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第十六話:3回戦先発、因縁の龍門とプロの視線

作者: ちばぢぃ
last update 最終更新日: 2026-02-14 12:30:26

十月中旬。秋季福岡大会は南部地区のベスト8に突入していた。2回戦の福岡東海高校戦を4-1で勝利してから、福丘高校は勢いに乗っていた。3回戦の相手は、夏の大会準決勝で福丘を涙に沈めた因縁のチーム――龍門高校。夏の悔しさを胸に、新チームとして再び対峙する試合。会場となる福岡市内の市民球場には、すでにプロ野球のスカウトが数名姿を見せていた。球太の耳にも、その噂は届いていた。

前日の夜、部室でのミーティング。山田監督が選手たちを前に、静かに告げた。

「3回戦の先発は……早乙女球太だ」

部室に小さなどよめきが起きた。球太は一瞬、息を止めた。監督の視線がまっすぐに球太に向けられる。

「篠原は2回戦で7回まで投げ、肩に疲労が残っている。明日は大事を取って登板を回避する。早乙女、お前が先発だ。龍門は夏と同じ打線が中心。夏の準決勝の記憶は、お前が一番よく知っているはずだ」

球太は立ち上がり、背筋を伸ばした。声が少し震えたが、はっきりと言った。

「はい。俺が……投げます」

監督は小さく頷いた。

「プロのスカウトも来ている。だが、気にするな。お前は自分の野球をしろ。10番の意地を、今日のマウンドで証明しろ」

涼がベンチの端から静かに言った。

「早乙女……任せた。お前の球なら、龍門を抑えられる」

球太は涼を見て、拳を握った。

「わかった。夏の借りを……明日必ず返してやる」

その夜、寮の部屋で球太は眠れなかった。グローブを枕元に置き、天井を見つめる。健がベッドから声をかけた。

「球太、明日先発だってな。龍門か……夏の準決勝の相手だぞ」

球太は小さく息を吐いた。

「そうだ。あの7回……俺が崩れて、涼の肩を無理に使わせて……負けた。あの悔しさ、全部マウンドにぶつける」

健は天井を見上げながら言った。

「プロのスカウトも来てるってよ。お前の球、今日見られるぞ」

球太は目を閉じた。

「見られても……いい。俺は俺の野球をする。でも……負けたくない」

翌朝。球場に着くと、スタンドにはすでに多くの観客が集まっていた。福丘の青白い応援旗が風に揺れ、龍門の赤い旗も負けじと並ぶ。バックネット裏には、数名のプロスカウトが座り、ノートパソコンやスコアブックを広げている。球太はベンチからその姿をチラリと見た。胸の鼓動が速くなる。

試合開始前、ブルペンで軽く投球練習。球太は健に捕ってもらいながら、ストレートを投げ込む。球速はすでに156キロをマーク。フォークの落ち幅も夏以上だ。涼がブルペンのフェンスにもたれ、静かに見守っている。

「早乙女……いい球だ。夏よりキレてる」

球太は投げながら答えた。

「涼……今日は俺が投げる。お前の分まで……」

涼は小さく笑った。

「俺はベンチで見てる。お前のマウンドを、しっかり見届ける」

試合開始の笛が鳴った。

1回表、福丘の攻撃。龍門の先発は夏と同じ2年生右腕・黒崎。球速152キロのストレートと鋭いフォークで、福丘打線を抑え込む。3者凡退。

1回裏。福丘の守備。マウンドに立つ球太。背番号10。

スタンドから「早乙女コール」が響く。プロスカウトの視線が、球太に集中する。キャッチャーの西田がミットを構え、低く言った。

「球太。いつも通りだ。俺がリードする。お前は信じて投げろ」

球太は深呼吸。グローブの中で指を動かし、握りを確認する。

初球の打者、龍門の1番。夏と同じ右打ちの技巧派。

セットポジションから、腕を振り抜く。

シュッ……!

ストレート。157キロ。ミットに収まる音が乾いている。

「ストライク!」

スタンドがどよめく。二球目、外角低めスライダー。ボールが鋭く曲がり、打者が空振り。

三球目、内角高めストレート。157キロ。打者が振り遅れ、空振り三振!

「バッターアウト!」

ベンチから歓声。翔が柵を叩く。

「球太! いい球だ!」

続く2番打者も三振。3番に四球を与えるが、4番をフォークで三振。1回無失点。

ベンチに戻った球太に、監督が声をかけた。

「いいスタートだ。続けろ」

球太は頷いた。プロスカウトの視線を感じながら、心の中で呟いた。

「見てるか……俺の球を」

2回、3回と試合は進む。球太の投球は冴え渡っていた。ストレートは157~158キロを維持。フォークは急激に落ち、スライダーは打者のバットを空に切らせる。龍門打線は5回まで2安打無得点。

福丘打線は黒崎の好投に抑えられ、5回まで0-0。5回表、翔が四球を選び、大石がライト前ヒットで一・三塁。打席は球太。

黒崎の初球、外角低めフォーク。球太は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。

三球目、真ん中やや高めストレート。球太のバットが、渾身で振られる。

カキーン!!

