공유

幽世の狩人~不死の少女と妖魔狩りの少年~
幽世の狩人~不死の少女と妖魔狩りの少年~
작가: 千王石ハクト

#1 瑠璃色の瞳

last update 게시일: 2026-08-18 20:00:23

「俺とお前なら、最強になれる」

春の風が木々を揺らす中、弟は兄の言葉を聞いていた。紅玉のような瞳で、兄の銀朱の瞳が向かう先を見る。どこまでも青い空が、葉の隙間から覗いている。

「師匠だって超えられる。妖魔だって龍だって狩れる、最強の狩人に、だ。だろ、春香はるか

春香と呼ばれた弟は、まだそう大きな肉体をしていない。まだ数えで十一なのだ。

「だが、兄上。大陸に行くんだろう? 武者修行だとか……」

岩の家に並んで腰かける二人。兄の銀髪と、弟の黒髪。

「四年もすれば帰ってくるって。そんときゃ手紙を送る。港で出迎えてくれよ」

兄の名は、鷹眼たかめ。その名に違わぬ鋭い瞳が、再び弟と見える時。二人の夢は、終わる。

鶏の朝鳴きが屋敷に響いた。薄明の空の下で、男たちが動き出す。庭の井戸の周りに集えば、褌姿の彼らは、

「若様、おはようございます!」

と頭を下げて叫んだ。

「ああ、おはよう」

若様。その名を雷業らいごう春香という。彼もまた、褌だけだ。男たちにも負けず劣らず、筋肉質な五尺八寸の体を明るくなり始めた空の下に晒している。肉体から滴り落ちる水はそのままに、縁側へと向かう。

「しかし、若様は早起きでいらっしゃいますな。流石、雷業家の跡取りというだけのことはある」

「お世辞はいい。水浴びを済ませろよ」

総髪の春香は縁側に置かれた手拭いを取り、体を拭き始めた。桃の花が散って、板の上に落ちる。

すっかり水滴を拭った彼は、足の裏を拭いてから縁側に上がる。座敷に入ると、老婆が待っていた。

「朝餉の用意が出来ておりますよ」

「ありがとう。腰の様子はどうだ?」

「ご当主の手配してくださった薬がよく効いております。ご心配なさらず」

腰の曲がった老婆に連れられ、春香は奥座敷へ。既に配膳も終わり、コの字に膳が並んでいた。春香は、上座の斜め前に着く。

「父上、おはようございます」

「うむ」

父、春成はるなり。息子と同じ、紅玉のような瞳と夜の色をした黒髪だ。が、両頬には鱗めいたものが浮かんでいる。そこから首を這い、胸元にまで伸びる。ただの紋様ではなく、死期の近いことを告げる、狩人にとっての砂時計だ。

「兄様、森の様子はいかがでしたか?」

父の鱗が、また増えていることに顔を背けるしかなかった春香は、向かいにいる妹の夏目にそう問われた。琥珀色の目と、銀色の髪は隣の母によく似ている。

「下らん妖魔と会った。一撃で殺せる、大したことのないやつだ」

今日の献立は、麦飯に、蕗の薹の味噌汁。あとは魚の干物と漬物だ。

「いただきます」

合掌して、春香は箸を執った。

「今日、件の留学生が来る」

春成が、ずっしりとした声で言った。

「歴史学者を目指す少女、でしたか」

春香の確認に、父はそっと頷く。

「身の回りの世話はさせるが、春香、お前が近くにいろ」

「俺が、ですか」

父の真っ赤な瞳が、ちらりと春香の体に向けられる。

「お前も今年で十五だ。女を知るには、十分な頃合いだろう」

「しかし、俺は……」

「二年前のことか?」

その声音がいつも以上に質量を持っていて、春香はそれ以上の言葉を発せられなかった。

「いつまでも引きずるな。我々は狩人。迷えば、死ぬぞ」

「……はい」

銀髪の母に、春香は助けを求めるような視線を送る。だが、彼女は何も言わずに食事をしていた。

「それと、鷹眼より手紙が届いている」

鷹眼、と兄の名前が出た時、春香の表情は花が咲いたように明るくなった。

「南の港に、あと一月二月もした頃に戻るとのことだ。会いに行ってもよかろう。世界が如何に広いかを知るに、いい機会だからな」

それから食器の擦れる音ばかりが響いた。だが、春香の顔には確かな高揚があった。

(兄上に会える)

そう思いながら、麦飯を掻き込む。

(また、一緒に稽古ができる!)

