تسجيل الدخول「ギャアアアッ!!」
「な、何で魔物がここに……ヒィィッ!」阿鼻叫喚の地獄と化した大広間。
人間に化けていたワーウルフ――ブラッド・ライカンたちは、逃げ惑う冒険者たちを次々と蹂躙していく。 濃灰色の毛並みが血を吸って赤黒く染まっていく凄惨な光景の中、俺は静かに剣を抜いた。「シェーンと言ったな。俺と背中合わせになりな」
『毒蛇』ゼイクが、深緑の片刃剣を構えながら短く告げる。
――なるほど、そういうことか。 互いに背中を預ければ、乱戦において致命的な死角を取られるリスクは激減する。 俺はゼイクの指示通り、彼の背中に自身の背をピタリと合わせた。「けっ! 虎と犬ッコロが何匹集まろうと、全員ひき肉にしてやるぜェ!!」
一方、先程俺に突っかかってきた『砕き屋』ブロッド。
彼は血走った目でジャラジャラと鎖斧を振り回した。「邪魔だッ! オラァッ!!」
轟音と共に横薙ぎに放たれ
ベルタの私室を目指し、薄暗い屋敷の中を急ぐ俺たち。 屋敷内の使用人に擬態した魔物や操られた警備兵との戦闘を覚悟し、最大限に警戒していたが――。「おかしい。屋敷内にまるで人がいないぞ」「……ええ。私が『薄暮の催眠』で眠らせた衛兵以外、人の気配がすっかり消え失せているわ。地下の騒ぎに気づいて逃げ出したのかしらね」「――薄暮の催眠。催眠呪文か」「色々と魔法は覚えてるからね」 ラナンが油断なく周囲を見渡しながら、冷静に状況を分析する。 俺たちは微かな違和感を抱きつつも、目的の部屋の重厚な扉を勢いよく蹴り開けた。 そこには、グラスに注がれた赤いワインを静かに揺らすベルタの姿があった。「いらっしゃい、殿方たち。随分と騒がしい夜ね」 ベルタは特に慌てる様子も見せず、妖艶な微笑を浮かべている。 そして、先頭に立つゼイクを見据えて言った。「あなた……私の『誘惑の甘息』に掛かっていなかったの?」「ああ。これのお陰でね」 ゼイクは胸元から引きずり出した銀のチェーン――『蒼月鉱の首飾り』を見せつけた。「それは……ッ!」 洗練された双翼の銀細工を見た瞬間、ベルタの顔から余裕が消し飛んだ。 これまで冷徹だった妖魔が、明確な動揺を露わにする。「これは俺の息子、ダミアンの遺品だ……お前が甘い言葉で弄び、破滅させて殺した男の片割れだ」「……息子ですって?」 ゼイクの息子。そして、ベルタによる過去の凶行。 思いもよらない因縁に、俺とラナンは息を呑んだ。 ――ガチャ……ガチャ……ッ! 突如、重々しい金属音が部屋に響いた。 壁際に飾られていた黄金の甲冑が、自らの意志を持ったように動き出したのだ。「鎧が動いたぞ!」「……ふふっ。おしゃべりはここまでよ。こいつらを肉塊に変えなさい!」「グルオオオォォ!!」 黄金の兜の奥から覗いたのは、斑点模様の毛皮を持つ獣の顔――ジャガーマンだ。 ベルタが洗脳した眷属の魔物らしい。 鎧兵が立ちはだかる隙に、ベルタは素早く部屋の大きな窓を開け放った。「あなた、逃げる気?」 ラナンが鋭い声を飛ばす。「逃げるが勝ちって言うでしょ? ごきげんよう!」 ベルタは嘲笑を残し、暗い夜の窓の外へと身を躍らせた。「あっ……逃げたわよ!」「貴様らの相手はこの俺
屋敷の最奥にある、ひどく露悪的で豪勢な部屋。 足元には北方の雪山でしか狩れないという希少なスノータイガーの毛皮が敷き詰められ、壁際には悪趣味な黄金の甲冑がずらりと並んでいる。 天井から下がるシャンデリアは魔光石を惜しげもなく使い、夜の闇を真昼のように白々と照らし出していた。 この過剰なまでの贅沢はバルザットが、私の歓心を買うために貢いだものだ。「本当に……人間はバカよね」 ため息混じりに唇から漏れた声は、広すぎる部屋に虚しく吸い込まれていく。 黒檀の分厚い机には、山のような宝石や装飾品が無造作に積まれている。 ジェダイトの首飾り、アメジストのブローチ、大粒のダイヤモンドをあしらったティアラ。 ……どれもこれも……。 彼が領民から搾取し、地下の闇カジノで敗者たちの血と肉をすり潰して得た、汚い欲望の結晶。「こんな血生臭い石ころで、私の心が縛れるとでも思っていたのかしら」 血のように赤いシングルソファに腰を下ろした私は足を組み、頬杖をつきながら、それら宝石をひどく退屈な気分で眺めていた。 