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第十五話:2回戦、背番号10の執念と1番の限界

Author: ちばぢぃ
last update Huling Na-update: 2026-02-13 20:30:52

十月上旬の週末、秋季福岡大会2回戦。初戦の筑紫中央高校戦を4-1で勝利してから、わずか3日後。選手たちは疲労を溜め込みながらも、球場へと向かった。福丘高校の対戦相手は福岡東海高校。夏の大会ではベスト8に進出した強豪で、新チームになってからは打線の爆発力が増し、特に3番から5番のクリーンナップは「東海の三銃士」と呼ばれていた。先発ピッチャーは3年生左腕・藤田。ストレートは148キロ程度だが、抜群の制球力と鋭いスライダー・チェンジアップで、福丘打線を苦しめるタイプだ。

前日の夜、寮の部屋で球太はベッドに座り、グローブを膝に置いて黙っていた。隣の健が、夕食後の菓子パンをかじりながら声をかける。

「球太、明日2回戦だぞ。藤田の左腕、厄介だって監督が言ってた。涼が先発で、お前は中継ぎ待機……でも、絶対投げたいって顔してるな」

球太はグローブの紐を指でいじりながら、ぼそっと答えた。

「投げたい。初戦で156キロ出せたけど……まだ、足りねえ。監督の目が、俺に『もっとだ』って言ってる気がする」

健はパンを飲み込んで、笑った。

「監督とぶつかってから、お前ほんと変わったよ。夏の頃は、涼の背中ばっか見て縮こまってたのに、今は自分のマウンド取りに来てる」

球太は小さく息を吐いた。

「縮こまってたのは……怖かったからだ。あの7回で崩れた瞬間、もう二度とマウンドに立ちたくないって思った。でも、監督に『意地でも投げたい』って叫んだら……なんか、吹っ切れたんだ」

健は頷いた。

「吹っ切れたなら、明日も行けよ。10番の意地、見せてくれ」

球太はグローブを握りしめ、静かに言った。

「見せるよ。俺の球で……勝つ」

試合当日。球場は秋晴れ。スタンドは初戦よりさらに埋まり、福丘の青白い応援旗と東海の赤黒い旗が激しく揺れる。気温は23度。風が強く、グラウンドの土が舞い上がる。

試合開始前、ベンチで山田監督が選手たちに指示を出した。

「藤田は左腕で、ストレートは速くないが、変化球のキレが抜群だ。篠原は先発でいく。早乙女は中継ぎ待機。だが……今日の東海は打線が爆発する可能性が高い。ピンチになったら、すぐ上がれ」

球太は背番号10のユニフォームを着て、監督の目を見た。

「わかりました。ピンチなら……俺が抑えます」

監督は一瞬、目を細めて頷いた。

1回表、福丘の攻撃。藤田の初球、外角低めスライダー。福丘1番が空振り三振。2番も三振。3番の大石がようやく四球を選ぶが、4番が三振。無得点。

1回裏。福丘の守備。マウンドに立つ涼。背番号1。

初球、ストレート。159キロ。ミットが爆音を立てる。東海の1番が空振り三振。2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をチェンジアップで三振。

涼は1回無失点。ベンチに戻ると、球太が声をかけた。

「涼、今日も速いな。肩は……大丈夫か?」

涼は肩を軽く回しながら答えた。

「問題ない。今日は……完投するつもりだ」

球太は小さく笑った。

「俺も……待ってる。ピンチになったら、俺に任せろ」

2回、3回と試合は進む。涼の投球は圧巻だった。ストレートは159キロを維持し、スライダーとチェンジアップで打者を翻弄。東海打線は5回まで1安打無得点。

福丘打線は藤田の好投に抑えられ、5回まで0-0。5回表、翔がレフト前ヒット。大石が四球で1・二塁。打席は球太。

藤田の初球、外角低めチェンジアップ。球太は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。

三球目、真ん中やや高めストレート。球太のバットが、渾身で振られる。

カキーン!!

