Alle Kapitel von 「君は俺の花だ」妹に婚約者を奪われた私を、冷徹華道家が溺愛して離してくれません: Kapitel 21 – Kapitel 30

107 Kapitel

第21話 気になる人

 翌朝、澪が『アンジェリケ』へ出勤すると、店の空気がどこかおかしかった。 開店準備をしている後輩たちが、ちらちらとこちらを見ている。 目が合う。 そうかと思えばすぐに逸らされる。 しかしまた見られる。「……」 嫌な予感がした。とても嫌な予感がした。そしてその予感は見事に的中する。「澪先輩!」 開店準備が終わった途端、足早に持ち場へ行こうとした澪の元へ後輩たちが一斉に集まってきた。「昨日の人、誰なんですか!?」 やっぱり来た。 澪は思わず額を押さえた。「昨日の人って……」「神宮寺綾人です!」「華道界のプリンス!」「テレビにも出てますよね!?」 矢継ぎ早に飛んでくる言葉に澪はたじろぐ。「ち、違うの」「何がですか?」「だから、その……」 澪は言葉に詰まる。 何から説明すればいいのだろう。「彼氏じゃないんですよね?」「違います!」 即答だった。 後輩たちが顔を見合わせる。「じゃあ婚約者?」「どうして!? 違います!」「あ、じゃあ、片想いされてる?」「ち、違います!」「本当に?」「ほ、本当!」 どんどん質問がおかしくなっていく。澪は完全に押されていた。「でも迎えに来てましたよね?」「そ、それは……」 そこだけは否定できない。「しかも澪先輩だけ見てましたよ?」「え?」 その言葉に澪が瞬きをする。「店の中、他にもたくさん人がいたのに」「そうそう」「澪先輩しか見てませんでした」 言われてみればそうだったかも
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第22話 知っている人たち

 仕事を終えた澪が神宮寺家へ戻ると、屋敷の中はいつも通り賑やかだった。「お帰りなさいませ、澪さま」 玄関で出迎えてくれた佐伯へ頭を下げる。「ただいま」 そう返す言葉も、少しずつ自然になってきた気がする。 拓真との関係、家族との関係もあるし、いつまでもここにいるわけにはいかないけれど、神宮寺家は澪にとって居心地のいい場所に変わっていた。 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、不意に前方から声が掛かった。「澪さま、お疲れさまです」 相良だった。「あ、相良さん」 今日も隙のないスーツ姿だ。手には書類の束を抱えている。綾人の仕事関係のものだろうか。「お仕事帰りですか?」「はい」 澪は頷いた。「相良さんもお忙しそうですね」「綾人さまのおかげで」 にこやかな笑顔だった。 しかし、どこか含みがある。「それって……大変という意味ですか?」「ご想像にお任せします」 相良は微笑んだまま答えた。どこか茶目っ気のある言い方に、澪は思わず小さく笑ってしまう。 相良は穏やかな人だ。けれど神宮寺家の中では、秘書という立場だからだろうか、使用人たちと同じように戯れていても、どこか一目置かれているような雰囲気がある。 その凛とした佇まいから、綾人が信頼している理由も何となく分かる気がした。     ◇「そういえば……」 ふと、澪は胸元の白い花のお守りへ触れた。あの日以来、ずっと気になっている。「あの……相良さん」「はい」「このお守りのこと、何か知っていますか?」 相良の表情が一瞬だけ止まった。本当に、一瞬だけ。けれど澪は見逃さなかった。「……どうしてそう思われたのですか?」 そう首を傾げる相良
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第23話 桜のお願い

