「……紅さん?ちょっと聞いてるの?」腕をゆすられ、ハッとわれに返る紅。今日は神楽は仕事で、自分だけの休日。専任クラークなのでそういう休日は珍しいのだが、突然やってきた神楽の母親に連れ出された。ここしばらく、先日聞いた亮子の話が頭にこびりついて離れずにいた。神楽に話そうかと思ったが、相変わらず激務の彼に話す時間は見つからず、迎えた休日。今日は従兄弟の片桐光世に連絡してみようと思っていたのだが。そんな休日の朝、突然やって来た神楽の母親。……勝手に鍵を開けて入ってくるのは以前と同じだ。「はい、これ返しに来たわ」おはようもなく、たった今開けるのに使った神楽邸の鍵を差し出される。「……いいんですか?」「いいわよ。恋人ができたら返そうと思ってたんだから」「そういえはこれ、神楽さんが契約結婚している間も持ってたんですね……」自分の時もそうだが、その前の2人の時も。……神楽は合鍵の存在を知っているのか。それとも知ってて忘れているのか。挨拶なく始まる会話は、朝からディープだ。「神楽が家を出て、長い間交流はなかったから。でも今回は鳳凰総合病院の娘との結婚があったから、迷わず使わせててもらっただけよ。……ほら、行くわよ」「……は」まだパジャマ姿で家事の途中の紅に、義母は早く着替えるよう追い立て、その間に残りの家事を済ませてしまった。「え……すごいですね」早いだけではない美しい家事に脱帽する紅。その手を引き、義母はなぜか外へと彼女を連れ出した。「ちょっと待ってなさい。今うちと契約してるタクシーを呼ぶから」「え、今からですか?だったら中で座って待ってればいいのに。意外と段取り悪いですね?」「あなた……私みたいに毒舌ね?」まぁ見てなさい、という義母。どこかに電話をかけ、無理難題をふっかけた。「二階堂です。長男の自宅前。2分で来なさい」広い通りから入り組んだ道を入ったところにある神楽邸……2分で到着はまず無理だ。ところが……明らかにスピード違反の黒塗りのタクシーが、家の前に到着したのは5秒前。ドライバーが慌てて運転席から出てきて、2人を後部座席に乗せる。金持ちのわがままにつき合わされて気の毒に。「……それで、どこへ行くんですか?」「決まってるじゃない。式場の下見よ」さらわれるように連れ出された紅は、義母に手を引かれ、都内のラグジュアリー
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