深夜一時を回っても、凜からの定時連絡は届かなかった。 電波の不調か、報告を後回しにできるほどの収穫があっただけではないか。俺は一度、そう思い込もうとした。 だが二時を過ぎ、三時を過ぎても、凜のスマートフォンは呼び出し音を虚しく響かせるだけで、誰も出ることはなかった。 胸の奥で何かが軋む音を立てる。 警備部への緊急招集をかけたのは、まだ空が白む前だった。凜自身が起動させていたはずの発信機の信号は、京都支社の旧社屋付近で途絶えたまま動かない。俺自身が現場へ向かうと告げた時、警備部長が珍しく血相を変えて止めに入った。「せめて護衛を——」 その声を遮り、俺は車に乗り込んだ。 旧社屋の裏手、崩れかけた駐車場の隅に、凜の車は乗り捨てられていた。運転席のドアは半開きのまま、キーは差しっぱなしになっている。フロントガラスには蜘蛛の巣状のひびが走り、地面には引きずられたような擦過痕が二本、建物の裏口へ向かって伸びていた。 シートの上に落ちていた片方だけのイヤリングと、爪先の割れたヒールを拾い上げた瞬間、俺の中で何かが決定的に切れる音がした。 執務室に戻った俺は机上の資料を一気に薙ぎ払った。積み上げられた書類が宙を舞い、ガラス製のペーパーウェイトが壁に叩きつけられて砕け散る。モニターを蹴り倒し、椅子を投げつけた音が静まり返ったフロアに響き渡った。 これまで黒川や絵里香に向けてきた怒りは、常に制御された刃だった。相手の急所を見極め、退路を断ち、確実に仕留めるための計算づくの冷たい怒りだ。だが今、腹の底から突き上げてくるものは、それとは根本から違っていた。理性の手綱を振り切って暴れ出す、剥き出しの激情そのものだった。 呼びつけた重役たちが顔を揃える会議室で、俺は円卓を拳で殴りつけた。硬い木材に亀裂が走る。「凜の身に何かあれば、この場にいるお前たち重役全員を、一条の看板もろとも道連れにしてやる。今すぐ京都中の防犯カメラを洗い直せ」 抑えたつもりの声に、部屋の空気を凍りつかせるほどの圧が纏わりついていたのだろう。並んだ重役の何人かが椅子を鳴らして身を引いた。「し、しかし会長、評議会の承認なしに全社的な捜索網を動かすとなれば、規定上——」 言い終わらぬうちに、俺は目の前の水差しを掴み、壁へ叩きつけていた。飛び散ったガラスの破片に、発言した重役が言葉を失って口を噤
続きを読む