「よお、ジルダ」 歩いて伯爵家の門を出たジルダは、絶対に聞きたくない声を耳にした。「どこに行くんだ?乗せてやろう」 獣車の窓から顔を出していたのは、ナジームだった。「ごきげんよう。アシャール様。結構です。では」 いつも通りの上品さで、しかし早口でそう言うとジルダは再び歩き出した。「そう言うな。先日のことなら謝る。――それに、君と少しだけ話がしたいんだ」「わたくしにはありません。お話であれば、また、どこかの夜会でお会いした時に」「アバルト侯爵邸に行くんだろ?」 ナジームの言葉に、ジルダは足を止めて獣車の窓を見上げた。「以前君を見かけて、その――後ろをついて行ったことがあったんだ」「つまり、後をつけたと」 ジルダの容赦のない批判に、ナジームは苦笑いした。「まあ、そう言うことだ。気になる女性が不用心に貸し馬車なんかに乗ってたら心配するだろう?」 それでも後をつけたことには変わりない。 ジルダはやはり獣車に乗るのではなかったと後悔した。「明日から揚水ポンプの点検に帯同させてもらうんだ。それで、行く前に君に会いたかった」 ナジームの真剣な声に、ジルダは表情を緩めること無く、彼の顔を見た。「君らが北方の民族と呼んでる、俺たちアシャールの土地は、砂漠の影響で魔力が少ないのは知っているだろ?」 不意にナジームの口から出た北方の民族――アシャールの話にジルダは少しだけ興味を持った。 曽祖父は交易を結ぶために曾祖母と結婚し、アンドレア王国に来た。 だが、その後なぜか一度交易は中断され、再開したのは父が生まれた頃で、その交易にシトロン伯爵家は関わっていない。 曽祖父はジルダが生まれる何十年も前に亡くなっているし、交流など完全に途絶えている。 つまり、ジルダはアシャールの土地のことを何も知らないのだ。「そのおかげでアシャールは周辺の国からも魔獣からも侵略されることはなかった」 ナジームは続けた。「だが、この10年程で状況は変わってきた。周辺の国で魔獣の被害が深刻化すると、魔獣の被害の少ないアシャールの地に目を付け始めた。ネルフ――アシャールの言葉で王を意味するんだが、端的に言えば俺の親父が、周辺国から民族を守る為に、我々も国家として立ち上がるべきだって言いだしたんだ」「だから留学に?」 初めてジルダがまともに話しかけてくれたことが嬉
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-21 อ่านเพิ่มเติม