イレリアがアバルト侯爵夫人に招待されたのは、当然の事だった。 ヨルジュの手配でロメオがエスコートを引き受けてくれた礼を贈ると、3日と空けずに夫人からお茶の招待を受けた。 アリッサに付き添われて獣車に乗り込むと、初めての感覚におかしくなりそうだった。 よくよく考えると、侯爵家に来てから初めての外出だった。 獣車の窓から見える街は、イレリアがいた貧民街とは違って広々とした屋敷が広がる貴族街だった。 エスクード侯爵家を出た獣車は、石畳の道を走っているとも思えないほど穏やかに進んでいる。 イレリアが時折借りていたマーヴが牽く荷車は、速度も遅く乗り心地も非常に悪かったのに、随分と違うものだと感心した。「アバルト侯爵邸は、エスクード侯爵邸に次いで大きなお屋敷なんですよ」「アリッサは行ったことがあるの?」 興奮気味に言うアリッサに、イレリアは尋ねた。 自分はふわふわとした乗り心地に困惑しているのに、アリッサは慣れているようにも見える。「はい。一度だけ前の奥様のお付き添いで……と、言っても獣車の中でお待ちしていた程度ですが」 アリッサが笑うと、イレリアも微笑んだ。 アバルト侯爵邸の車寄せに到着すると、迎えてくれたのはロメオだった。「やあ、イレリア嬢。数日ぶりだね」 ロメオが差し出した左手を不思議そうに眺めるイレリアに、ロメオは笑って「手を取るんだよ」と教えてくれた。 イレリアは一瞬顔を赤らめたが、すぐにロメオの手を掴んで獣車を降りた。「カインはこんな事も教えてくれなかったんだな。まったく――君を連れ帰ってからの間、一体何をしていたのやら」 ロメオの軽口に、イレリアは顔を更に赤くして俯いた。 町に出たがっていたイレリアだが、カインはそれを許さなかった。 屋敷の中でも与えられた自室と、いくつかの部屋、そして庭を散歩する程度しか許してくれなかったのだ。 イレリアがカインと共にいると約束しても、それは変わらなかった。「まぁ、こんなに綺麗なお嬢さんだ。閉じ込めていたい気もわかるがね」 ロメオは悪戯っぽく笑うと、イレリアを屋敷の中へと案内した。 初めて会う侯爵夫人は、とても美しい人だった。 飛びぬけて美しい、というわけではないが、顔の造形だけではなく気品や所作の全てが、彼女を美しく見せているのだと、イレリアは納得した。「ご令嬢は、刺繍や楽
Zuletzt aktualisiert : 2026-08-21 Mehr lesen