 夕食の席は今日も賑やかだった。佐伯やひまわりたちが代わる代わる話しかけてくる。 神宮寺家へ来たばかりの頃は圧倒されていた澪だったが、数日過ごしているうちに、その空気にも少しずつ慣れてきていた。「澪さま、このお魚お好きですか?」 ひまわりが身を乗り出してくる。「はい。美味しいです」「ですよね!」 なぜかひまわりが誇らしげだった。「……なぜひまわりが自慢気なんですか。作ったのは料理長です」 芹香が冷静に突っ込む。「それはそうですけど!」 ひまわりと芹香の小さな小競り合いに、テーブルに小さな笑いが広がる。 そんな中、澪はふと視線を感じて、顔をそちらに向けた。 すると少し離れた場所の壁際に立っていた桜と目が合った。「……っ!」 あからさまに桜は顔を伏せる。 なぜか耳まで真っ赤だ。澪は思わず首を傾げた。     ◇ 夕食後、自室へ戻ろうと廊下を歩いていると、小さな声が聞こえた。「あ、あの……」 振り返れば、そこには桜が立っていた。「桜さん?」 桜は何か言いたそうに口を開いては閉じる。 そしてまた開いては閉じる。 そのまま数秒が過ぎた。「……大丈夫?」 澪が心配になって顔を覗き込むように声を掛ける。すると桜は意を決したように「あの!」と声をひっくり返しながら今度こそ口を開いた。「きょ、今日のお洋服……っ」「え?」「すごく、お似合いです……!」 言い切った瞬間。桜は耳どころか首まで真っ赤になった。 澪はぱちぱちと瞬きをする。「ありがとう」 そう微笑むと、桜の顔はさらに赤くなった。「そ、それ
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第24話 思い通りにならない

 白石家の空気は重かった。 リビングのソファに座る美羽は、スマートフォンを握りしめたまま親指の爪を噛む。「……なんで」 小さく呟く。 画面には何度も同じ名前が表示されていた。 ――白石澪。 送ったメッセージは既読にならない。電話も繋がらない。 どこで何をしているのか分からない。 それが美羽を苛立たせていた。「美羽?」 母が心配そうに声を掛ける。「どうしたの?」「ううん、なんでもないの」 美羽はいつもの可愛らしい笑顔を見せた。 けれど心の中は全く穏やかではなかった。――おかしい。 本当ならもっと上手くいくはずだった。 澪は傷付いて。そして、家に戻ってきて、縋りつくように泣くと思っていた。 それでも結局、澪は自分たちのために働き続ける。 そう思っていた。 それなのに、あの人のせいで全部狂った。『だから、俺が守る』 あの男――神宮寺綾人。 思い出しただけで美羽は眉を寄せる。 澪を連れて行った男。自分たちへ向けた冷たい視線。まるで全部見透かしているみたいな目だった。「気に入らない……」 ぽつりと零れる。澪に、あんな風に手を差し伸べる男がいたなんて知らなかった。「え?」「なんでもない」 美羽は慌てて笑顔を作った。母は気付いていない。 昔からそうだ。 美羽が泣けば信じる。 美羽が笑えば安心する。 この母親は、それだけだった。     ◇ その日の夜、拓真が白石家へやって来た。「拓真さん!」 母は相変わらず歓迎している。 けれど拓真の表情は暗かった。「澪から連絡は?」 開口一番、それだった。
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第25話 初めてのお出かけ

 休日の朝。澪は少し緊張しながら玄関へ向かっていた。 今日は桜と買い物へ行く約束をしている。 神宮寺家へ来てから初めての外出だった。「お、おはようございます、澪さま!」 玄関には既に桜が立っていた。いつもの使用人服ではなく、淡いベージュのワンピースを着ている。新鮮だった。「桜さん、その服とても似合ってる」「えっ」 桜が固まる。「そ、そんな……!」 みるみる桜の顔は赤くなった。耳まで真っ赤である。澪はその姿が微笑ましくて、思わず笑ってしまった。     ◇ 向かったのは駅前にあるデパートだった。 休日ということもあり、人が多い。「すごい人ですね」「は、はい……」 桜は少し緊張しているようだった。けれど澪と並んで歩く足取りはどこか嬉しそうだ。 しばらく店を見て回ったあと。「澪さま」 桜が遠慮がちに声を掛けた。「こちらのお店、見ませんか?」 指差した先は洋服店だった。「ええ。入ってみましょうか」 桜の誘いに澪はふたつ返事で頷いて、二人は店内へと足を踏み入れた。     ◇「可愛い……」 澪は思わず呟いた。 並ぶ服はどれも素敵だった。 けれど、値札を見た瞬間、澪の笑顔は一瞬にして固まる。「た、高い……」 思わず本音が漏れた。 ワンピース一着で、自分が普段買う服の何倍もする。桁が間違っているんじゃないかと何度も数字を確認した。 そんな澪の様子を見て、桜がきょとんとした。「そうでしょうか?」「そ、『そうでしょうか』!?」 澪は思わず聞き返した。 感覚が違う。明らかに違う。「でも、と
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第26話 返してきてください