自然と、箸も速く動く。大陸から渡ってきた時計は、十五分の時を刻んだ。

「留学生の出迎えは、春香、お前が行け。なるたけ早く、な」

使用人が膳を片付ける中、春成が指示を下した。

「では、家来を幾人か連れて行きたいのですが」

「構わん。好きにしろ」

春成が席を立ったのを見て、朝餉の時間に終わりが来たことを春香は悟った。

私室に戻り、灰色の袴を穿く。黒い羽織を着る。左腰には、真っ赤な鞘で包まれた打刀と脇差を差す。

(留学生……リズ、と言ったか)

玄関に向かい、大陸からやってきたブーツというものを履いた。

(恥ずかしい様は、見せられんな)

庭の厩まで向かう。小鳥の鳴き声や葉の擦れる音は、ここに届くこともない。春香ら狩人を補佐する侍たちが、エイヤ、セイと声を挙げて稽古に励んでいるのだ。そんな彼らに呼び掛けるため、春香はスーッと息を吸った。

「留学生を迎えに行くぞ! 先に着いた三人を連れて行ってやる!」

そう声を響かせれば、上裸の男衆がわっと駆け寄ってくる。わたくしが、いや某が、と言いつつ、まるで雪崩のように厩の前で積み重なった。春香の溜息に、皆失笑するのであった。

さて、四人と四頭は、この雷天らいてんの街から、北西へと進む。速歩の馬上で、侍の一人がこう言った。

「若様も、どんな美人さんが来るのかってドキドキしてるんじゃあないですか?」

「やめてくれ、そういうことではないんだ」

二年前。春香は喪失を経験した。まだ、前を向けそうにはない。

木々の並ぶ街道を抜け、港町へ。山から見下せるだけが全ての、小さな町だ。だが、既に、真っ黒な蒸気船が桟橋の横につけてあった。

「おっと、もう着いてるようですな。急ぎましょう、若」

トトットトッ、と地面を蹴る音を聞きながら、春香は斜面を下った。

木と漆喰の町を進んでいると、汽笛の音を聞きつけて外に出る町民の姿があった。

「なんだい、あのお船は……」

昼時の蕎麦屋から、そんな呟きも聞こえてくる。桟橋に至れば、最早ない。

丁度、舷梯を下る少女がいた。赤い着物に、白い袴、白い帯だ。春香は、その顔をじっと見つめてしまった。金を編み込んだような、肩ほどまでの金髪に、空でも敵わないほどに青く大きな瞳。手綱を握る手に、自然と力が籠る。

