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向こうから連絡してきた

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-08-31 21:19:13

『昨日、一条絢子って女から俺に連絡が来た』

 佳苗は、その文章を何度も読み返した。

 意味は分かる。

 けれど。

 理解したくなかった。

 絢子が。

 自分から悟を探して、連絡した。

「……どうして」

「佳苗?」

 雄吾の声がした。

 顔を上げる。

 リビングへ入ってきた雄吾が、佳苗の様子に気づいて足を止めた。

「どうした?」

「悟から……」

 佳苗はスマートフォンを差し出した。

「連絡が来ました」

 雄吾の表情が変わる。

 画面を読む。

『一条絢子って女、知ってるか?』

『榊原の幼なじみらしいな』

『昨日、向こうから俺に連絡してきた』

「……絢子から?」

「そう書いてあります」

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    『昨日、一条絢子って女から俺に連絡が来た』 佳苗は、その文章を何度も読み返した。 意味は分かる。 けれど。 理解したくなかった。 絢子が。 自分から悟を探して、連絡した。「……どうして」「佳苗?」 雄吾の声がした。 顔を上げる。 リビングへ入ってきた雄吾が、佳苗の様子に気づいて足を止めた。「どうした?」「悟から……」 佳苗はスマートフォンを差し出した。「連絡が来ました」 雄吾の表情が変わる。 画面を読む。『一条絢子って女、知ってるか?』『榊原の幼なじみらしいな』『昨日、向こうから俺に連絡してきた』「……絢子から?」「そう書いてあります」「何であいつが悟の連絡先を知ってるんだ」「分かりません」 佳苗の声が震えた。「私、一条さんに悟のことなんて話してません」「ああ」「お母様から、以前結婚していたことくらいは聞いていたかもしれません。でも……」 連絡先まで。 偶然知るはずがない。「佳苗」「はい」「悟に聞けるか?」 佳苗は迷った。 悟とは関わりたくない。 けれど。 これは確かめなければならないと思った。『一条さんから連絡が来たって本当?』 送信する。 すぐに既読がついた。『やっと返事したな』「……」 佳苗はその言葉を無視した。『何を話したの?』 今度の返事は長かった。『あの女が俺を調べて連絡してきた』

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    『今、佳苗さんがお付き合いしている榊原雄吾さんの幼なじみです』 悟は、その文章を何度も読み返した。 榊原雄吾。 佳苗が自分のもとを離れたあと、そばにいるようになった男。 しかも。『幼なじみ?』 悟が返す。『はい。子供の頃から、家族ぐるみで付き合ってきました』「……」 悟の眉が寄った。 なぜそんな女が、自分に連絡してくる。『それで、佳苗の何を聞きたいんですか』 返事はすぐには来なかった。 数分後。『離婚された理由を、もし差し支えなければ教えていただけませんか』「は?」 悟は思わず声を漏らした。 ずいぶん踏み込んだことを聞いてくる。『何であんたにそんなこと話さないといけないんですか』『そうですよね。申し訳ありません』 あっさり引いた。『忘れてください』 それだけ。 悟は画面を睨んだ。「……何なんだよ」 普通なら、そこで終わる。 けれど。 妙に気になった。『あんた、榊原とどういう関係なんですか』 送る。『先ほどお伝えした通り、幼なじみです』『それだけ?』 今度は少し間があった。『……それだけです』 悟は鼻で笑った。「嘘つけ」 わざわざ佳苗の元夫を調べて。 連絡先まで手に入れて。 離婚理由を聞いてくる。 ただの幼なじみがすることではない。『榊原のこと好きなんですか』 送信。 長い間、既読だけがついていた。 やがて。『昔から、大切な人です』 それだけが返ってきた。「

