絃葉が凪杜の車へ乗り込むと、エンジンがかかり、車は夜の街へ走り出した。車内には重苦しい沈黙が漂っていた。やがて凪杜が、わずかな疲労と悲哀をにじませた低い声で話し始める。「実は最近......誰かに狙われている気がするんだ」絃葉の心に、わずかな波紋が広がった。「というと?」「会社の事業は何をやってもうまくいかない。融資を受ける道も、ほとんどすべて閉ざされた。そのうえ、今夜のようなわけの分からない女性問題まで起きた......」凪杜は自嘲気味に笑った。「何もかも、偶然にしては出来すぎている」「それで?」絃葉の口調は淡々としていた。凪杜は横を向き、燃えるような眼差しを彼女へ向けた。「今の苦境を乗り越えるには、絃葉の力が必要なんだ。俺のところへ戻ってきてほしい。5年前、二人でゼロから会社を立ち上げたときのように、もう一度一緒にこの危機を乗り越えてくれ」凪杜は深く息を吸った。まるで重い荷物をようやく下ろしたかのように、その口調にはすべてを懸ける覚悟が込められていた。「君さえ戻ってきてくれるなら、会社の全株式も、俺名義の不動産も車も、すべて君に譲る。ほかにも条件があるなら、何でも言ってくれ。どんな条件でも受け入れるから!」それを聞いた絃葉の唇に、ごく淡く冷たい笑みが浮かんだ。「ようやく形だけの役職じゃなくて、本物の株式を差し出す気になったのね?」凪杜の顔に、気まずそうな表情がよぎった。「すまない。以前の俺は......考えが足りなかった。誰に裏切られることがあっても、君だけは絶対に俺を裏切らないと思い込んでいたんだ。それでも俺は......今でも、絃葉のことは信じてるよ」絃葉は何気なく窓の外へ目を向けた。見慣れた街並みが、後方へ流れるように遠ざかっていく。その瞬間、進んでいる方向が違うことに気づいた。「どこへ連れていくつもり?」絃葉は振り向き、問い詰めた。「俺たちの家だ」凪杜は当然のように答えた。その声には、反論を許さない確信がある。「絃葉、澤木グループは俺たち二人が心血を注いで育ててきた会社だ。それが潰れるのを、本当に黙って見ていられるのか?」野々花の醜態を嫌というほど見せつけられた今、凪杜はこれまでになくはっきりと理解していた。自分が必要としている女性も、自分
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