Alle Kapitel von ストーカーに殺された私、死に戻って冷徹社長の偽装妻になったら、娘ごと溺愛されています: Kapitel 11 – Kapitel 20

52 Kapitel

第11話 社長とお買い物

 翌朝。見慣れない天井が目に入った。(あれ、ここはどこ?) ぼんやり考え。ここが瓢社長の家だと認識した途端、一気に意識が覚醒した。「んー……」 陽奈がもそっと動いた。「あれ…ママ。ここ、しゃちょーさんのおうち?」「そうよ。覚えてる?」「うん。ピカピカのおうち」 陽奈の適応能力のすごさよ。無邪気な笑顔を見て、私も自然と笑みがこぼれた。 身支度を整えてリビングに向かうと、すでに社長がキッチンに立っていた。「おはようございます。よく眠れましたか?」「あ、おはようございます」「しゃちょーさん、おはよ~!」 陽奈が元気よく挨拶すると、社長の表情がぱっと明るくなった。「おはよう、陽奈ちゃん。ちゃんと眠れた?」「うん」「お腹は空いてる?」「うん。すいた!」「じゃあ、一緒に朝ごはんを作ろうか」 社長は陽奈の手を取って、キッチンへと案内した。「陽奈ちゃんは、たまご焼きは好き?」「だいすき!」「よし、じゃあ一緒に作ろう。陽奈ちゃんはまぜまぜ係をお願いします」「はーい」 社長が陽奈に小さな泡立て器を渡すと、彼女は嬉しそうにボウルの中の卵を混ぜ始める。 その光景はまるで理想の家族そのもの。 危険な状況であることには変わらないのに。 なぜか微笑ましい朝。 心にゆとりができたのは、社長のおかげね。 自分で探したホテルに泊まっていたら、こうはならなかった。 一人で恐怖と闘っていたはず。 感謝しなきゃ。「相沢さんは、コーヒーでも飲みながら座っていてください」「いえ、私も手伝います」「昨日大変なことがありましたから、身体を休めましょうね」 社長に優しい笑顔を向けられた。 あまり親
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-07
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第12話 おいしいものは、わけっこ

 驚愕している私に目もくれず、陽奈は片っ端から「あれもいい」「これもいい」と上機嫌。 確かにかわいくておしゃれな服多いけど! それに比例してゼロの数も多いの!! シングルマザーの苦しいか家計事情……わかって!!「ママ~。これがいい~」 陽奈が選んだのは、人気の子供服ブランドのものだった。 セーラーカラーのフォーマルワンピースで、水平さんの制服をイメージしたカラーに、胸元はベアの刺繍。 クマ好きの陽奈には、さぞ気に入ったことだろうと思うけれど!「ひ、陽奈。このお洋服はちょっと……」 3万円ッ。いいお値段する~っ。 普段買っているお洋服が、何着も買えちゃうよ~。「いいね、陽奈ちゃんに似合っているよ。これにしよう」「しゃ、社長……!」 私は彼の腕を取り、ぶんぶんと首を振った。口パクで『お金が足りません』と付け加えた。「大丈夫です。僕が払いますから」「社長、そんな……! こんなに高いものを買っていただくわけには……!!」「問題ありませんよ。陽奈ちゃんが喜んでくれたら僕も嬉しいです」 そういうと瓢社長は慣れた手つきで店員さんを呼んだ。陽奈のサイズを測ってもらい、今の陽奈のサイズなら90センチがちょうどいいということで、そちらを着せてもらった。「お嬢様にとってもお似合いですね」 店員さんは、社長に向かって笑顔で言った。 陽奈は鏡の前でくるくると回っている。本当に嬉しそうだ。「やったあ~! ママ、かわいい?」「とってもかわいいよ」 陽奈の笑顔を見ていると、値段なんてどうでもよくなってしまう。 この子が喜ぶなら……。 でも社長に理由もなく高額なものを買ってもらうなんて、やっぱりできない。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-08
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第13話 刺すような視線

