All Chapters of 偽典のダーク・ブレイブ: Chapter 21 - Chapter 30

42 Chapters

ep19.喰らう館への潜入

 スパイスと安酒、そして欲望が焦げたような独特の匂いが混ざり合う歓楽街の裏路地。 石畳には前夜の乱痴気騒ぎの痕跡である割れた酒瓶が転がり、建物の隙間からは薄汚れたドブネズミがこちらの様子を窺っている。 ここは神の加護が届かない自由自治領、歓楽都市ゴルベガス。 華やかな歓楽街の裏では、金と暴力が全ての秩序の街。俺たちはその最奥に向かっていた。「……まとわりつくような視線ね。まるでこちらを試しているみたい」 薄暗い路地の奥から向けられる、値踏みするような、あるいは劣情の視線。 ラナンが心底嫌そうに顔をしかめ、ローブの襟元をかき合わせた。 無理もない。 血と暴力、そして安っぽい欲望が渦巻くこの街の裏側は、まともな神経の持ち主なら数分で頭痛を引き起こすほどだ。「ヒョッヒョッ! 我慢して下され、お嬢ちゃん。このゴルベガスじゃあ、その下劣な欲望こそが『金が動いている証拠』なんでさァ」 先導する闇商人のモヤネロが、ジャラジャラと金ピカの指輪を鳴らしながら振り返る。 そして、どこか探るような胡散臭い視線を俺たちに向けた。「それにしても旦那方、本気でバルザット様の討伐隊なんぞに志願する気ですかい? あそこは表向きこそ領主の館ですがね……裏社会の私らから見ても、どうにも気味が悪い連中が出入りしてるんでさ」「気味が悪い連中、だと?」「ええ。最近じゃあ、金に釣られた街のならず者たちが毎日のように屋敷へ吸い込まれてますがね……中に入った連中が、誰一人として出てきたって話を聞かねェんですよ」 モヤネロの言葉に、俺とラナンは無言で視線を交わせた。 サキュバスであるベルタの影、そして生還者のいない魔王討伐隊。 どう考えてもまともな話ではない。「ヒョッ! まァ、ワシは紹介料さえ貰えりゃあ、旦那方が中でどうなろうと知ったこっちゃありませんがね!」「……いいから案内しろ。そのために法外な金を払ったはずだ」「ヒヒッ、違いねェ!
last updateLast Updated : 2026-04-26
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ep20.毒蛇ゼイク

 扉の向こうに広がっていたのは、むせ返るような熱気と安酒と汗の匂いが充満する大広間だった。 そして――微かな『獣の匂い』が、確実に俺の鼻腔を突いた。 広間には、闇ギルドを通じて集められたであろう数十人の冒険者がたむろしている。 誰もがカタギには見えない、一癖も二癖もあるような連中ばかりだ。「何だオイ、お前が着ているその薄気味悪いの……」「ん?」 不意に背後から「フスッ、フスッ……」という獣のような荒い息遣いが聞こえた。 振り向くと、魔獣の毛皮で作られたベストと巨大なブーツを身に纏い、ボサボサの髪を振り乱した巨漢がいた。 男の背丈は俺よりも二回りは大きい。その男は見下すような視線で俺を見つめていた。「フスッ! 悪目立ちする派手な色の装束だな」 その手には、ジャラジャラと太い鎖が巻き付いた巨大な斧が握られていた。「それって『パープル・ミラージュ』じゃねぇか。どこのダンジョンで手に入れたんだ? 金でもないのか? そんな装備品に頼るなんてよォ」 そう、今回俺が装備しているのはサキュバスであるベルタの『誘惑の甘息』を弾くための対魔法防具だ。 だが、これは同時に物理攻撃のダメージを二倍にして受けてしまう呪われた装備でもある。「そんな、曰く付きのクソ装備で大丈夫かよ、ええおい? フスッ!」 こういう手合いは、まともに相手をしては時間の無駄だ。 俺は何も答えず、無視して部屋の隅へ移動しようとした。「無視すんじゃねーよ! 俺の名はブロッド・バッカスだ!」「……お前の名前など興味はない」 スタスタと壁際まで歩き、背をもたれかける俺に対し、ブロッドという男はあからさまに青筋を立てた。「テメェ、このゴルベガスで『砕き屋』のブロッド様を知らねェのかい!?」 そんな冒険者の二つ名など聞いたことがない。 俺は少し鼻で笑いながら返した。「大男総
last updateLast Updated : 2026-04-26
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ep21.誘惑の甘息