が、まずは挨拶をしなければならない。彼は下馬し、手綱を引きながら彼女へと近づいた。

「雷天より参った、雷業春香だ」

「リズ・ユヤデオナです。よろしくお願いします」

リズと名乗った少女は、そっと握手を求める。応じた春香はその手の小ささに、かつての恋を重ねてしまった。

「馬に乗ったことは?」

内心は隠して、彼はリズに尋ねる。

「手綱を握ったことは、ありません」

「そうか。なら乗るといい」

リズを腕の中に納めるような恰好で、彼は馬の腹を蹴った。

「荷物はないのか?」

「今晩、船便が届くそうです」

街の中を抜けていると、リズの金髪は耳目を自然と集めていた。

「その、春香、さん? は既に狩人としてお仕事を?」

「ああ。父の妖魔狩りを手伝うことがある」

「凄いんですね、私と年が変わらないのに……」

馬の列は森の中に入る。

「東方語が随分と上手いようだが」

木漏れ日を受けながら、春香はそう口にした。

「歴史家の卵ですから。広く歴史を学ぶには、広く言語を理解しなければならないんですよ」

「博聞強記、か……」

道程の四分の三を過ぎた頃。太陽も傾いている。開けた泉に立ち寄り、馬に水を飲ませていた。

「歴史家というのは、何をするんだ」

冷水に触れるリズへ、春香は上から尋ねる。

「時に、人は歴史を歪めようとします。それを防ぐために、多くの記録を読み込み、真実を見つけ出す。そういう仕事です」

「随分と重い使命なのだな」

そう彼が呟くように言った時、後方の茂みでガサガサと音がした。と思えば、腐乱した犬の死体のようなものが、飛び掛かってくるのだ。

「きゃあっ!」

リズが声を挙げた刹那、春香は振り向き様に刀を一閃。斬り捨てた。その刃には、稲妻が走っている。

「妖魔か。気づかなかった」

「あ、あれが妖魔なんですね……」

リズは震える声を出す。振り返った春香は、彼女の体が馬にへばりついているのを認めた。

「怪我はないか」

「は、はい。妖魔というのは、確か──」

「──死骸に魂が入り込んだ、怪物。安心しろ、狩人がいる限り、誰も傷つけさせはしない」

脚ががくがくと笑っている彼女を、春香の腕が馬に乗せる。

「急ごう。また出るやも──」

そこで、進行方向の東から激しい蹄の音が響いてきた。

春香も、侍たちも、黙って刀を抜いた。何奴か、と思いながら息を潜める彼らは、すぐにその正体を知る。

「伝令、でんれーいっ!」

森から飛び出すなり、馬を操っていた侍が叫んだ。

「若様! 春成様が、お斃れに!」

「……何?」

刀を納めることも忘れ、春香は低い声で問う。

「敵か、妖魔か⁉」

彼がそう問いを重ねる間に、伝令の侍は跪いていた。

「……病でございます」

病、の三音で彼は全てを理解する。

幽世竈食かくりよへぐいの病……!」

狩人なら避けられぬ、致命の病。そう、春成は、死んだ。

이 작품을 무료로 읽으실 수 있습니다
QR 코드를 스캔하여 앱을 다운로드하세요

최신 챕터

  • 幽世の狩人~不死の少女と妖魔狩りの少年~   #2 故郷に背を向け

    「幽世竈食の病……!」 馬上の春香は、肺腑を握り締められているような声を出しながら、父の現状を理解した。「もしかして、致命の病というあの病気ですか?」 春香の腕の中で、リズが問う。答えはすぐに、彼から発せられた。「狩人は、幽世の存在たる妖魔の肉を喰らい、力を得る。だが……」 話しながらも侍と狩人は視線を交わして、馬を東へ走らせる。「力を行使していけば、いずれ狩人自身が妖魔と成る。それが幽世竈食の病。父も、ここ数年は剣術以外の稽古をつけてくれなかったが、まさかここまでとは思わなんだ……!」 ドドッ、ドドッと蹄が激しく地面を打つ。空には俄かに雲が出てきた。そこに、赤い狼煙が上がる。「赤……妖魔が来たってのか⁉」 侍の一人が叫んだ。そして、答え合わせが行われる。黒雲垂れこめる空に、翼を持った異形の者たちが列を成して現れたのだ。「わ、若様! 港町が!」 振り返れば、黒い煙が幾条も立ち上っている。燃えているのだ。「どうします、港町を救いに行くには、間に合いませんぜ」 「……雷天に戻るぞ」 まさに帰らんとしている故郷の名を口にして、春香は奥歯を噛み締める。「今から向かって、救える可能性が高いのは雷天だ。更に言えば、このままでは父上の亡骸を妖魔に利用されてしまう。急ぐぞ!」 「応!」 たった四騎で何ができるか、ということを春香は考えないようにした。これ以上何も失いたくない。その一心で、馬を走らせた。 雷天を見渡せる丘の上にやってきた。方々で火の手が上がっている。瓦が散乱している。死体、血溜まり、はらわた。「若様、屋敷を!」 街の東端、日の出ずる所に、雷業家の屋敷はある。それが、焼け落ちていた。スウッ、と春香の顔から血の気が引く。「……嘘だ」 視界が左右に揺れるのを感じた彼は、衝動的に馬の腹を蹴った。襲歩で駆け降り、目抜き通りを突き抜ける。猿や鳥のような妖魔が襲い掛かるが、雷を纏った刃は紙でも裂くにも似た容易さで、敵を斬り捨てる。 刀だけは研ぎ澄まされていた。彼の頭はぼうっと熱を持って、沸いているのかと疑うほどに思考を奪われている。「──ん」 血潮が噴き出て、白かった刀が真っ赤に濡れる。また喪うことになる。それだけは、それだけは──!「春香さん!」 リズの叫びで、春香はハッとした

