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第十一話:新チームの始まり、背番号の影

作者: ちばぢぃ
last update 最終更新日: 2026-02-11 17:30:20

九月に入り、福丘高校野球部は完全に新チームへと移行していた。3年生の引退により、部室のロッカーは一気に空き、グラウンドの空気もどこか新鮮で、しかし重い。夏の準決勝敗退の傷はまだ癒えていない。特に球太にとっては、初めて味わった「本物の挫折」が、心の底に沈殿したままだった。

朝練の集合時間。山田監督がグラウンド中央に全員を並べた。新チームのキャプテンは3年生から2年生の佐藤大輔(夏のエースだった左腕)が引き継ぎ、監督の横に立っている。

「今日から正式に新チームだ。秋季大会まで、約一ヶ月。目標はもちろん、九州大会出場、そして甲子園予選突破。だが……それ以前に、俺たちは一つにならなきゃいけない」

監督の視線が、新入生たちに向けられる。特に球太と涼の二人に止まった。

「早乙女、篠原。お前たちは夏の準決勝で、チームを背負った。結果は負けだったが、あの投球は無駄じゃない。来年の夏、お前たちが中心になる」

球太は地面を見つめたまま、黙って聞いていた。涼は静かに頷くだけ。

監督が続けた。

「背番号は、今日発表する。ピッチャー陣を中心に、序列を明確にする。エースナンバー……背番号1は、篠原涼だ」

グラウンドに小さなどよめきが起きた。

涼は表情を変えずに、ただ「はい」と答えた。球太は隣で、拳を強く握りしめた。胸の奥で、何かがチリチリと痛んだ。

背番号発表のリストが部室の壁に貼り出された。

- 背番号1:篠原涼(投手)

- 背番号10:早乙女球太(投手)

- 背番号11:佐藤大輔(投手/新キャプテン)

- 背番号18:鈴木健(捕手)

球太はリストの前で立ち尽くした。10番。エースナンバーから遠い番号。夏の背番号18から上がったとはいえ、涼の「1」と並ぶことはなかった。

翔が近づいてきて、肩を叩いた。

「10番か……悪くねえじゃん。来年は1番だろ?」

球太は無理に笑った。

「そうだな……」

練習が始まった。新チーム初の紅白戦。新入生・2年生混成チーム vs 上級生(主に2年生)チーム。

球太は混成チームの先発に指名された。マウンドに立つと、土の感触がいつもより冷たく感じる。キャッチャーは健。

「球太、今日から新背番号だ。気合い入れろよ」

球太は頷いたが、声は小さかった。

「うん……」

初球。ストレート。球速は148キロ。夏の準決勝で出していた152キロからは明らかに落ちている。打者がタイミングを合わせてセンター前ヒット。

続く打者に四球。1アウト一・二塁。

健がマウンドへ。

「球太、どうした? 腕が重いのか?」

球太は首を振った。

「いや……大丈夫」

だが、次の打者に甘く入ったフォークを捉えられ、タイムリー二塁打。0-2。

球太の投球は明らかに精彩を欠いていた。球威がなく、変化球のキレも鈍い。3回を投げて5失点。ベンチに戻ると、監督が静かに言った。

「早乙女。今日は降りろ。無理すんな」

球太はベンチの端に座り、グローブを膝に置いた。俯いたまま動かない。

一方、涼は上級生チームのリリーフで登板。背番号1を背負った姿は、すでにチームの中心に見えた。ストレートは156キロを維持。変化球のキレも戻っている。3イニングを無失点に抑え、試合は上級生チームの勝利。

練習後、球太はグラウンドの隅で一人、素振りをしていた。バットが空を切る音だけが響く。そこに涼が近づいてきた。

「早乙女」

球太はバットを止めたが、顔を上げなかった。

涼は静かに言った。

「今日の投球……お前らしくなかったな」

球太は小さく笑った。笑い声に力がなかった。

「らしくねえって……俺はもう、らしくねえよ。夏の準決勝で、全部壊れた」

涼は隣に立った。

「俺は背番号1をもらった。でも、お前がいなきゃ、俺は夏を投げ切れなかった。お前は10番。でも……それはスタートだ」

球太はバットを地面に突き立てた。

「スタート? 俺は……もう、マウンドに立つのが怖いんだ。投げたら、また崩れるんじゃないかって。フォークが出ねえ。ストレートが走らねえ。全部……あの7回の記憶が邪魔してる」

涼は黙って聞いた。

球太の声が震えた。

「お前は……肩痛めてたのに、投げた。俺は……ただ、崩れただけだ。エースナンバーなんて……俺には、まだ早すぎる」

涼はゆっくりと言った。

「怖いのは、俺も同じだ。背番号1を背負った瞬間、肩の違和感がまた疼いた。でも……投げなきゃ、前に進めない」

球太は涙を堪えながら言った。

「俺……どうしたらいい?」

涼は球太の肩に手を置いた。

「まずは、投げろ。一球ずつ。崩れてもいい。崩れたら、俺が拾う。お前が俺を拾ったように」

球太はゆっくり顔を上げ、涼を見た。

「……ありがとう」

涼は小さく笑った。

「礼はいい。明日から、また一緒に練習だ。俺の1番と、お前の10番で……チームを強くする」

球太は頷いた。涙を拭き、グローブを握りしめた。

「わかった……。俺、投げる」

夕陽がグラウンドを赤く染める中、二人は並んでマウンドに向かった。球太が軽くキャッチボールを始める。最初は弱かった球が、少しずつ、力強さを帯び始めた。

秋季大会まで、一ヶ月。背番号1の涼と、背番号10の球太。新チームの物語が、静かに動き始めていた。

挫折は終わらない。でも、そこから立ち上がることで、初めて「強さ」が生まれる。

球太はマウンドで、一球を投げた。ストレート。まだ夏のスピードではない。でも、まっすぐだった。

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