「ギャアアアッ!!」「な、何で魔物がここに……ヒィィッ!」 阿鼻叫喚の地獄と化した大広間。 人間に化けていたワーウルフ――ブラッド・ライカンたちは、逃げ惑う冒険者たちを次々と蹂躙していく。 濃灰色の毛並みが血を吸って赤黒く染まっていく凄惨な光景の中、俺は静かに剣を抜いた。「シェーンと言ったな。俺と背中合わせになりな」 『毒蛇』ゼイクが、深緑の片刃剣を構えながら短く告げる。 ――なるほど、そういうことか。 互いに背中を預ければ、乱戦において致命的な死角を取られるリスクは激減する。 俺はゼイクの指示通り、彼の背中に自身の背をピタリと合わせた。「けっ! 虎と犬ッコロが何匹集まろうと、全員ひき肉にしてやるぜェ!!」 一方、先程俺に突っかかってきた『砕き屋』ブロッド。 彼は血走った目でジャラジャラと鎖斧を振り回した。「邪魔だッ! オラァッ!!」 轟音と共に横薙ぎに放たれた巨大な鉄塊が、飛びかかってきたブラッド・ライカン二匹の頭蓋をまとめて粉砕する。 グチャリ、と嫌な音が響き、上位種の魔物が紙屑のように壁へと吹き飛んだ。 伊達に『砕き屋』の二つ名を名乗ってはいない。腕力は間違いなく一級品だ。「ガハハハッ! 脆い、脆いぜ! この勢いでテメェも潰してやるッ!」 完全に血に酔ったブロッドは勢いそのままに、群れの頭目であるワ―タイガーへと真正面から突っ込んでいった。「ぬぉリヤアアアッ!!」「馬鹿力だけの低能な人間はいりませんねぇ」「ふひょ……!?」 ブロッドの巨体がピタリと止まる。 ワータイガーの爪が、瞬きすら許さぬ神速で巨漢の喉元を深々と抉り取っていた。 鮮血が間欠泉のように噴き出し、大広間の壁や天井を赤く染め上げる。 速い。 異常なまでの瞬速の斬撃だ。 強固な筋肉ない喉を裂かれたブロッドは、断末魔すら上げずに重い音を立てて床に伏した。
last updateLast Updated : 2026-04-28
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ep22.桃色の死地

「……ゼイク、なるべく息をするな」「言われるまでもない。これはサキュバス特有の誘惑の甘息だろ?」 気のせいではない。 ベルタの潜伏する豪奢な部屋全体が、退廃的で粘り気のある桃色の霞に深く沈み込んでいた。 極上の果実酒の樽に、頭の先まで漬け込まれたようなねっとりとした酩酊感。 呼吸をするたびに視界が揺らぎ、思考の輪郭が曖昧にぼやけそうになる。 俺はパープル・ミラージュの効果により、精神干渉を弾く呪具の恩恵で辛うじて正気を繋ぎ止めている状態だ。「ぐふっ……アヒヒッ……気持ちいいなぁ」 だが、腕利きの冒険者たちは違った。 彼らは全員が瞳の焦点を完全に失い、だらしなく口を開けて恍惚の表情を浮かべている。 歴戦の証であるはずの分厚い筋肉は弛緩し、手にした大剣や槍の切っ先は力なく床へと垂れ下がっていた。 己の野心も、生への執着も、全てを甘い毒に溶かされている。 精神が既に『別の何か』――目の前の絶対的な妖魔に支配されていた。「人間の男って、本当に底が浅くて可愛らしいわ。どれほど血の滲むような修練で剣の腕を磨こうと、どれほど強靭な肉体を誇ろうと……私から吐き出されるこの程度の技能で、こんなに簡単に尻尾を振る飼い犬になっちゃうんだもの」 ベルタは甘い笑い声をこぼした。 豪奢な黒いドレスのスリットから、飴細工のように滑らかで誘惑的に肢体を覗かせくねらせる。 そして、ベルタはゆっくりと俺たちに歩み寄ってくる。 カツン、カツンと響くヒールの音が、死への秒読みのように不快に響いた。「……悪趣味な妖魔め」「ウフフ、強がらないで。その物々しい装備で、私の生来の力たる『誘惑の甘息』を防いだつもりでしょうけど――無駄よ。精神技が直接効かないなら、物理的にすり潰すだけだもの」 ベルタが艶やかな指先で、パチンと軽快に音を鳴らす。 それを明確
last updateLast Updated : 2026-04-29
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ep23.見世物小屋の獣たち(フサーム視点)