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   過去にいる男

     藤倉悟。 その名前を調べ始めたのは、ほんの出来心だった。 絢子は佳苗から、以前結婚していたことだけは聞いている。 詳しい事情までは知らない。 けれど。 雄吾が佳苗を守ろうとする姿を見るたび、気になっていた。 佳苗は、雄吾と出会う前にどんな人生を送っていたのだろう。 どんな男と結婚して。 なぜ、その結婚は終わったのか。「……別に、何かするわけじゃないもの」 絢子は自分に言い聞かせた。 ただ知りたいだけ。 そう思って、知人にそれとなく調べてもらった。     ◇ 数日後。 返ってきた答えは、予想以上のものだった。『藤倉悟って人、今はもう前の会社にいないよ』「え?」『懲戒解雇されてる』 絢子は目を見開いた。『社内の金を不正に処理してたのが監査でバレたみたい。損害賠償も請求されたって』「……そんな人だったの?」『離婚したのも、その少し前みたいだね』 送られてきた情報を読みながら、絢子は眉を寄せた。 佳苗の元夫。 会社を懲戒解雇され。 金銭的にも追い詰められている男。(雄吾さんとは、全然違う) なぜ佳苗がそんな男と結婚したのか。 ますます分からなくなった。 けれど。『あと、これは確実じゃないけど』 続けてメッセージが届く。『元奥さんにかなり執着してたらしいよ』「……執着?」『離婚したあとも連絡してたみたい』 絢子の指が止まる。『復縁したかったのか、金に困って頼ろうとしてたのかまでは知らないけど』「……」 佳苗は。 今でも、この男から連絡を受けているのだろうか。     ◇ 一方。 悟は狭い部屋で、一人スマートフォンを眺めていた。 懲戒解雇されてから。 生活は一変した。 以前のような収入はない。 損害賠償の問題も残っている。 再就職も思うように進まない。 面接で前職を辞めた理由を聞かれるたび、言葉に詰まった。「……くそ」 テーブルの上には、コンビニで買った弁当の空き容器。 洗濯物は溜まっている。 部屋も散らかっていた。 こんなとき。 どうしても思い出す。 佳苗なら。 食事を用意していた。 洗濯もしていた。 金の管理もしていた。 自分が仕事だけしていれば生活が回るように、何も言わず整えていた。 あの頃は。 それが当たり前だと思っていた。「……佳苗」 悟

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    「私だって、雄吾さんが好きなんです」 佳苗の声を、絢子は廊下で聞いていた。「だから、一条さんが傷つかないようにするために、私と雄吾さんの関係まで小さくすることはできません」 美佐子は何も答えない。 絢子も動かなかった。 やがて、美佐子が小さく息を吐く。「……そんなつもりじゃなかったのよ」「はい」「私はただ、絢子ちゃんも大切で」「分かっています」「小さい頃から知ってるの。娘みたいなものなのよ」「それも分かっています」 佳苗は静かだった。「だから、お母様と一条さんが家族のように付き合うことを、私はやめてほしいなんて思っていません」「……」「でも、一条さんが雄吾さんを好きなことと、それは別です」「そうね」「一条さんが雄吾さんのことで傷つくたびに、私が何かを譲らなきゃいけないなら……」 佳苗は一度言葉を切った。「私も苦しいです」「……ごめんなさい」 今度の謝罪は、これまでとは少し違って聞こえた。「私、絢子ちゃんが泣いているのを見たら、つい……」「はい」「あなたが何かしたわけでもないのにね」 佳苗は目を見開いた。「お母様……」「今日だってそうだわ。あなたは何も言っていないのに」 美佐子が苦笑する。「私が勝手に先回りして、お願いしてしまったのね」「……はい」「ごめんなさい」 佳苗の胸から、少しだけ重いものが消えた。 ようやく。 分かってもらえた気がした。「ありがとうございます」 そのときだった。「……ごめんなさい」 背後から声がした。 二人が振り返る。「絢子ちゃん?」 絢子が立っていた。 目に涙を浮かべて。

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     数日後。 美佐子から佳苗へ、一通のメッセージが届いた。『来月、主人の誕生日なの。佳苗さんも一緒にお祝いしてくれない?』 佳苗は少しだけ緊張した。 美佐子との関係は、以前よりぎくしゃくしている。 それでも、雄吾の父親の誕生日なら断る理由はない。『はい。ぜひ』 そう返信した。     ◇「父さんの誕生日?」「はい。お母様から誘っていただきました」「俺にも来てる」 雄吾がスマートフォンを見る。「行くか?」「もちろんです」「そうか」 佳苗は少し笑った。「何を持っていけばいいでしょう」「何もいらないだろ」「そういうわけにはいきません」「じゃあ酒」「お酒がお好きなんですか?」「ああ」「じゃあ、一緒に選んでください」「分かった」 久しぶりに。 何の不安もない話ができた。 佳苗は少し嬉しくなった。     ◇ 誕生日当日。 雄吾と佳苗が美佐子の家へ着くと、玄関には見覚えのある靴があった。 佳苗の足が止まる。「……もしかして」 雄吾も気づいたらしい。 眉を寄せた。「絢子か」 リビングへ入る。「あ、来たわね」 美佐子が笑顔で迎えた。 そしてその隣には。「こんにちは」 絢子が立っていた。「……こんにちは」「絢子ちゃんも呼んだの」 美佐子は当然のように言った。「主人も小さい頃から知っているし、毎年お祝いしてくれてるから」「そうなんですね」 佳苗は笑顔を作った。 美佐子と絢子