 社長は陽奈を正面から静かに見つめ、柔らかく微笑んでいる。普段は会社の顔として隙のない人なのに、今はただの優しい大人の男性に見えた。それはまるで、娘を愛おしく思う父親のようで――「こんな風に過ごすのは、初めてなんです」  ぽつりと社長がつぶやいた。「え?」 「特にうちは厳しい家で、休日に家族連れでカフェへ行くなんて無縁でした。楽しそうな家族が過ごす時間は、自分は縁遠いものだと諦めていました。……でも今は、その世界の中にいるのですね」 「社長……」 「こういう時間を持つことに憧れていました。思わぬ形で憧れが叶うなんて夢みたいです」 にこっと笑ってくれた。  社長は私なんかの想像も及ばないほどに大変な世界で生きているんだ。  私と陽奈にとって当たり前の日常が、彼にとってはそうじゃない。 「私は逆に日中仕事を休んでカフェでお茶を飲むなんて……これぞ非日常ですよね」  私も笑った。社長が楽しそうにしているのだから、それでいいのかなと思った。  2度目の人生なんだから1度目よりうまく生きたいし、私に関わってくれた人が少しでも幸せになってくれたらいいなと思う。「社長の僕が言うのもなんですが、たまにはズル休みしてもいいですよ」「そんな……もうこれきりにしておきます」「真面目ですね。責任感があっていいのですが、それだけではまた倒れますよ」 彼が優しい笑顔を見せてくれた。「幸せというのは、この小さな日々の積み重ねなんでしょうね。改めて思います」  私はただ、必死に毎日を生き抜いてきた。  幸せの形なんて考える余裕すらなかったから。 「そうですね。僕は会社やグループのことばかり考えていましたが、自分のプライベートも大切だと気が付きました」「同感です。私は、娘との時間をもっと大切にします」「会社を1日休んでも会社が傾いたりすることはありません。これからはもっと社員が有休を取りやすく、働きやすい環境を作ろう
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-09
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第14話 偽装恋人の提案

 買い物を終えて社長と共に彼のマンションへ戻ってきた。相変わらず豪華な入口、玄関、そして部屋。うう…慣れない!  室内は外の冷たい空気とは対照的に、ほんのりと暖かい空気が満ちていた。最新の家だから、温度管理もされれているのでしょう。とにかく心地いい。 順番に玄関をくぐると、陽奈は靴を脱いで揃えたら、リビングへ駆けていった。お留守番をさせていたもかちゃんを両腕に抱き、「ただいま~、もかちゃん」とお喋りしていた。 彼女にとって、この家は宿泊先のホテルとでも思っているのだろう。恐れも遠慮も感じられない。  瓢社長は荷物を下ろした後、陽奈がお気に入りのワンピースをひらひらさせながら踊っているのを微笑んで見つめている。 ブー ブー ハンドバッグの中でスマホが小さく震えた。着信音ではなく、メールの通知だ。  何気なく取り出してメールを見た瞬間、全身の血の気が引いていくのを感じた。  差出人は「不明」。件名は空白。  そこに記されていたのは、たった一言―― 『おかえり』 「――っ!」 思わず声にならない息が漏れる。  手が震えてスマホを取り落としそうになった。  どうして今、帰ってきたことがわかるの――? 背中を氷の刃で撫でられたみたいに悪寒が走る。  ここは社長のマンション。  当然、社長の家で厄介になることは誰にも言っていない。  なのにどうして……。 「相沢さん?」  異変に気付い社長が眉を寄せて近づいてきた。  私は息を詰まらせながらスマホを差し出す。 「み、見てください……これ……!」  彼は画面を一瞥すると、瞳を細め、すぐに険しい表情を作った。「……なるほど」 その低い声を聞いた瞬間、膝から崩れ落ちた。  恐怖で立っていられない。  スマホを握る手も震えが止まらない。 「いや……いやです……! もう……!」  恐怖で息が詰まり、涙がにじんだ。  次の瞬間、温かなものに包まれる。  社長の腕が、私の体を抱きしめていた。 「大丈夫です。僕がついています」 耳元に落ちるその声は驚くほど落ち着いていて、強い。  震える心臓に直接届くようで、少しずつ呼吸が整っていった。「でも……ここまで知られているなんて……どうしたら……」 「だからこそ対策が必要です」 彼は抱きしめたまま、冷静に言葉を続ける。「この状
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-10
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第15話 まるで父親のように