 オレは苛立ちで自らの牙をすり減らしそうになっていた。 誇り高きワーウルフの戦士であるこのオレ様が分厚い手錠と足枷を嵌められ、首には冷たい鉄の首輪まで巻かれている。 愛用の曲刀『ムーンリーパー』はサッドの野郎に預けてきた。丸腰で獣のように鎖に繋がれる屈辱に、今にも吠え猛りたくなる。(サッドの野郎……何が『極上の見世物として闘技場へ潜り込め』だ。ふざけやがって……ッ!) 鼻を突くのは、自由自治領ゴルベガスの裏社会特有の腐った匂いだ。 酒と吐瀉物、血と安っぽい欲望が混ざり合った悪臭。 隣を歩くのは、同じく鎖に繋がれた紅梅色の亜種トロル――ハンバルだ。 ヤツは無表情でノシノシと歩いているが、オレは首に食い込む鉄の感触に全身の毛を逆立てていた。 ここは、ゴルベガスの裏社会を牛耳るバルザットの屋敷の裏口。「なんだ、今日の仕入れはこの薄汚い二匹だけか」「へへっ……申し訳ねェです、旦那」「ふん……最近の魔獣使いは能力値が低くて困ったもんだ」 葉巻を咥えた黒服の男が忌々しそうに鼻を鳴らす。 その前で揉み手をしているのは、オレたちをここまで引っ張ってきたのは闇の魔獣使いだ。 くそったれな人間だが、サッドに金で雇われたらしい。「毛並みの悪いワーウルフに、鈍重そうなトロルだな。見世物としちゃあ華がねェ」「そ、そこを何とか! 特にこのトロルなんて珍しい亜種ですぜ!」「何の種類の魔物だ? ファイアトロルでも、アイストロルでもないな」「いやぁ……それがあっしにもわからなくて」「……新種か……それとも突然変異か」 黒服は破格の安値である500スピナを投げ渡した。「ええっ……こ、これだけですかい? 最低でも1500スピナは頂かないと」「文句があるのか? お前
last updateLast Updated : 2026-04-29
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ep24.絶望の円形劇場

 俺はゼイクの不意打ちを喰らい意識を失った。  目が醒めると――。「……牢獄……なのか?」 そこは冷たい石壁に囲まれた牢獄だった。  幸い、武具は身につけたままだ。  呪われた装備品は持ち主の意志では外せないため、奪いようがなかったのだろう。「あんたも連れてこられたのかい」 後ろから掠れた声がした。  振り返ると、灰色の囚人服を着た男が四名。  どの者も髪と髭は伸び放題で瞳からは生への執着が消え、深い絶望だけが沈殿していた。「ここはどこだ」 「闇カジノの地下牢だよ」 やはり俺の正体は見抜かれていたのか。  それにしてもゼイクめ、彼は精神干渉を弾く『蒼月鉱の首飾り』を所持していたはずだ。  ベルタの『誘惑の甘息』が効くはずはない。一体何を考えている?「ケケケ……鎧を着たままの『客』は初めてだな」 奥にいた男が喉を鳴らして笑った。「あんたらは、なぜここにいる」 「なぜって……兄ちゃんもギャンブルの借金を払えずにぶち込まれたクズの一人じゃないのかい?」 ここは賭博場。彼らは甘い夢に溺れ、対価として己の人生をここに投獄されたのだ。 ――カツン、カツン。 硬い足音が通路に響く。「ヒィッ!」 さっきまで俺をせせら笑っていた男が、一瞬で恐怖に顔を引き攣らせた。  現れたのは三匹のブラッド・ライカンだ。  屋敷で遭遇したブラッド・ライカンの生き残りだろうか。「い、嫌だ! 死にたくない!!」 「ガタガタ抜かすな」 鋭い爪を首筋に突き立てられ、男は涙を流しながら硬直した。  一匹のブラッド・ライカンが俺を指差す。「ガルアと言ったな。腰の剣は抜こうとするなよ。抜いた瞬間にこのナマモノどもの首を撥ねる」 ……人質か。  魔物らしい姑息な手段だが、今は従うしかない。「分かった」 「よし。さっさとバトルコロシアムへ上がれ
last updateLast Updated : 2026-05-01
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ep25.狂宴の屠り手