 翌朝、目を覚ました澪は、部屋の一角に置かれた大きな箱を見て固まった。「……え?」 一つではない。二つでもない。三つでもない。 部屋の一角が埋まるほどの箱が積み上がっていた。しかも全て高級ブランドのロゴ入りである。「な、なにこれ……!?」 澪は慌ててベッドから降りた。恐る恐る一つ目の箱を開ける。「……き、昨日の服」 淡い水色のワンピースだった。昨日、桜に勧められて試着したものの、買わなかったはずの服。 嫌な予感がしながら、次の箱も開ける。「これも……」 昨日手に取っただけのカーディガン。 その次。 バッグ。 靴。 アクセサリー。 そしてまた服。「なんでぇぇぇぇ!?」 澪の悲鳴が神宮寺家に響いた。     ◇「綾人さまですね」 朝食の席で、困惑気味に部屋の状況を伝えた澪に、桜が当然のように言った。「あ、綾人さん!?」 澪は思わず立ち上がる。その勢いで揺れた椅子を後ろに控えていた芹香が受け止めた。「か、返します!」「無理です」 桜は即答した。「どうして!?」「綾人さまだからです」 理由になっていない。全く理由になっていないけれど、桜の表情も口調もとても真面目だった。芹香も静かに頷いている。「返却は難しいかと」 そこに佐伯まで参加してきた。「難しいって、どうして?」「綾人さまが受け取られません」 静かに首を横に振る佐伯に、澪は頭を抱えた。     ◇ 結局、仕事へ行く前に綾人を捕まえることにした。「綾人さん!」 書斎へ向かおうとしていた綾人が足を止める。「どう
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第27話 反省会

 綾人が仕事へ向かってから十分後。澪の部屋には、いつもの使用人たちが集まっていた。「さて……」 佐伯が静かに口を開く。「反省会を始めましょうか」「賛成です!」 ひまわりが真っ先に手を挙げた。「何の反省会ですか……?」 澪は首を傾げる。 しかし誰も澪の質問には答えない。「まずはこちらをご覧ください」 ひまわりがスマートフォンを取り出した。「昨日の、お買い物から帰って来た澪さまを迎える綾人さまです」「撮ったの!?」 澪は思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。「はい」 ひまわりはニコニコとした笑顔で大きく頷く。 スマートフォンのディスプレイには、玄関で澪を見つめる綾人の横顔が映っている。「嬉しそうですね」 芹香が頷く。「嬉しそうです」 桜も小さく頷いた。「嬉しそうですねぇ」 佐伯まで参加している。「ちょ、ちょっと待って……っ」 澪だけが置いていかれていた。「それで、今日の反省点ですが」 しかし、またそんな澪を気に留める様子もなく、佐伯が続ける。「昨日はやはり、綾人さまもお買い物へお連れするべきでした」「ですよね」 ひまわりが大きく頷く。「そうですね」 芹香も澪の湯飲みにお茶を継ぎ足しながら頷いた。「私も澪さまと二人で出掛けられて嬉しかったですが……反省です」 桜まで眉を下げている。 全員が真面目な顔だ。澪はただ頭を抱えた。「あ……ですが、」 桜が小さく呟くように続けた。「今日のやり取りは素敵でした」「やり取り?」
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第28話 知らない顔

 日が暮れ始めたころ。フラワーショップ『アンジェリケ』の向かい側。拓真は車の中から店の入口を見つめていた。――自分は偶然近くまで来ただけ。 そう頭の中で言い訳を組み立てていく。 けれど、本当は違う。澪に会うために来ている。 でも普通に店を尋ねてもいつも澪には会えない。 それどころか、他の店員たちに冷たい目で追い払われてばかりだ。決して澪には会わせないと言われているような……。「……何やってるんだ、俺」 小さく呟く。返事をする者はいない。エンジンを切った車内は静かだった。 頭の中はぐちゃぐちゃだ。 自分から望んで美羽に手を出した。澪よりも美羽に惹かれたのも本当だった。 それなのに――……どうしてこんなにも後悔ばかりが募るのだろう。     ◇ しばらくして、店内の照明が少しずつ落ち始める。 閉店時間らしい。 店員たちが片付けをしている姿がガラス越しに見えた。 そして、見慣れた姿が店の奥から現れる。「……澪」 胸が強く鳴った。花を抱えて歩く姿。柔らかな横顔。 何度も見てきたはずなのに、ひどく懐かしく感じる。 澪は後輩たちと何か話している。 そして、笑った。自然な笑顔だった。「……」 拓真は言葉を失う。澪は、あんな笑顔で笑う子だっただろうか。 思い出せない。 思い出せるのは、いつも困ったように笑う顔ばかりだ。     ◇ 店員たちが次々と帰宅していく。 澪も店を出てきて、肩にバッグを掛け、ゆっくりと歩き出す。 その姿を見て、拓真は反射的にドアへ手を伸ばした。 今なら声を掛けられる。 今なら――。 だが、その瞬間だった。一台の車が澪の傍に静かに
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第29話 後悔