 「ママ~! いっしょにあそぼ~! もかちゃんもいっしょだよ」  振り向けば、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた陽奈が無邪気に笑っていた。 そうだ。私は陽奈との生活を守らなきゃ。どんな手段を使っても、なにをしても。「社長、これからよろしくお願いします」 決意を込めて彼に伝えた。これから私は、瓢社長の偽装恋人になるんだ。  恋人(偽装!)になることを決めた私たちは、その日の夕方、陽奈を交えて今後の生活について話し合った。「ママとしゃちょーさん、こいびとになるの?」 恋人の意味をよくわかっていない陽奈が、首をかしげながら聞いてきた。社長と私は顔を見合わせた。どう説明すればいいのだろう。「ママと社長は……お友達以上に仲良しになったのよ」「へぇ~」 陽奈は特に疑問に思う様子もなく、あっさりと受け入れた。子供の順応性って本当にすごい。「陽奈ちゃん、これからしばらくここで一緒に住むことになるけど、いいかな?」 社長が優しく聞くと、陽奈は嬉しそうに頷いた。「うん! ピカピカのおうちだいすき!」 その無邪気な笑顔に、私も社長も自然と笑みがこぼれる。「よし、じゃあ今日の夕飯は、どんなメニューにしようかな」「あ、夕食は私が作ります! これからお世話になるのですから、そのくらいさせてください」「じゃあ、お願いしてもいいですか?」「もちろんです。冷蔵庫を見せてくださいね。なにかできると思います」 実際に冷蔵庫を開けてみると、意外にも食材が充実していた。野菜や肉、調味料まで一通り揃っている。「社長は普段、お料理されるのですか?」「たまにですが。最近は忙しくて外食ばかりでしたけど」 私は久しぶりに腕を振るうことにした。 普段は時間に追われて簡単なものしか作れなかったけれど、今日はゆっくり料理ができる。もとも
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-11
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第16話 お互いのことを知ろう

 前の夫は陽奈が生まれてからも、子育てに参加することはなかった。「仕事で疲れている」と言って、陽奈の世話はすべて私任せ。 夜泣きで起きることもなければ、一緒に遊ぶこともなかった。 しまいには「葵は変わったね」と言い出す始末。 私が世話を焼かないことに不満を漏らし、好物を作ってくれなくなったと愚痴り、仕事にかまけて家に帰ってこなくなった。今思えば、浮気でもしていたのだろう。 でも、社長は違う。 陽奈の小さな成功にも心から喜んで、一緒に楽しんでくれている。こんな人が陽奈のお父さんだったらよかったのに、なんて贅沢なことを考えてしまった。 「ママ~、みて~! こんなにたかくなった!」「わあ、すごいね陽奈!」 完成した積み木のタワーを見せるため、私を呼びに来た陽奈を抱き上げると、社長も立ち上がった。「陽奈ちゃんは器用ですね。きっと将来は素晴らしい建築家になれますよ」「けんちくか?」陽奈が社長に尋ねた。難しい単語だったのでわからなかったようだ。「建築家というのはね、えーっと……おうちを作る人だよ。建築家の人は、いろんな建物が作れるんだ」「わぁ、つくりたい!」 陽奈の純粋な反応に、私たちは顔を見合わせて笑った。 それから順番にお風呂に入り、陽奈を寝かしつけた後、私はリビングに戻った。 社長は読書をしながらほんの少しアルコールを摂取している。傍らに置かれている便は、高そうなモルトウィスキー。「お疲れさまでした。陽奈ちゃんはもう眠りましたか?」「はい。今日は楽しかったみたいで、すぐに眠ってしまいました」「そうですか」 私もソファに腰を下ろした。急に静かになったリビングで、二人きりの時間が始まる。「今日は本当にありがとうございました。社長に遊んでいただいて、陽奈も喜んでいました」「こちらこそ。僕も楽しかったです」 社長の笑顔にドキリとしてしまう。正直言って複雑な気持ちだった
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-12
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第17話 本当の家族のように過ごさないか、という提案