バルザットは本当に愚かな男だった。 私のような妖魔が『誘惑の甘息』を本格的にかけるまでもなかった。 少し上目遣いで微笑みかけ、潤んだ瞳で見つめるだけで勝手に理性を手放し、破滅への階段を喜んで転げ落ちていった。 彼が私に捧げた愛の言葉も、狂気じみた執着も、すべては滑稽で吐き気がする。 だが、その滑稽な人間を裏で操り、闘技場で魔物の餌食にして|嬲《なぶ》り殺しにさせていた私自身もまた……等しく滑稽な操り人形に過ぎない。「……ふぅ……」 私は吐き出した紫煙を見つめる。 そう、この世界に『配置された』存在にすぎない。 この世界は絶対的な造物主が、自らの慰みとして作った巨大な箱庭。 私はその盤上に置かれた、ただの駒。 勇
闘技場の中央、オレとドビーダスの視線が激突する。 そこに、かつて同じ山を駆け回った親友としての情は微塵もなかった。「越えてはならない一線だと?」 「そうだ。お前は力を高めるために同胞を殺した」 オレは今、ドビーダスを明確な『敵』として見据えている。 新生魔王軍に反乱を目論む妖魔ベルタの駒となり、同族を屠って経験値を得る。 オレたち魔物には魔物なりの、過酷な世界を生き抜くための矜持とルールがあるはずだ。「ケッ! 人間の魔王なんぞに仕えてるテメェに言われたくないなッ!」 「……人間の軍門に下ったのは生きるためだ。だが、お前のように魂までは売っちゃいねェ」 ジリジリと間合いを詰めながら、オレはハンバルと背後で暴れ回る魔物たちに向けて短く告げた。「お前ら、手を出すなよ」 「誰が手を出すものか。存分にやれ」 ハンバルは腕を組み、静かに闘技場の壁際へと退いた。 ドビーダスは奪い取った剣に、毒々しい魔力を込める。刃が紅蓮の炎を纏う『魔法剣』の構えだ。 本来、オレたちワーウルフやハイエナ人といった獣人種には、あんな強力な火属性の魔法など持ち合わせていねェ。「驚いたか、フサーム。俺はただ力をつけただけじゃねェんだよ! 見ろよ! この赤い毛並みをッ!」 「それがどうした」 「これは大聖師様の手によって上位種へと至りッ! 俺が『レッドジャッカル』という新たな獣人の魔物に進化した証明なのさッ!」 「……火属性の魔法剣を扱うなんて、随分とモダンなこった。それと、その無駄のない重心……誰に教わり、どこで学んだ」 魔法剣が赤熱するのを見たオレは、バッドエイプから奪った粗末な剣を平正眼に構えた。「オレの愛刀『ムーンリーパー』はサッドの野郎に預けてきちまったが……魂までハリボテになっちまった今のテメェを斬るのに、わざわざ名刀を使うまでもねェ。この拾ったナマクラで十分だ」 本来、獣人種がどれほど高みへと至ったとしても、生来の適性として使用できるのは野生の脚力のみだ。 レッドジャッカルだか何だか知らねェが、外法に手を染めたってことになる。「大聖師様に与えられた力だ。あとは力をつけまくれば俺は天下無双……いずれ魔王もベルタもブチ殺して、俺がこの世界の頂点に立つ!」 「そりゃ無理だ。その程度の付け焼き刃の力を持った奴なら、腐るほど見
「情けねェぞ……ドビー。誇り高きワーウルフ族が人間に飼い慣らされるなんてよ」 俺はその声に耳を疑った。 魔物の群れを割って現れたのはフサームだった。 そして、その後ろには見覚えのある巨体。トロルのハンバルも静かに控えていた。「……フサーム、それにハンバルまで。お前たち、いつの間に潜り込んでいたんだ」 俺の問いかけに、フサームは視線をドビーダスから外すことなく淡々とした口調で応えた。「ガルア、お前は地下牢に戻れ。そして、そのまま階段を上がり屋敷へ行け」「何を言っている! ここはどうするんだ。それに、この魔物の群れは一体……」「地下の牢獄に捕らわれていた連中だ。ハンバルが檻をこじ開けて解放してやったのさ」「ハンバルが解放しただと? だが、こいつらは怒りと憎しみで我を忘れているぞ」「お前たち二人だけで、この暴走した群れとドビーダスを相手にするつもりか!」「いいから行けと言っている。領主ゾルハン・バルザットの屋敷とこの賭博場は繋がっている」 フサームの声には、どこか深い悲しみと冷徹な決意が混ざり合っていた。「バルザットは魔王討伐隊という名目で冒険者を集め、ここでドビーのような『獣兵』に殺させて経験値として処理させていた。すべてはベルタという女妖魔の掌の上……行きな。お前には自分の仕事があるだろ」「しかし……」「あいつとカタをつけるのは俺の役目だ。人間には殺させはしない」 中央の貴賓席ではバルザットが椅子から転げ落ち、十本の指の指輪を虚しく煌めかせながら叫び続けている。「ドビーダス! 何をしている、さっさとその裏切り者どもを焼き殺せッ!!」 俺は魔剣アレイクを一振りしただけで訪れる、魂を削られるような猛烈な倦怠感。 それに喘ぎながらも、フサームとハンバルを見つめた。「……そうか。そういうことだったんだな」 ラナ