打球はセンターへ。高く上がる……フェンスオーバーかと思った瞬間、センターがジャンプしてキャッチ!

アウト!

だが、翔が生還! 犠牲フライで福丘が先制、1-0!

球太はベンチ前で拳を握った。

「よし……!」

6回裏。球太が続投。

龍門打線がようやく火をつけた。1アウトから連続安打。1アウト一・三塁のピンチ。

西田がマウンドへ。

「球太、深呼吸しろ。次はフォーク勝負だ」

球太は頷く。次の打者、龍門の4番。夏の準決勝でホームランを打った男。

フルカウント。球太は叫んだ。

「来い!」

フォーク。ボールが急降下。打者が空振り三振!

続く打者をセカンドゴロに打ち取り、ピンチを脱した。

ベンチに戻った球太に、涼が声をかけた。

「いい球だった。プロも見てたぞ」

球太は息を切らしながら笑った。

「見てくれてるなら……もっと投げる」

7回表。福丘が貴重な追加点を上げ、2-0とリードを広げる。

7回裏。球太が続投。

疲労が少しずつ表面化。球速が156キロに落ちる瞬間が出てくる。龍門の打線がそれを嗅ぎつけた。

1アウトから四球。続く打者にタイムリー二塁打。2-1。

さらに1アウト一・三塁のピンチ。

監督が立ち上がる。

「早乙女! 降りるか?出したくなかったが篠原は準備出来てる。」

球太はマウンドで首を振った。

「監督……まだいけます!」

監督の目が鋭くなる。

「腕が落ちてる。無理すんな!」

球太は叫んだ。

「無理じゃないです! 俺は……夏の借りを返すために、ここには抑えます!」

監督は一瞬、黙った。スタンドのプロスカウトがノートに何かを書き込む。

監督はゆっくり頷いた。

「……わかった。だが、次にランナーを進めたら即交代だ」

球太は涙を堪え、敬礼した。

「はい!」

次の打者。フルカウント。

勝負球、フォーク。

ボールが落ちる。空振り三振!

続く打者をショートゴロに打ち取り、7回を1失点で締めた。

ベンチに戻った球太は、肩で息をしながら座り込んだ。涼が近づき、タオルを渡した。

「早乙女……すげえよ。夏の龍門を、抑えてる」

球太はタオルで顔を拭きながら言った。

「まだ……終わってねえ」

8回表。福丘がさらに1点。3-1。

8回裏。球太が続投。

三者凡退に抑える。

9回表。福丘が追加点。4-1。

9回裏。最終回、3点リード。球太がマウンドに立つ。

監督がベンチから声をかけた。

「早乙女。最後まで投げ切れるよな。あとアウト3つ頼んだぞ。」

球太は頷き、グローブを叩いた。

初球、ストレート。158キロ。ストライク。

龍門の1番が空振り三振。2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をフォークで三振!

試合終了! 福丘の勝利。4-1。

グラウンドに歓声が響く。球太はマウンドで膝をつき、土に額を押し当てた。汗と涙が混じり、土に染みる。

仲間たちが駆け寄ってくる。翔が背中を抱き上げる。

「球太! 完投だぞ! 158キロ出して、龍門を抑えた!」

涼がゆっくり近づき、球太の肩に手を置いた。

「早乙女……ありがとう。夏の借りを、お前が返してくれた」

球太は顔を上げ、涼を見た。

「お前がベンチで見ててくれたからだよ。」

二人は拳を合わせた。スタンドの歓声が、二人を包む。プロスカウトのノートに、何かが書き込まれているのが見えた。

試合後、部室で監督が球太を呼んだ。

「早乙女。今日の投球……完璧だった。夏の準決勝のことは、もう終わった。お前はもう、チームのエース候補だ」

球太は背筋を伸ばした。

「ありがとうございます。でも……まだ、満足してません。次も、もっと投げます」

監督は笑った。

「そうだな。準々決勝も、お前を信じる」

夜、寮に戻った球太はベッドに横になり、今日のマウンドを思い出した。158キロの感触。夏の因縁を断ち切った瞬間。涼の視線。

「まだ……始まったばかりだ」

窓の外で、秋風が吹いていた。秋季大会は、まだ続く。球太の物語は、ここからさらに高みへ。

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