 綾人の車が見えなくなってからも、拓真はしばらくその場から動けなかった。 胸の奥がざわつく。苦しい。はっきりとした焦りが募る。 それなのに、その感情に名前を付けることができない。「……馬鹿らしい」 そう呟き、車へ乗り込んだ。それは澪たちに吐かれた言葉にも思えたし、自分自身にも言っているようだった。 ハンドルを握る手に力が入る。エンジンを掛けてアクセルを踏み込んでも、気持ちは少しも晴れなかった。     ◇「拓真さん!」 自宅マンションへ着くと、美羽が嬉しそうに出迎えた。 ぱっと花が咲くような笑顔。以前渡した合鍵で入っていたようだ。少し前までは、「お姉ちゃんにバレないようにしないとね」なんて言っていたのに、この数日は遠慮なく拓真の家に入り浸っている。 前なら、それも可愛いと思えた。 守ってあげたいと思った。 けれど今は――。「拓真さぁん? どうしたんですか?」 不満そうに頬を膨らませて首を傾げる美羽に、拓真は曖昧に首を振った。「いや……なんでもない」「お仕事、疲れたんですか? お茶淹れますね」 そう言ってキッチンへ向かう後ろ姿を見ながら、拓真はソファへ腰を下ろした。 なぜだろう。昔なら、この光景だけで満たされたはずなのに。     ◇「はい、どうぞ」 美羽が淹れてくれた紅茶を「ありがとう」と笑顔を作って受け取った。 美羽がそんな拓真を見て満足そうに笑う。その笑顔は可愛い けれど、その瞬間、不意に別の光景が頭を過った。『お仕事お疲れさま』 疲れて帰った日に差し出されたコーヒー。『今日は少し苦めにしてみました』 照れたように笑う澪。『最近お疲れみたいだったから』 自分の好みを覚えていてくれたこと。 残業続きだった週に、栄養バランスを考えて作
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第30話 返してあげる

 翌朝、美羽は隣から気配が消えたことに気付いて目を覚ました。「……拓真さん?」 ベッドの上で体を起こす。寝室には誰もいない。リビングから微かに物音が聞こえた。 寝癖を指で整えながら向かうと、ソファに腰掛けた拓真の姿が見える。 スマートフォンを見つめていた。 その横顔は、どこか苦しそうだった。「拓真さん、おはよう」 美羽が、ソファの後ろからそっと拓真の首元に腕を回して、声を掛ける。 拓真はびくりと肩を揺らした。「……ああ、おはよう」 反応が遅い。美羽は違和感を覚え、目を細めた。     ◇「なに見てたんですか?」 自然な調子で、拓真の頬に自分の頬をくっつける。「いや、別に」 拓真は慌てたようにスマートフォンの画面を伏せて、テーブルの上に置いた。 その仕草が余計に怪しい。 美羽は笑顔を浮かべたまま視線を落とす。 一瞬だけ見えた画面。 そこに表示されていた名前を、美羽は見逃さなかった。『澪』 胸の奥がざらりとした。けれど表情は決して崩さない。「そうですかぁ」 可愛らしく首を傾げる。拓真の喉が小さく鳴った。 その態度だけで十分だった。     ◇ 拓真が仕事へ出掛けたあと。美羽は一人、ソファへ座り込んだ。「……へぇ」 小さく呟く。 ゆるく巻いた毛先を指先に絡める。 そして昨夜から感じていた違和感の正体を整理した。 最近の拓真はおかしい。 上の空なことが増えた。 話を聞いていないこともある。 自分を見ているようで見ていない。 そして今朝、あれで確信した。 澪とのトーク画面。「……
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