 社長に促され、私たちは夜景の見える窓際に移動した。街の光が宝石のようにきらめいて、昼間とはまた違った美しさがある。「きれいですね」「ええ。でも、最初に住み始めた頃はよかったのですが、だんだん侘しくなりました」 どう答えていいのかわからなくて、暫く様子を伺った。無言の時間が続いた後、社長が口を開いた。「踏み込んだことをお聞きしますが、相沢さんはどうして離婚されたのですか?」「お恥ずかしい話、前の夫に捨てられたのです。私に魅力がなかったので、貯金を持ち逃げされて、離婚届だけ置いていかました。でも、良かったと思っています。今、陽奈と二人で幸せですから」「その男はもったいないことをしましたね」 彼はわかりやすく怒りを滲ませていた。「僕だったら、相沢さんみたいな魅力的な方を離したりしないのに。今までさぞご苦労されたことでしょう」 そんなことを真顔で言われて、ドキっとしてしまう。 社長は私を慰めるためにそう言ってくれただけだから、勘違いしちゃだめ!!「ありがとうございます。えっと……社長はご結婚についてどう思われているのですか?」「結婚ですか」「今回の縁談をお断りしても、また同じように親族の方に言われてしまったら困るのではないですか?」「まあ、ねじ伏せるしかないでしょうね。実は正直言って、結婚に良いイメージがないんです」「理由を聞いてもいいですか?」 社長が頷いた。「うちの家は代々政略結婚を繰り返し、家を繁栄させてきました。両親も愛情よりも家同士の結びつきを重視した結婚で、温かい家庭というものを見たことがありません。常に厳しい教育と争いが繰り広げられる家でした。そこから逃れたくて自分で会社を興したのですが……結局寂しさは埋められなくて、時々空しくなるんです」「そうだったのですか」「父は仕事、母は社交界で忙しく。家族で集まることや食事をしたのも数えるほどです。だから僕には、幸せな結婚生活が想像できま
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-13
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第18話 ホットケーキの約束

「本当の家族……」「ええ。偽装だとしても、せっかく縁あって一緒に住むことになったのですから。きっといい思い出になると思います」  なるほど。それは社長なりの考えなのね。「そうですね。楽しい時間にしましょう」私は頷いた。「はい、ぜひ」 社長が微笑む。その笑顔はいつもの会社での表情とは全然違って、とても穏やかで優しい。  ほんとうに、家族として愛されているのではないかと勘違いしてしまうほどに―― 「では、僕たちはまずお互いの名前の呼び方を改善しないといけませんね」「確かにそうですね。恋人なのに『社長呼び』はおかしいですものね」 えー……でも、なんて呼べばいいの?  瓢真人(ひさごまさと)だから、真人さんって呼べばいいのかな……。「なら、呼び方を変えましょう。真人と呼んでいただけませんか? 僕もあなたのことは葵さんとお呼びします。恋人なら、名前で呼び合った方が自然でしょう?」 いきなりハードル高ッ…!!「あ、じゃあ……真人、さん……」 名前で呼び合うだけで、なぜかとても特別な関係になったような気がした。偽装だと分かっているのに、すごくドキドキする。「じゃあ、そろそろ休みましょうか、葵さん」「そうですね、真人さん」 あまりのぎこちなさに、思わずふたりで笑った。偽装っぷりが半端ない。「徐々に慣れて行きましょう」 すっと右手を差し出されたので、私も彼の手を握り返した。「今日は本当にありがとうございました。真人さんのおかげで、陽奈も私も安心して過ごすことができました」「僕の方こそ、ありがとう。楽しい時間でした」 そして、少し迷うような表情を見せてから、「葵さん、これからよろしくお願いします」と、微笑んでくれた。 真人さんの優しい笑顔に思わず胸が高鳴る。「は、はい、こちらこそ……」 今の私には、それだけ返すのに精いっぱいだった。  ※  翌朝、私は真人さんより早く起きて朝食の準備を始めた。これからストーカーを捕まえるまでは真人さんの家でお世話になる。せめてなにか役に立ちたかった。昨日冷蔵庫を見て、朝食くらいは作れそうな材料は揃っていたので、おいしいご飯を食べてもらおうと考えた。「おはよう。もう起きていたんですね」 キッチンに真人さんが現れた。「はい。おはようございます。朝食を作ろうと思いまして」 「ありがとう。助かります
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-14
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第19話 イケメン同僚

