スパイスと安酒、そして欲望が焦げたような独特の匂いが混ざり合う歓楽街の裏路地。 石畳には前夜の乱痴気騒ぎの痕跡である割れた酒瓶が転がり、建物の隙間からは薄汚れたドブネズミがこちらの様子を窺っている。 ここは神の加護が届かない自由自治領、歓楽都市ゴルベガス。 華やかな歓楽街の裏では、金と暴力が全ての秩序の街。俺たちはその最奥に向かっていた。「……まとわりつくような視線ね。まるでこちらを試しているみたい」 薄暗い路地の奥から向けられる、値踏みするような、あるいは劣情の視線。 ラナンが心底嫌そうに顔をしかめ、ローブの襟元をかき合わせた。 無理もない。 血と暴力、そして安っぽい欲望が渦巻くこの街の裏側は、まともな神経の持ち主なら数分で頭痛を引き起こすほどだ。「ヒョッヒョッ! 我慢して下され、お嬢ちゃん。このゴルベガスじゃあ、その下劣な欲望こそが『金が動いている証拠』なんでさァ」 先導する闇商人のモヤネロが、ジャラジャラと金ピカの指輪を鳴らしながら振り返る。 そして、どこか探るような胡散臭い視線を俺たちに向けた。「それにしても旦那方、本気でバルザット様の討伐隊なんぞに志願する気ですかい? あそこは表向きこそ領主の館ですがね……裏社会の私らから見ても、どうにも気味が悪い連中が出入りしてるんでさ」「気味が悪い連中、だと?」「ええ。最近じゃあ、金に釣られた街のならず者たちが毎日のように屋敷へ吸い込まれてますがね……中に入った連中が、誰一人として出てきたって話を聞かねェんですよ」 モヤネロの言葉に、俺とラナンは無言で視線を交わせた。 サキュバスであるベルタの影、そして生還者のいない魔王討伐隊。 どう考えてもまともな話ではない。「ヒョッ! まァ、ワシは紹介料さえ貰えりゃあ、旦那方が中でどうなろうと知ったこっちゃありませんがね!」「……いいから案内しろ。そのために法外な金を払ったはずだ」「ヒヒッ、違いねェ!
Last Updated : 2026-04-26 Read more