  • 幽世の狩人~不死の少女と妖魔狩りの少年~   #1 瑠璃色の瞳

    「俺とお前なら、最強になれる」 春の風が木々を揺らす中、弟は兄の言葉を聞いていた。紅玉のような瞳で、兄の銀朱の瞳が向かう先を見る。どこまでも青い空が、葉の隙間から覗いている。 「師匠だって超えられる。妖魔だって龍だって狩れる、最強の狩人に、だ。だろ、春香」 春香と呼ばれた弟は、まだそう大きな肉体をしていない。まだ数えで十一なのだ。 「だが、兄上。大陸に行くんだろう? 武者修行だとか……」 岩の家に並んで腰かける二人。兄の銀髪と、弟の黒髪。 「四年もすれば帰ってくるって。そんときゃ手紙を送る。港で出迎えてくれよ」 兄の名は、鷹眼。その名に違わぬ鋭い瞳が、再び弟と見える時。二人の夢は、終わる。 ◆ 鶏の朝鳴きが屋敷に響いた。薄明の空の下で、男たちが動き出す。庭の井戸の周りに集えば、褌姿の彼らは、 「若様、おはようございます!」 と頭を下げて叫んだ。 「ああ、おはよう」 若様。その名を雷業春香という。彼もまた、褌だけだ。男たちにも負けず劣らず、筋肉質な五尺八寸の体を明るくなり始めた空の下に晒している。肉体から滴り落ちる水はそのままに、縁側へと向かう。 「しかし、若様は早起きでいらっしゃいますな。流石、雷業家の跡取りというだけのことはある」 「お世辞はいい。水浴びを済ませろよ」 総髪の春香は縁側に置かれた手拭いを取り、体を拭き始めた。桃の花が散って、板の上に落ちる。 すっかり水滴を拭った彼は、足の裏を拭いてから縁側に上がる。座敷に入ると、老婆が待っていた。 「朝餉の用意が出来ておりますよ」 「ありがとう。腰の様子はどうだ?」 「ご当主の手配してくださった薬がよく効いております。ご心配なさらず」 腰の曲がった老婆に連れられ、春香は奥座敷へ。既に配膳も終わり、コの字に膳が並んでいた。春香は、上座の斜め前に着く。 「父上、おはようございます」 「うむ」 父、春成。息子と同じ、紅玉のような瞳と夜の色をした黒髪だ。が、両頬には鱗めいたものが浮かんでいる。そこから首を這い、胸元にまで伸びる。ただの紋様ではなく、死期の近いことを告げる、狩人にとっての砂時計だ。 「兄様、森の様子はいかがでしたか?」 父の鱗が、また増えていることに顔を背けるしかなかった春香は、向

더보기
좋은 소설을 무료로 찾아 읽어보세요
GoodNovel 앱에서 수많은 인기 소설을 무료로 즐기세요! 마음에 드는 작품을 다운로드하고, 언제 어디서나 편하게 읽을 수 있습니다
앱에서 작품을 무료로 읽어보세요
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status