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    「ただいま」 夜。 帰宅した雄吾の声を聞いて、佳苗はリビングから顔を上げた。「おかえりなさい」「……どうした?」「え?」「また何かあっただろ」 すぐに気づかれてしまう。 佳苗は少し迷ったが、今度は隠さなかった。「今日、お母様と電話でお話ししました」「母と?」「はい」「何を言われた?」「結婚のことです」 雄吾の眉が寄る。「また?」「一条さんと、私たちの結婚について話したそうです」「……絢子と?」「はい」 佳苗は、美佐子から聞いたことをそのまま話した。 絢子が、雄吾は大切なことほど慎重だと言ったこと。 佳苗が前の結婚で傷ついているから、急がないようにしているのではないかと話したこと。「それで私……」 佳苗は少し俯いた。「私たちの結婚のことは、一条さんと話さないでほしいって言いました」「ああ」「お母様、少し嫌そうでした」「だから?」「……」「佳苗」 雄吾は佳苗の向かいに座った。「それの何が悪い?」「悪くないって思いたいです」「思いたいじゃなくて、悪くない」「でも、お母様は一条さんと昔から何でも話していたみたいだから」「俺たちのことまで話す必要はない」「……はい」「それに」 雄吾の声が低くなる。「絢子が何で俺たちの結婚について意見してるんだ」「意見というほどでは……」「同じだ」 雄吾は明らかに不快そうだった。「俺が結婚をどう考え

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   監視する妹

     ホテルへ入る佳苗と雄吾。 暗い夜道で撮られたはずなのに、驚くほど鮮明だった。「……どうして」 佳苗の指先が震える。 まるで誰かに見張られていたみたいだった。『ねぇお姉ちゃん』『その人、誰?』『もしかして浮気?』 次々届くメッセージ。 佳苗は顔を青ざめさせた。 浮気。 その言葉に胸が痛む。 裏切っていたのは悟たちの方なのに、なぜ自分が責められなければいけないのだろう。「見せろ」 雄吾が静かにスマホを受け取る。 メッセージ画面を見た瞬間、その目が冷えた。「……なるほど」「先輩」「撮られていたな」 低い声。 感情を押し殺したような響き。「どうしよう……」

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   今夜だけでも、俺を頼れ

    「俺は昔から、お前しか欲しくない」 低い声が耳元で響く。 佳苗は息を呑んだ。 車内の空気が熱い。 逃げ場がない。 雄吾の視線は真っ直ぐで、冗談の気配なんて微塵もなかった。「……先輩」 喉が震える。 理解が追いつかない。 昔から? ずっと? そんなはずない。 自分は特別な人間じゃない。 妹みたいに愛嬌があるわけでも、美人なわけでもない。 ただ都合よく利用されるだけの女だった。「信じられないか」 雄吾が静かに言う。 佳苗は答えられなかった。 すると雄吾は小さく息を吐き、身体を離す。「まあいい」「え……」「今すぐ答えを求める気はない」 その言葉に、佳苗は

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   監視されていた女

     もう二度と、お前をあいつらのところへ戻したりしない。 その言葉が、佳苗の胸に重く落ちる。「……どうして」 気づけば口にしていた。 雄吾が視線を向ける。「どうして、そこまでしてくれるんですか」 本当に分からなかった。 大学時代、少し関わりがあっただけ。 卒業後は一度も会っていない。 それなのに、この男は突然現れて、自分を助けると言う。 しかも、まるで最初から全部知っていたみたいに。「昔世話になった」 雄吾は短く答えた。「レポート、覚えてるか」 佳苗は目を瞬く。 大学二年の頃。 雄吾が長期入院していた時期があった。 単位が危ないと聞いて、佳苗は講義ノートをまと

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   逃がすつもりはない

    「やっと捕まえた」 耳元で囁かれた低い声に、佳苗の心臓が大きく跳ねた。 捕まえた。 その言葉は、優しいのにどこか危険だった。「榊原、先輩……?」 佳苗が戸惑う中、雄吾は佳苗の手首を掴んだまま、ゆっくり顔を上げる。 その視線の先には、こちらへ歩いてくる悟がいた。「佳苗!」 苛立った声。 悟は佳苗を見るなり、露骨に顔をしかめた。「何やってんだよ」 だが次の瞬間、雄吾の姿に気づき、動きが止まる。「……誰?」 警戒した声音。 雄吾は答えない。 ただ静かに佳苗の前へ立った。 庇うように。 その背中の広さに、佳苗は息を呑む。「佳苗、こっち来い」 悟が手を伸ばす。 

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