「そろそろ行くぞ」龍太郎は由樹の肩を軽く叩いた。「これ以上ぐずぐずしてると、記者が来るぞ」百栄の代表であり、酒井家の後継者。そのどちらの肩書きだけでも、深夜に海辺で酒を飲み、警察まで駆けつけたとなれば、マスコミにいくらでも脚色されて、面白おかしく記事にされかねない。由樹が立ち上がると、黒いシャツが風を孕んで大きく膨らんだ。風に向かって立つと、今度はシャツが引き締まった腰にぴたりと張りつく。「世話をかけたな。もう戻る」身を翻すと、振り返りもせず岸のほうへ歩き出した。この一帯にはタクシーが走っておらず、警察官たちはそのまま由樹と龍太郎を送り届けてくれた。パトカーを降りると由樹は上着を羽織り、振り返りもせず別荘の中へと入っていく。後ろからついてきた龍太郎が、ふいに声を立てて笑い出した。「早坂三久って、本当にただ者じゃないな」笑い声が消えるより早く、ドアがぴしゃりと閉められる。その勢いに龍太郎はびくりと肩を震わせた。鼻先が扉まであと一センチというところだった。「明日、高崎家の人間が来るからまた連絡する」ドア越しにそう声をかけると、龍太郎はその場を後にした。……警察官たちは由樹を家まで送り届けたあと、三久に電話をかけ直した。「ありがとうございます」三久は相手に礼を言った。「この件は社長の評判にも関わりますので、どうか内密にお願いできますでしょうか」「酒井さんにこちらで何かあれば、我々としても責任問題になりますから。早坂さん、ご連絡ありがとうございました」警察官のほうも事情を弁えているようだった。電話を切ると、三久は理紗に安心するようメッセージを送り、それから食卓へと戻る。その頃には洲人はすっかり酔いが回っていて、テーブルを叩きながら目を見開き、昔、由樹がしでかしたひどい話について熱弁を振るっていた。「そうちゃんも寝る時間だし、もうお開きにしましょ」三久はテーブルへ歩み寄り、片づけ始める。「もういいから」梨々香が立ち上がり、三久の背中を押しやった。「この酔っ払いを連れて帰って。あとはあたしと青木さんでやっとくから。早く行きな」洲人が一体どんな余計なことを言ったのか、梨々香の機嫌をここまで損ねている。三久は洲人の腕を引いた。「早く行きましょ」洲人はふらつ
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