Alle Kapitel von 夫を送る日、息子はいなかったーー榊原家の秘密: Kapitel 51 – Kapitel 53

53 Kapitel

51話

「昨日、英明さんに電話した。何にどこまで出してくれるのか、聞いたんだ」 湊が寝てからかけた電話で、直人は先にそう言った。 若菜は居間の椅子に座り直した。今日のことを書いたメモの横に、圭吾のファイルを置いている。 「何て?」 「金額は、そのとき決めると。大きな金が必要なことは、決める前に話せと言われた」 「話したら、あの人がいいと言うまで待つの?」 「そこを聞いたら、相談もせず金だけ出せと言うのかって」 若菜は目を閉じた。助けるという言葉だけを、何度も思い返していた。先へ進めば、何をするにも英明の返事を待つことになるのかもしれない。 「まだ返事はしていない。お前と話してからにすると言った」 「うん。……今日、圭吾のことで聞いたことがあるの」 若菜はメモへ目を落とし、本邸での話を伝えた。 圭吾が帰ろうとしたこと。英明が腕をつかみ、肩を押し戻したと言ったこと。頭を打った場所も、若菜が当時聞いていた話にはなかった。 直人は途中で一度、短く聞き返した。 「本人が、そう言ったんだな」 「うん。祥子さんと相馬さんもいた」 祥子が葬儀前から知っていたことまで話すと、若菜は携帯を膝へ下ろしかけた。まだ通話中だと思い出し、耳へ戻す。 「今、大丈夫か」 直人の声がした。 「聞いたときより、今のほうが……」 続きを言えなかった。人に話すと、英明の
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-11-03
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52話

「ここ、以前にも来たことがあるんですか」 若菜は駅から歩きながら尋ねた。 修哉が持っていた案内には、古い商店街の写真が載っている。大きな美術館ではなく、通りに面した小さな展示室だった。 「何度か。気になる展示があると、ひとりで寄ります」 「今日は、私がいてもいいんですね」 「いてほしくて、誘ったんです」 修哉は言い、先に入口へ向かった。 若菜はその背を追った。さらりと聞き流せるほど、そういう言葉に慣れてはいない。彼がどんな顔で言ったのか、横に並んで確かめたくなった。 展示室には、雨の日の通りや、朝の市場の写真が並んでいた。若菜は傘を差してバスを待つ人々の前で足を止めた。 一枚の傘から、ふたり分の足が出ている。 「この人たち、近いですね」 修哉ものぞき込んだ。 「雨が強そうですから」 「それだけでしょうか」 若菜が小さく笑うと、修哉はもう一度写真を見た。 「俺は、後ろの店の看板を見ていました」 「看板?」 「隣より低いところに出ているでしょう。通りを歩いたら、どこから見えるのか気になって」 若菜は写真へ近づいた。雨宿りのふたりばかり見ていたので、その奥に店があることにも気づかなかった。 「修哉さんと見ると、違うところが見えるんですね」 「こっちの台詞です」 彼は傘の下を指さしかけ、手を下ろした。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-11-04
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53話

相馬から届いた封筒を、若菜は弁護士の前で開いた。 中に入っていたのは、本邸で見せてもらった連絡控えの写しだった。添えられた紙には、原本は手元に保管していることと、説明のために連絡してほしいという相馬の希望が書かれていた。 「この方が、ご主人の転倒を見ていたんですか」 向かいの女性弁護士が尋ねた。 「いいえ。圭吾とお義父さんが話していたときは、席を外していたと聞いています。こちらは、人を呼ぶ手配の控えです」 若菜は紙へ手を添えた。 ずっと、この家の中だけで見ていたものだった。榊原家の誰とも面識のない人が、その時刻を読み、相馬の連絡先を書き留めている。 若菜は手を膝へ戻した。 「ご自身が見たことから、順番に伺ってもいいですか」 そう言われ、若菜は持ってきたメモを開いた。 当夜、その場にはいなかった。夫は本邸で転んだと聞いた。英明が接触したことを知ったのは、一昨日だった。 何度も読んで準備したはずなのに、話し始めると順番が前後した。英明の言葉を思い出せば祥子の顔も浮かび、葬儀の日に言われたことまで口にしかける。 弁護士は急がせず、若菜が言い直すたび、記録した箇所を確かめた。 「いまのお話は、英明さんご本人の言葉ですね」 「はい。私がそう思った、ということではありません」 答えながら、自分がどれほど聞いてもらいたかったのかが分かった。 あの家では、圭吾のためになるのかと返された。知ってどうするのかとも聞かれた。ここではまず、何を聞いたかを尋ねてくれる。 それだけで、続
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-11-05
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