、今夜から嫁ぎ先で暮らせと言えヲ追い出される。(まともな女なら泣き叫んでもおかしくない状況だよな)だが、あやめは泣かなかった。女の涙など面倒でしかない冬弥にとってはいいことだが、冬弥の半歩後ろを遅れることなくついてくるあやめは静か過ぎた。ヒールをはいた足音すら静かだった。(よくグレなかったな、この女)そんな感想が冬弥の脳裏に浮かぶ。龍神会には神

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    『ご利用ありがとうございました』無機質な音声がATMコーナーに響いた。開いた機械の口から札束を取り出し、新札特有の張り付くような感触がに冬弥は露骨に眉を寄せた。それを無理やり飲み込むように札束を無造作に財布へ押し込みながら冬弥は深くため息を吐いた。手の中の財布が分厚い。「なぜこの時代に財布を現金で膨らませなきゃならない」「地味に嫌なところが姐さんらしいですよね」隣で樹が苦笑する。樹も普段なら胸元の内ポケットに収まるほど薄い財布を手に持っている。こちらも札束を無理やり押し込んだせいか、財布の形は悲しいほど崩れてしまっている。「ガキの頃に使っていた財布を持ってくるべきだったか」「最近の財布はどれも薄型ですからね」あやめによる冬弥たちへの制裁はクレジットカードの停止だった。普段はカード決済で済ませている冬弥たちにとって現金生活は不便極まりない。「思ったんですが、これって俺たちが狙われる確率を上げますよね」カツアゲしてくれと言っているようなものだと、樹が膨らんだ財布をひらひら揺らしながら言う。「それも含めてお仕置きなのだろう」「達観してますね」「結婚してから、かなり経ったからな」冬弥は指を折りかけ、途中でやめた。月日で言えばそこまで長くないが、その一日一日の密度がとても濃いため『時間』の定義が本気で分からなくなっていた。「失礼ですが、こんなに姐さんと続くとは思いませんでしたよ」樹の言葉に冬弥は怪訝そうに首を傾げた。「離婚する気はなかったが?」「離婚はなくても……別れ方は、あるじゃないですか」樹の言葉を冬弥は否定しなかった。神崎家の結婚は昔からそういうものだった。神崎家の跡取りは“組に必要な女”を娶るため、夫婦間の何かは必要としない。必要なのは組のための価値。血筋、家柄、政治的価値。求める価値は時代によって違うが、いつの時代も組の戦略に不可欠な女を選んできた。そして選ばれた女たちの多くは神崎家の奥で静かに死んでいった。外敵から守るために屋敷の奥に閉じ込められ、閉ざされた世界で外に出れば死ぬのだと聞かされて過ごす。死と隣合わせの息苦しい空気を吸って生きる上に、組長の妻というトップの立場は常に孤独。唯一妻の孤独を癒せる夫は「組に必要だから」と外で愛人を堂々と侍らせる。愛人は妻を守るための盾、そう言われてし

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  • 氷龍の檻姫   【外伝2】2-1

    「とーさまー」自宅の書斎で仕事をしていた冬弥の元に、小さな客が二人やってきた。一人、楓は父親である冬弥の元に駆け寄り、その後ろを歩いてきた雪兎もそのあとに続く。書斎には雪兎の父親であり、冬弥の右腕でもある樹もいたが、雪兎はぺこりと会釈しただけ。父親は仕事中だと公私を分けると同時に、自身も楓の右腕として仕事中だというアピールでもあった。「どうした、二人とも? 珍しいな」冬弥は口元を微かに緩めると、楓を抱き上げ、雪兎の頭を撫でる。その脇では樹が内線電話でジュースとお菓子を準備するように言っていた。「おはなしがあるのです」「そうか」楓の言葉に冬弥は頷き、抱いたまま応接スペースにあるソファに座る。「どうした?」いつもならこのまま話し始める楓が、なぜか『降ろして』と言わんばかりに手足をばたつかせていた。首を傾げつつも冬弥が床におろせば、楓はとてとてと、冬弥と向かい合う形で向かいのソファに座った。その隣に雪兎が立ち、「雪兎は樹に似てきたな」と冬弥が言えば、雪兎は目に見えて嬉しそうに頬を染めた。「とーさま、おりがみのはなしがあります」「……“折り紙の話”」楓の言葉に冬弥は内心焦る。折り紙という遊びは知っているが、それで作った記憶がない。幼い頃の記憶だからと言ってしまえばそれだが、あやめは器用に何かを作るから「できない」とも言い難かった。「わかわか、ちがいましゅ。おーいって、でしゅ」(……“おーいって”)雪兎の言葉に冬弥は首を傾げたが、ここで樹が二人の言いたいことに気づいた。「もしかして、“折り入ってお話しがある”ではありませんか?」そう言う樹を、楓と雪兎が同時に『それだ』と指さす。とりあえず話はじめで躓いていたことが冬弥には分かった。「折り入って話とは、なんだ?」「インシンにあかちゃんがいるって」「そうだったな。結婚したいと言っていたのに、残念だったな」黎沈淵が聞いたら「ぶり返すな」と言いそうなことを冬弥は言ったが、楓はそれはもう気にしていないというように首を横に振った。「うわき、だめ、ぜったい」「……ああ、そうだな」実態は世間一般的な愛人ではないのだが、愛人を五人も抱えている冬弥は楓の言葉が胸に突き刺さった。そんな父親の様子など気に求めず、楓は話を続ける。「あかちゃん、いつあえる?」「詳しい日はこれからだろうが、生ま

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