打球はレフト線へ。フェンス直撃のタイムリー二塁打!

翔が生還! 福丘が先制、1-0!

球太は二塁ベースで拳を握り、スタンドに向かって小さくガッツポーズ。ベンチから歓声が上がる。

6回裏。涼が続投。

東海打線がようやく火をつけた。1アウトから連続安打。1アウト一・三塁のピンチ。

西田がマウンドへ。

「涼、ストレートのキレが少し落ちてる。変化球で勝負だ」

涼は頷く。次の打者、東海の4番。

フルカウント。涼の勝負球、チェンジアップ。

打者が空振り三振!

続く打者をセカンドゴロに打ち取り、ピンチを脱した。

7回表。福丘が追加点。2-0。

7回裏。涼が続投。

しかし、疲労が表面化。球速が157キロに落ち、制球が乱れ始めた。1アウトから四球。続く打者にタイムリー二塁打。2-1。

さらに1アウト一・三塁のピンチ。

監督が立ち上がった。

「篠原、降りろ!」

涼はマウンドで抵抗したが、監督の視線に頷いた。

ベンチに戻る涼。肩を押さえ、息を荒げている。球太が即座に立ち上がる。

「監督! 俺に!」

山田監督は球太を見て、静かに言った。

「早乙女。満塁のピンチだ。抑えろ」

球太はマウンドへ。土を踏みしめ、深呼吸。

西田がミットを構える。

「球太。お前のフォークで終わらせろ」

球太は頷く。1アウト一・三塁。打者は東海の6番。

初球、ストレート。156キロ。ストライク。

二球目、外角スライダー。ファウル。

三球目、内角フォーク。落ちる!

空振り三振!

続く打者。7番。フルカウントからの勝負球、ストレート。

バシュン! 157キロ。三振!

最後の打者。8番。球太は叫んだ。

「これで……終わりだ!」

全力のフォーク。ボールが急降下。

打者が空振り!

「バッターアウト!」

7回無失点! ピンチを脱した!

ベンチが沸く。翔が叫ぶ。

「球太! すげえ!!」

8回表。福丘がさらに1点。3-1。

8回裏。球太が続投。

三者凡退に抑える。完璧なリリーフ。

9回表。福丘が追加点。4-1。

9回裏。最終回、3点リード。球太がマウンドに立つ。

監督がベンチから声をかけた。

「早乙女。最後まで投げ切れ。今日のマウンドは、お前のものだ」

球太は頷き、グローブを叩いた。

初球、ストレート。158キロ。ストライク。

東海の1番が空振り三振。2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をフォークで三振!

試合終了! 福丘の勝利。4-1。

グラウンドに歓声が響く。球太はマウンドで膝をつき、土に額を押し当てた。汗と涙が混じり、土に染みる。

仲間たちが駆け寄ってくる。翔が背中を抱き上げる。

「球太! 完投リリーフだぞ! 158キロ出してた!」

涼がゆっくり近づき、球太の肩に手を置いた。肩を押さえながら、息を切らして言った。

「早乙女……ありがとう。お前がいてくれたから、俺は最後まで投げられた」

球太は顔を上げ、涼を見た。

「お前が先制してくれたからだよ。背番号1と10番で……勝てた」

二人は拳を合わせた。スタンドの歓声が、二人を包む。

試合後、部室で監督が球太を呼んだ。

「早乙女。今日の投球……完璧だった。夏のことは、もう忘れろ。お前はもう、チームの柱だ」

球太は背筋を伸ばした。

「ありがとうございます。でも……まだ、満足してません。次も、もっと投げます」

監督は小さく笑った。

「そうだな。3回戦も、お前を信じる」

夜、寮に戻った球太はベッドに横になり、今日のマウンドを思い出した。158キロの感触。ピンチを抑えた瞬間。涼の肩を押さえる姿。

「まだ……始まったばかりだ」

窓の外で、秋風が吹いていた。秋季大会は、まだ続く。球太と涼の物語は、ここからさらに加速していく。

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