 陽奈を保育園に送迎した後、出社した。真人さんと同時に家を出たけれど、陽奈の送迎の分、私は遅く出社する。「おはよう相沢さん。体調はどう?」 同じデジタルクリエイティブ課で働いている、後輩の神田季楽(かんだきら)君、31歳が声をかけてくれた。  サラリと整えられた焦げ茶の髪が目元にかかり、どこか若々しさとアンニュイな色気を漂わせ、鋭い顎のラインが輪郭を際立たせている男性。イケメンで、この部署一番の人気者。  この部署は、主にクライアントの依頼を受け、Webサイトのデザイン、映像制作、デジタル広告の企画、SNS運用、アプリ開発など、幅広い業務を担当する。私と神田君は、SNS運用やデジタル広告の企画を担っている。 「あ、おはよう。休みを取って迷惑かからなかった?」「大丈夫。乗り切った。でも、残業しない宣言して、稼がなくても大丈夫なの?」 神田君は私の懐事情やシングルで大変ということをある程度知っていて、理解してくれている。  以前の案件で残業が一緒になった時に成り行きでお互いの話をしたのがきっかけ。「うん。これからは娘との時間を大切にしようと思って」 神田君は私が残業していると、いつも黙って助けてくれる理解者だ。  彼は独身・長身・イケメンといろいろ揃っているため、好物件男性として有名だ。彼と恋仲になろうと必死な女性社員や取引先の多いこと!  しかし彼は最近婚約者ができたと発表していた。将来を誓い合った女性がいるため、皆様のご期待には応えられない、とのことだった。密やかにファンクラブまで結成されていたので、大変惜しまれた経緯がある。「ねえ、神田君の婚約者ってどんな方なの?」 気になったのでなんとなく聞いてみた。「相沢さんまで俺のこと調査するんだ?」 「あ、いや…そういうわけじゃ……」 確かにそんなこと聞かれても嫌なだけよね。悪いこと聞いちゃったな。  申しわけなさそうな顔をしていると、神田君がクスっと笑った。「いいよ。相沢さんは別にそんなつもりで聞いたわけじゃないでしょ。俺の婚約者は、かわいらしい女性だよ。優しいのは当然なんだけど……目がぱっちりしていて、笑うとかわいくて、唇がぷにぷにしているんだ。キスしたらおいしいだろうな~って思うようなカンジ」 よほど好きなのね。彼女を想う顔になった神田君が、「出会いについて教えてあげるね」と語
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-15
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第20話 部長と営業部の男

 慌てて振り返ると、柱の陰からじっとこちらを見ている視線と目が合った。  そこに立っていたのは――デジタルクマーケティング課の部長。  彼は社歴が長く、課も違うし、私の直属上司でもないのに、なぜか気に入られてなにかと話しかけてくる人物。  彼の名前は田原章夫(たはらあきお)、43歳。年齢よりも老けて見えるその外見は、ぶよぶよとした体に油っぽい額、糸のような目に、冬だと言うのに汗を滲ませたシャツと、どう見ても清潔感という言葉から最も遠い印象の男性だった。  その部長が、ニヤ、と私を見て笑っている。  あまりのおぞましさに背筋が寒くなり、目を逸らすと、何食わぬ顔で彼は自分の課に戻っていった。 (……まさか。彼が、ストーカー?)  嫌な予感が背筋を這うように走る。  あのねっちりした視線。  限りなく犯人に近い気がする。  証拠もないのに騒うのは悪いとは思うけれど。  このこと、真人さんに相談してもいいのかな……。  仕事をなんとかこなし、昼休憩を少しずらして田原さんを避けるようにしていると、営業の花菱篤郎(はなびしあつろう)さん、28歳が声をかけてくれた。海晴ちゃんと同じ年の営業マン。  彼がクライアントから案件を取ってきたら、デジタルクリエイティブ課に案件を回して企画や戦略を立て、時にはデザインをお手伝いしたりするから、営業部とは接する機会が多くある。  サラサラの黒マッシュルームヘアに、黒の太淵眼鏡。真面目を絵に描いたような男性だ。「相沢さん。さっきもらったデータ、おかしな箇所がいくつもありましたよ」 「あ、ごめんなさい」 ぼんやりしすぎよね。データ入力を間違えるなんて。初歩ミスもいいところだ。「こちらで修正しておきましたけど……なにかありました?」 「えっと……なにもないの。ごめんなさい、最近体調が悪くて……」 「そうですか。インフルエンザなんかが流行っていますから、ボクにうつさないように気を付けてくださいね」 「ええ。気を付けるわ。ごめんなさい」 なんというか……自己中心的な話し方よね。  多分、不適切なデータを渡したから不愉快になったのだろう。完璧主義っぽいし、ミスらないように気を付けよう。 はあ。仕事したくないな。  テンション上がらない、と思っていたら神田君に肩を叩かれた。 「笹川さん、花菱に嫌味言われて
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-16
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