「カイン……何を言っているの?無理に決まってる」 イレリアは慌ててカインを引き起こそうとしたが、カインは固く跪いて動かない。 カインはイレリアのスカートの裾に口づけたまま、目線だけをイレリアに向けた。「それに、あなたには婚約者がいるわ。シトロン公女がいないとあなたはもちろん、この国がどうなるか」「そうだ。だから例え婚約を破棄しても、彼らは自分の身を守るためにジルダを差し出す」 カインは立ち上がるとイレリアを抱きしめた。「イレリア。僕はもう君が彼らのために擦り減っていく姿を見たくないんだ。支援をと言うのなら僕がしよう。だからどうか、僕を選んでくれ」 カインの腕の中でイレリアは夢を見ている気分だった。 国王の次に高い地位にいると言ってもおかしくないエスクード侯爵家。その嫡男が自分を求めている。 抱きしめられた胸の厚みとカインの匂いに、カインの休暇の最後の日に重ね合わせた体を思い出して、イレリアの体の奥が熱を持つのを感じた。 しかし、イレリアは子供の頃から裕福な商人や貴族が、平民の見目の美しい女性を妾にし、その美しさを消費し終えると当たり前のように彼女らを捨てていたのを見ていた。 彼らにとって平民やそれ以下の自分達は、愛の対象ではなく、美しさを消費するためのものなのだ。 カインが彼らと同じとは思いたくはない。 しかし、平民以下の存在であるイレリアが、宮廷貴族の重鎮であるシトロン伯爵家の公女を押しのけて正妻になれるはずなどないと、イレリアはわかっていた。「カイン――カイン、落ち着いて。私には無理よ。例えあなたの言う通りだとしても、そうなったら子供の頃からずっとあなたを支えていたシトロン公女はどうなるの?――あなたの名誉だって……」 イレリアは努めて冷静にカインに言い聞かせるように言った。 一瞬でも、カインの言葉を喜んだ自分が恥ずかしい。貴族であるカインがたかが貧民のために婚約者を捨てるなんてあってはならないことだ。 まして、それが国そのものを危険に陥れる選択だとなれば、国中の笑い者どころか、反逆とすら取られかねない。カインを恥知らずな罪人にするわけにはいかない。「ジルダは僕を愛してなんかいない。彼女はその能力を利用して僕の婚約者と言う位置に収まり、侯爵夫人となる事を目論んでいるだけなんだ」 イレリアの気持ちを聞いて、カインは吐き捨てる
Zuletzt aktualisiert : 2026-08-21 Mehr lesen