 最強の獣兵、ドビーダス。 銀の鉄仮面に覆われ素顔は窺い知れないが、その強靭な四肢と尾は獣人族の魔物であることを雄弁に物語っていた。 領主バルザットは『最強の獣兵』と嘯いていた。 その毛並みは本来の種族特性に反して、異様なほど鮮やかな『赤』に変質している。 ――シャキ……シャキ……。  静寂を切り裂き、巨大な『大ばさみ』の刃が擦れる音が鳴り響く。 ドビーダスは、片手を下段、もう一方の手を顎に添える独特の構えを取った。 肩幅に開かれた脚は地を掴み、寸分の隙もない。魔物というよりは高度な武術を修めた闘士のそれだ。「俺に一撃でも当てられたら、生かしてやろう」 ドビーダスが放ったのは、あまりにも悪党じみた慈悲の宣言だった。 魔物の言葉など信じるべくもない。 しかし、極限状態の人間にとっては蜘蛛の糸にも等しい。 俺以外の男たちは震える手で木の棒を握り締め、必死にドビーダスへと切っ先を向けた。「ほ、本当か……? 当てれば、出してくれるのか!?」「ああ、約束しよう」「なら――ッ!」 言葉が途切れるよりも早く、結末が訪れた。 一歩踏み出した男の顔面が閃光のような『大ばさみ』に両断され、言葉を失った肉塊へと変わる。「ヒ、ヒィィィッ!!」「ウワアアア! 助けてくれ!!」「フン……今の動きも見切れねェか。さっき殺したAランク冒険者の方が、まだマシな手応えだったぜ」 目にも留まらぬ瞬速の斬撃。 ドビーダスは返り血を浴びてさらに赤さを増した毛並みを揺らし、退屈そうに吐き捨てた。「い、今だッ!」 傲慢に喋り続けるドビーダスの隙を突き、一人の男が木の棒を振り下ろした。 かつて宿屋を経営していたアルスランだ。 乾いた衝撃音がドビーダスの鉄仮面に吸い込まれる。「おおーっと! クリーンヒットだァ!!」
last updateLast Updated : 2026-05-02
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ep26.棄却された名に刻印を(フサーム視点)

 迫り来る紅紫の毒炎が、視界のすべてを焼き尽くそうとしている。 死を覚悟したその瞬間――。 俺の全身を包む呪いの鎧『パープル・ミラージュ』が理の外側にある不吉な脈動を刻み始めたのだ。 ――ガギィィッ! キリキリキリッ!! それは金属の軋みを超えた、世界の『バグ』が発する悲鳴だ。 直撃するはずの『紅紫の毒炎鎖』が、俺の数センチ手前で目に見えない断層に衝突したかのように霧散していく。 いや、霧散したのではない。 鎧が放つ悍ましい紫光が、毒炎という『事象』そのものを喰らい無効化していた。「なっ……!? 俺の紅紫の毒炎鎖が消えただと!?」 驚愕に目を見開くドビーダスの隙を突き、俺の体は影のようにブレた。 魔剣アレイクの切っ先が、爆炎の残滓を切り裂いてドビーダスの喉元へ肉薄する。 だが、その決着の瞬間を闘技場を揺るがす巨大な地響きが遮った。*** 地下牢獄。 オレは苛立たしげに、煤鉄色の拳で鉄格子をコンコンと叩いた。「手枷と足枷を外したけどよ、コイツはどうするンだ」「簡単なことだ」「簡単? 牢の鍵もないのにどうやって開けるんだ」「見ておけ」 頑丈な鉄格子を抜けるには本来カギが必要だが、隣に立つハンバルが静かに掌を鉄に当てた。 足を肩幅より少し広く開き、腰を深く落とす。 こいつは、魔物らしい荒々しさとは無縁の洗練された『型』というやつだな。「むんッ!!」 ハンバルの野郎の鋭い気合と共に、鉄格子が飴細工のようにぐにゃりとひしゃげた。 トロルの馬鹿力でこじ開けたんじゃない。 浸透する衝撃が鉄の分子を組み替えたかのような、拳法の極意に近い技術だ。「ヒュ~~ッ! 相変わらず器用なもんだぜ」 オレは口を尖らせて感心してみせた。「どこでそんな器用なことを覚えたんだ」「覚えたというよりも、身につけていたというのが妥当だな」「身に
last updateLast Updated : 2026-05-03
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ep27.狂乱のコロシアム