砂煙の舞う闘技場。 俺の剣先が、ドビーダスの喉元を捉えようとしたその刹那だった。 地響きと共に闘技場の巨大な鉄扉が内側から弾け飛び、絶叫が渦を巻いて砂地に溢れ出した。「なっ……!?」 俺の集中が、予期せぬ乱入者たちによって一瞬だけ削がれる。 魔剣アレイクが喉笛を裂くよりも早く、ドビーダスはその混乱の隙を突いて後方へと大きく跳躍した。 死神の鎌が届く一瞬手前で、奴は『幸運』にもその命を繋ぎ止めたのだ。 魔剣の一振りに魂を啜り取られた俺の体は、鉛のように重い。 膝をつきそうになるのを必死に堪え、俺は背後から迫る『異変』を視界に捉えた。「ウギャアアア――ッ!!」 耳を劈く断末魔。 闇カジノの従業員であろう黒服が背中から無骨な剣を突き立てられ、鮮血をぶちまけて膝をつく。「ケケケ……流石は闘技場ってところだな。武器がごまんとありやがるぜ」 通路から溢れ出したのはどこから現れたのか、解き放たれた魔物の軍勢だった。 地下の檻にいるであろうの魔物たちがここにいる?「き、貴様らどうやって……!」「同じ魔物なのに人間どもの味方をしやがって、ぶっ殺してやるぜ!!」『グオオオオオン!!』 地響きと共に、四頭のフレア・バッファローが闘技場へ躍り出た。 巨体が踏みしめるたびに砂地が爆ぜ、場内は一瞬にして逆襲に燃える魔物の群れに支配される。 観客席の上流階級どもは、自分たちが喰われる番だと悟り、無様な悲鳴を上げた。「ま、魔物がどうして……地下にいたはずじゃないの!」「に、逃げなきゃ! 出口はどこよ!!」 先ほどまで安全な高みの見物を決め込んでいた貴婦人たちが、今は見るに堪えない醜態を晒している。 豪華なドレスの裾を自ら踏み抜き、宝石をぶち撒けながら、我先にと出口へ殺到していた。「ヒャハハハ! 踊れ、臭い人間どもめ! |赤の火
迫り来る紅紫の毒炎が、視界のすべてを焼き尽くそうとしている。 死を覚悟したその瞬間――。 俺の全身を包む呪いの鎧『パープル・ミラージュ』が理の外側にある不吉な脈動を刻み始めたのだ。 ――ガギィィッ! キリキリキリッ!! それは金属の軋みを超えた、世界の『バグ』が発する悲鳴だ。 直撃するはずの『紅紫の毒炎鎖』が、俺の数センチ手前で目に見えない断層に衝突したかのように霧散していく。 いや、霧散したのではない。 鎧が放つ悍ましい紫光が、毒炎という『事象』そのものを喰らい無効化していた。「なっ……!? 俺の紅紫の毒炎鎖が消えただと!?」 驚愕に目を見開くドビーダスの隙を突き、俺の体は影のようにブレた。 魔剣アレイクの切っ先が、爆炎の残滓を切り裂いてドビーダスの喉元へ肉薄する。 だが、その決着の瞬間を闘技場を揺るがす巨大な地響きが遮った。*** 地下牢獄。 オレは苛立たしげに、煤鉄色の拳で鉄格子をコンコンと叩いた。「手枷と足枷を外したけどよ、コイツはどうするンだ」「簡単なことだ」「簡単? 牢の鍵もないのにどうやって開けるんだ」「見ておけ」 頑丈な鉄格子を抜けるには本来カギが必要だが、隣に立つハンバルが静かに掌を鉄に当てた。 足を肩幅より少し広く開き、腰を深く落とす。 こいつは、魔物らしい荒々しさとは無縁の洗練された『型』というやつだな。「むんッ!!」 ハンバルの野郎の鋭い気合と共に、鉄格子が飴細工のようにぐにゃりとひしゃげた。 トロルの馬鹿力でこじ開けたんじゃない。 浸透する衝撃が鉄の分子を組み替えたかのような、拳法の極意に近い技術だ。「ヒュ~~ッ! 相変わらず器用なもんだぜ」 オレは口を尖らせて感心してみせた。「どこでそんな器用なことを覚えたんだ」「覚えたというよりも、身につけていたというのが妥当だな」「身に