 砂煙の舞う闘技場。 俺の剣先が、ドビーダスの喉元を捉えようとしたその刹那だった。 地響きと共に闘技場の巨大な鉄扉が内側から弾け飛び、絶叫が渦を巻いて砂地に溢れ出した。「なっ……!?」 俺の集中が、予期せぬ乱入者たちによって一瞬だけ削がれる。 魔剣アレイクが喉笛を裂くよりも早く、ドビーダスはその混乱の隙を突いて後方へと大きく跳躍した。 死神の鎌が届く一瞬手前で、奴は『幸運』にもその命を繋ぎ止めたのだ。 魔剣の一振りに魂を啜り取られた俺の体は、鉛のように重い。 膝をつきそうになるのを必死に堪え、俺は背後から迫る『異変』を視界に捉えた。「ウギャアアア――ッ!!」 耳を劈く断末魔。 闇カジノの従業員であろう黒服が背中から無骨な剣を突き立てられ、鮮血をぶちまけて膝をつく。「ケケケ……流石は闘技場ってところだな。武器がごまんとありやがるぜ」 通路から溢れ出したのはどこから現れたのか、解き放たれた魔物の軍勢だった。 地下の檻にいるであろうの魔物たちがここにいる?「き、貴様らどうやって……!」「同じ魔物なのに人間どもの味方をしやがって、ぶっ殺してやるぜ!!」『グオオオオオン!!』 地響きと共に、四頭のフレア・バッファローが闘技場へ躍り出た。 巨体が踏みしめるたびに砂地が爆ぜ、場内は一瞬にして逆襲に燃える魔物の群れに支配される。 観客席の上流階級どもは、自分たちが喰われる番だと悟り、無様な悲鳴を上げた。「ま、魔物がどうして……地下にいたはずじゃないの!」「に、逃げなきゃ! 出口はどこよ!!」 先ほどまで安全な高みの見物を決め込んでいた貴婦人たちが、今は見るに堪えない醜態を晒している。 豪華なドレスの裾を自ら踏み抜き、宝石をぶち撒けながら、我先にと出口へ殺到していた。「ヒャハハハ! 踊れ、臭い人間どもめ! |赤の火
last updateLast Updated : 2026-05-04
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ep28.蒼月鉱の誓い

「情けねェぞ……ドビー。誇り高きワーウルフ族が人間に飼い慣らされるなんてよ」 俺はその声に耳を疑った。 魔物の群れを割って現れたのはフサームだった。 そして、その後ろには見覚えのある巨体。トロルのハンバルも静かに控えていた。「……フサーム、それにハンバルまで。お前たち、いつの間に潜り込んでいたんだ」 俺の問いかけに、フサームは視線をドビーダスから外すことなく淡々とした口調で応えた。「ガルア、お前は地下牢に戻れ。そして、そのまま階段を上がり屋敷へ行け」「何を言っている! ここはどうするんだ。それに、この魔物の群れは一体……」「地下の牢獄に捕らわれていた連中だ。ハンバルが檻をこじ開けて解放してやったのさ」「ハンバルが解放しただと? だが、こいつらは怒りと憎しみで我を忘れているぞ」「お前たち二人だけで、この暴走した群れとドビーダスを相手にするつもりか!」「いいから行けと言っている。領主ゾルハン・バルザットの屋敷とこの賭博場は繋がっている」 フサームの声には、どこか深い悲しみと冷徹な決意が混ざり合っていた。「バルザットは魔王討伐隊という名目で冒険者を集め、ここでドビーのような『獣兵』に殺させて経験値として処理させていた。すべてはベルタという女妖魔の掌の上……行きな。お前には自分の仕事があるだろ」「しかし……」「あいつとカタをつけるのは俺の役目だ。人間には殺させはしない」 中央の貴賓席ではバルザットが椅子から転げ落ち、十本の指の指輪を虚しく煌めかせながら叫び続けている。「ドビーダス! 何をしている、さっさとその裏切り者どもを焼き殺せッ!!」 俺は魔剣アレイクを一振りしただけで訪れる、魂を削られるような猛烈な倦怠感。 それに喘ぎながらも、フサームとハンバルを見つめた。「……そうか。そういうことだったんだな」 ラナ
last updateLast Updated : 2026-05-05
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